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そもそもどういうことだったかというと 4
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玉座の間を出ると、体中にまとわりついていた緊張感がすっと抜けて、ついでに腰も抜けて、私はその場にくずおれました。
「どうした。緊張の糸が切れたか」
「そ、そうみたいですー……」
アーレン様が引っ張りあげてくれました。私は頬が熱くなるのを感じながら「ありがとうございます」と言いました。
「そんなに顔を赤くしたところで、お前は色気も何もないから意味はないな」
……それ、今言うことですか?
ああアーレン様に差していた後光が消えていく。この人って結局こんな人なんでしょうか。
「とりあえず私の家に帰るぞ。グロリアが心待ちにしているだろう」
「あの……私の世界へは」
「戻るための術はイディアスが持っている書物に載っている。そのうち奪い取ってくるから、今は我慢しろ」
ええええ、すぐに帰れるわけじゃないのおおお。
いえ、でもアーレン様のせいじゃないですもんね。私は大人しく、「よろしくお願いします」と頭を下げました。
そして、「うっ」と固まりました。
「……どうした」
「く、首が……さっきずっと頭を下げていたせいで首が……」
ふ、とアーレン様が息を吹き出しました。
あ、笑ってる。初めての笑顔のはず。でもどうしよう、首が元に戻らなくて見られない。
「お前、あんな話題になったのに律儀にずっと拝礼をしていたのか。どうりで動く気配がないと思ったが……」
「だ、だって分からなかったんです!」
あ、勢いで首が戻った。
アーレン様はまだ笑顔でした。くすくすと楽しげに笑い、くしゃくしゃ私の頭を撫でます。あの、嬉しいより先に、せっかくグロリア様が結ってくれた髪が解けることが気になるんですが……
……でも、アーレン様の氷の溶けた笑顔。まるで子どものように無邪気で、何だか私の心にしみました。
さすがに玉座の間を出てからはエスコートしてくれるわけではないらしく、アーレン様は私から手を放しました。
アーレン様の後ろについて王宮の中を歩きます。今度は少しだけ周りを見る余裕ができましたが……もう、王宮の中の豪華さって言葉にはできませんね。どこもかしこもきらびやか。燭台は金色に輝いていて、花は見たこともないようなものばかり。剣と甲冑は凜々しくかっこいい。
うん、私の語彙では説明できません。
しばらくすると、
「アーレン!」
何だかとても地位の高そうな服装をした壮年の男性が、アーレン様を呼び止めました。
肩に星の勲章らしきものがいくつもついています。どれだけの地位の方なのかは私には分かりませんが、恐くて思わずアーレン様の背後に隠れてしまいました。
「アーレン、話は聞いたぞ。兄たちがとんでもないことをしたようだな?」
「ロンバルディア公……はい。おかげで大変迷惑しています」
国王相手に歯に衣着せぬにもほどがあるでしょ! 相手の方も、そんなに親しい間柄なんでしょうか。
私がこっそりアーレン様の横から顔を出すと、壮年の男性の視線が私をとらえました。
穏やかそうな面立ちの男性でした。がっしりとした顔の輪郭に、形は鋭いのに光が優しいエメラルドの瞳。あごひげを生やしていて、それも相まって威厳はたっぷりです。
でも口元の形は和やかで、とても話しやすそうな人物に見えました。
ええと……ロン……ロンバル……?
「ロンバルディア公。彼女が噂の娘です。トキネと申します」
アーレン様が私を紹介するので、私は慌てて頭を下げました。ロンバルディア公、ロンバルディア公! 良かった聞き逃さなかった!
「ほほう。やはり異世界人は顔立ちが少し違うな? 実は体の造りも違ったりするのか?」
ロンバルディア公様は興味深そうに私を見つめます。好奇心に輝く目ですが、不思議と嫌な感じがしません。
「体のほうは同じでしたね。ただ、魔力が膨大です。私でも恐ろしいほどの魔力を抱えています」
えええ私に魔力なんてほんとにあるの! しかも膨大ってどういうこと! アーレン様そこのところ詳しく!
っていうか、私の体見たんですかああああ! そこのところもっと詳しく、いや説明されたら恥ずかしさで墓穴に入りたくなるかもしれないけど、ああああ!
「そうか……魔力のことは私にはよく分からんが」
ロンバルディア公様は真剣な顔になり、アーレン様を見ました。
「兄たちは、何のために異世界召喚を行ったと言ったかね?」
「……『若返りの薬のために』と。ですので私がこの娘を預かり守ることに致しました。公、まさか陛下たちのお味方をなさるまいでしょうね」
「若返りか……また愚かなことを」
威厳のある人が口惜しそうな表情をしていると、迫力があります。周りの人間が、「この方が悔しがっておられる、何とかせねば」と思ってしまいたくなるような。
兄、と呼んでいるのは、話の流れからすれば国王陛下でしょう。となると、この方は当然陛下の弟君。地位が陛下の次に高い方なのでは……
「どうした。緊張の糸が切れたか」
「そ、そうみたいですー……」
アーレン様が引っ張りあげてくれました。私は頬が熱くなるのを感じながら「ありがとうございます」と言いました。
「そんなに顔を赤くしたところで、お前は色気も何もないから意味はないな」
……それ、今言うことですか?
ああアーレン様に差していた後光が消えていく。この人って結局こんな人なんでしょうか。
「とりあえず私の家に帰るぞ。グロリアが心待ちにしているだろう」
「あの……私の世界へは」
「戻るための術はイディアスが持っている書物に載っている。そのうち奪い取ってくるから、今は我慢しろ」
ええええ、すぐに帰れるわけじゃないのおおお。
いえ、でもアーレン様のせいじゃないですもんね。私は大人しく、「よろしくお願いします」と頭を下げました。
そして、「うっ」と固まりました。
「……どうした」
「く、首が……さっきずっと頭を下げていたせいで首が……」
ふ、とアーレン様が息を吹き出しました。
あ、笑ってる。初めての笑顔のはず。でもどうしよう、首が元に戻らなくて見られない。
「お前、あんな話題になったのに律儀にずっと拝礼をしていたのか。どうりで動く気配がないと思ったが……」
「だ、だって分からなかったんです!」
あ、勢いで首が戻った。
アーレン様はまだ笑顔でした。くすくすと楽しげに笑い、くしゃくしゃ私の頭を撫でます。あの、嬉しいより先に、せっかくグロリア様が結ってくれた髪が解けることが気になるんですが……
……でも、アーレン様の氷の溶けた笑顔。まるで子どものように無邪気で、何だか私の心にしみました。
さすがに玉座の間を出てからはエスコートしてくれるわけではないらしく、アーレン様は私から手を放しました。
アーレン様の後ろについて王宮の中を歩きます。今度は少しだけ周りを見る余裕ができましたが……もう、王宮の中の豪華さって言葉にはできませんね。どこもかしこもきらびやか。燭台は金色に輝いていて、花は見たこともないようなものばかり。剣と甲冑は凜々しくかっこいい。
うん、私の語彙では説明できません。
しばらくすると、
「アーレン!」
何だかとても地位の高そうな服装をした壮年の男性が、アーレン様を呼び止めました。
肩に星の勲章らしきものがいくつもついています。どれだけの地位の方なのかは私には分かりませんが、恐くて思わずアーレン様の背後に隠れてしまいました。
「アーレン、話は聞いたぞ。兄たちがとんでもないことをしたようだな?」
「ロンバルディア公……はい。おかげで大変迷惑しています」
国王相手に歯に衣着せぬにもほどがあるでしょ! 相手の方も、そんなに親しい間柄なんでしょうか。
私がこっそりアーレン様の横から顔を出すと、壮年の男性の視線が私をとらえました。
穏やかそうな面立ちの男性でした。がっしりとした顔の輪郭に、形は鋭いのに光が優しいエメラルドの瞳。あごひげを生やしていて、それも相まって威厳はたっぷりです。
でも口元の形は和やかで、とても話しやすそうな人物に見えました。
ええと……ロン……ロンバル……?
「ロンバルディア公。彼女が噂の娘です。トキネと申します」
アーレン様が私を紹介するので、私は慌てて頭を下げました。ロンバルディア公、ロンバルディア公! 良かった聞き逃さなかった!
「ほほう。やはり異世界人は顔立ちが少し違うな? 実は体の造りも違ったりするのか?」
ロンバルディア公様は興味深そうに私を見つめます。好奇心に輝く目ですが、不思議と嫌な感じがしません。
「体のほうは同じでしたね。ただ、魔力が膨大です。私でも恐ろしいほどの魔力を抱えています」
えええ私に魔力なんてほんとにあるの! しかも膨大ってどういうこと! アーレン様そこのところ詳しく!
っていうか、私の体見たんですかああああ! そこのところもっと詳しく、いや説明されたら恥ずかしさで墓穴に入りたくなるかもしれないけど、ああああ!
「そうか……魔力のことは私にはよく分からんが」
ロンバルディア公様は真剣な顔になり、アーレン様を見ました。
「兄たちは、何のために異世界召喚を行ったと言ったかね?」
「……『若返りの薬のために』と。ですので私がこの娘を預かり守ることに致しました。公、まさか陛下たちのお味方をなさるまいでしょうね」
「若返りか……また愚かなことを」
威厳のある人が口惜しそうな表情をしていると、迫力があります。周りの人間が、「この方が悔しがっておられる、何とかせねば」と思ってしまいたくなるような。
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