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第三章 旅立ち、および再会について
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旅立ち、および再会について
旅立ちの日。
村長は、お別れ会を、アーテ王女のために開いてくれた。
朝から、村長の一報を聞いた、さまざまな階層の人々が、アーテ王女を訪れた。
少年、少女、青年、大人、老人。
アーテ王女に親しみを持っていて、幾度か質問をしにきたものは、アーテ王女にお別れの挨拶をしようと、やってきたのである。
この日、アーテ王女を訪れたものの中には、別れを惜しむものがほとんどだった。
もっとも、アーテ王女を批判していた人々はというと、これで自分の周りから、こぶがいなくなる。清々とした気分でいたらしい。
アーテ王女は大きな村長が町のお菓子屋で作らせてくれたケーキを、おいしそうに頬ばったし、みんなと同じケーキを食べることができてよかったとおもった。
アーテ王女がみんなと歓談していると、
「ねえ、アーテ王女」
と、アーテ王女よりも小さいこどもがアーテ王女に質問した。
「アーテ王女はこの世を改造しにきたんでしょう?」
ん?
それはわからないな。
「もしも失敗すると、奈落の世界に落とされるって知ってる? いままで何人もの人が、その世界におとされて、惨めな生活をしているらしいよ」
そうなの?
「ねえ、アーテ王女は大丈夫だよね、これから、『奇跡を行う国』に乗り込んで、本格的にこの世界を改造するんでしょう? だけど、僕、王女ならできるとおもうよ、だって、これだけの人たちを、心酔してしまう、だけの力を、アーテ王女は持っているのだもの」
「改造」
「そう、よりよく変えること」
「そうね。あたしも出来れば、そうしたいと、おもっているわ」
そういうと、村長が、
「さあて、それではアーテ王女から一言、みんなにいただこう。アーテ王女とは、おそらく今日で、本当に最後の別れになりそうだ。なあ、アーテ王女。みんなに一言、何か気のきいた言葉でも何なり、お願いするよ」
そういうと、アーテ王女はホールの隅に立つと、そちらが壇上になった。
アーテ王女がみんなに話したことは、たいしたことではない。
何より、なにをいったらいいのかわからなかった。
鏡の港からきた王女。
それが、どういう価値付けを持っているのか、いまいちわからなかったからである。
アーテ王女は何とかその場を繕う話をするしかなかった。
「ありがとう。みんなのことは、一生忘れません。ここにいた期間はみじかかったけど、みんなからは、多くのものをもらいました。それを手に、わたしは、これからも生きていきたいとおもいます」
拍手。
アーテ王女のお別れ会は終わった。
すると、アーテ王女は村長の書斎に再びこもった。
本を読む。
探していたのは、この世界を改造して、それをしきれなかった人々のことである。
しかし、村長の書斎の本には、それを見つけることができなかった。
それと、鏡の港。
それも、村長の書斎の本には見つけることができなかった。
いったいどういう意味を持っているのだろう。
もっと大きな図書館に行けば、その秘密はわかるだろうか。
しかし、アーテ王女には欠点があった。
この世界で使われている文字が、読めないのである。
それが読めなければ、その秘密もわからないのではないか。
今から言語を一からやるか。
それもアーテ王女は念頭に入れていた。
読まなければならないのである。
アーテ王女おもった。
人に聞く?
そういえば、この世界を改造することができなかった人々は、奈落の世界にいるという。奈落の世界? その人たちの話を聞けば、あるいはこの世界の闇。この世界を支配しているものについて、いくらかの知識をえることができるかもしれない。
しかし、奈落の世界。
それは、いったいどういう場所なのだろう。
もしも、市民権を得ることができないと、アーテ王女はそこに落とされるときいた。
アーテ王女がおもったのは、自身もそこにおとされるのかということと、その世界がいったいどんな場所なのかということだった。
アーテ王女はこの、『奇跡を行う国』のすべてを知りたいと、そのように望んだ。
そうしてそのすべてを知ることが、この、『奇跡を行う国』をかえることにつながるのではないかと、そのようにおもわれた。
変える・・・・・・。
いったいなにを変えるのだろう。
アーテ王女がおもったのは、どうして変える必要があるのだろかということだった。
アーテ王女は本から顔を上げた。そうして、果たしてこの世界に、不思議なイメージを持った。変える。
変えなければならない世界なのだろうか。確かにおかしなところはある、しかし、破壊する? そんなことが必要な世界のようには、アーテ王女にはおもわれなかった。
どうしてこのときのアーテ王女が自身疑問を持ったのかいっておこう。すなわちアーテ王女はこのときはまだ、この世界、『奇跡を行う国』が抱える自己矛盾に気づいてはいなかったのである。しかし、このあと、『奇跡を行う国』へ旅立つことによって、それを知り、そうしてその世界と対決することになるのである。
アーテ王女が本を読んでいると、自然と時間は過ぎた。
いつの間にか、時刻は夜の七時を回ろうかというところにきていた。
旅立ちまで、あと、二時間。
アーテ王女が村長の書斎を出ると、ホールですぐに村長に出くわした。
村長は、アーテ王女を見つけると、
「やあ、あんた、アーテ王女。いっとっただろう。見物に行こう。花火さ。もうすぐ始まることだよ。夏祭りの最後のショウさ。見ないとなると、後悔することになるよ、本当にすごいんだから。この夏の、イベント」
アーテ王女はいった。
もしかしたら、そのあと駅へ直行することにはなりはしないか。
そのため荷物を持っていきたいのですが・・・・・・
「そうじゃな、それがいい、わしとしては、おまえさんにはいつまでもこの町で暮らしてほしいが、あんたはどうやら自身の使命に対して積極的であるらしい。わかったよ、もっておいで、あんたが集めた道具は、全部あんたにやろう。それをもって、どこなりへと、自分の気の向く方向へ進んでいくといい」
アーテ王女はすると、荷物を取りに、自室に戻った。
ブルーのデニムのかばん。
アーテ王女が再びホールに戻ると、
「ちょっとまって」
ローランド女史だった。
「王女、食事を忘れていますよ」
そういうと、ローランドさんはアーテ王女にまた、ビーフカツレツサンドを用意していてくれた。
受け取ると、お礼をいって、アーテ王女と村長は、夕闇の中、出かけていった。
花火大会は、激しい盛り上がりをみせていた。
町の、一番よく見える橋の上から、人々は、われが見よう、われが見よう。
夏の最後の祭典に必死になっていた。
橋は持つのだろうか、これだけの人を乗せて、どうやら、大丈夫らしかった。
アーテ王女が暗い夜空を見ていると、しばらくして、
しゅるしゅるしゅる。
派。
しゅるしゅるしゅる。
派
大きな花火が夜空にまった。
引き続いて、数個。
アーテ王女は夜空を見上げた。
夏の夜。
その空に舞う花火。
それは、この、夏祭りのラストにお誂えむきだった。
アーテ王女はうっとりした目で、夏の花火を見上げた。
赤。青。黄色。みどり。オレンジ。
あがっては散る花火は、みな、夏の夜の一重の悲しみに似ていた。
終了する祭りの、その花火。
それは、この、一時だけの間、続いた夏祭りをよく表しているようにおもわれた。
この花火のように、この町の人たちは終わる。
花火は夏祭りに終わりをあらわすと同時に、この町でのアーテ王女の暮らしの最後でもあった。
時刻は八時を回ろうかというとき、アーテ王女はこの町を去ることにした。
列車の時間がある。
それに乗り遅れたら、二度と『奇跡を行う国』にはいかれない、そのため二度と長橋国には帰れない気がアーテ王女にはしていた。
花火はまだ、続いていたが、アーテ王女には目的があった。
駅にむかって歩く。
村長は、花火に夢中らしかった。
たぶんアーテ王女が消えたことには気がついてはいなかっただろう。
町のみんなも夏祭りの最後の物語に夢中なのか、駅は、それまでの道は、ガラガラだった。
アーテ王女が駅に到達すると、列車がすでに待っていた。
アーテ王女は駅のホームに進入した。
すると、列車は、扉ごとに駅員がいて、乗車する客の切符を切っているのだろうか、そのようだった。
アーテ王女がそうした駅員の一人に近づくと、アーテ王女は乗車券を差し出した。
「よろしゅうございます」
駅員は切符を切って、
「Aの三六十五番のコンパートメントとなります」
アーテ王女は汽車に乗車した。
Aの三六十五番、Aの三六十五番。
探すと、それはすぐにみつかった。
扉をノックをする。
すると中から返事はない。
アーテ王女が戸を開くと、
ガラガラガラ。
扉はいとも簡単に開いた。
どうやら相部屋らしい。
アーテ王女が見ると、寝台が、四つ、部屋の中にはあった。
Aの三六十五番。
アーテ王女は自身の寝台を見つけると、荷物を戸棚にいれて、ベッドの上に座る。
ふかふかしたベッドは、まだ、洗い立てでシーツがしゃんとのびていた。
目的地に着くたびに、ベッドのシーツは交換されるのだろうか。
そうしてしばらくすると、アーテ王女は寝転がった。
今、何時ぐらいだろう。
アーテ王女は時計を持ってはいなかった。
しかし、感覚から、もうすぐ出発すると言うことが、想像できた。
九時。
しばらくすると、車内にアナウスがあった。
「ご乗車の皆様にお知らせいたします。当列車は急行『奇跡を行う国、オケストラバーグ』行き。まもなくの出発となります。お乗りのお客様は、ご乗車になってお待ちください」
もうすぐの発車らしい。
しかし、と、アーテ王女はおもった。
疑問は簡単である。
このコンパートメントには、ほかに三つ、ベッドがあるのに、ほかの客はいないのだろうか。
アーテ王女がおもっていると、それに、変化があるらしかった。
ドアの外にノックをする音がして、続いて人影が、入ってきたからである。
「いやはや、連日の猛暑だ。わたしはもう、本当に解けそうだよ。もしも氷だったらわしはもう解けてるな、いや、本当」
何か当たり前なことをいいながら入ってきた一団は、アーテ王女がすでにコンパートメントの中にいることに気がつくと、
「ああ、これはこれは、レディーがおいででしたか。なんだ、もしもいるんのだったらそういってくれればいいのに、どうして黙ってたんですか」
すると、今度はなにやらちいさな声の男が、
「なにをいっているのだよ、ウサギさん。あんた、入る前に、わたしたちが入ることが、中にいる人にわかるわけはないだろう。いったいなにを、不都合なことをいっているんだ」
「そうだったかね、小人の商人よ、わたし、何かそんなに無茶なことを言ったかね?」
「まあそれはいい、第一のご無礼はもうしてしまったことだ、これからは第二、第三のご無礼をしないように気をつけよう」
小人の商人?
ウサギ?
そういえば、アーテ王女には記憶があった。
ウサギ、小人の商人といえば、かかしとともに、初めてこの世界にアーテ王女がやってきた、船の中でであった面子と同じでないか。
アーテ王女が黙ってことの成り行きを見ていると、向こうのほうも、アーテ王女に気がついた様子であった。
「あれ? あんた、どこかであわなかったかな」
気づいたか。
「そうそう」小人の商人がいった。「あんた、確かトロンボンと、バンズの港町行きの船で、一緒のコンパートメントに乗っていた、人ではないかね」
そうです。
奇遇ですね。
また出会うことになろうとは。
アーテ王女がおもっていると、
「そうか、そうか」
さっきのレディーに対する対応はどこにいったのか、二人はずかずか部屋の中にはいってくる様子であった。相手がアーテ王女で、知り合いで、彼らは安心したのだろうか?
とにかく、そうして荷物を戸棚に納めると、おのおの、自身のベッドに座って(小人の商人は二段ベッドの上の席に、ウサギの助けをかりてのぼった)、
「まあ、運命というのは本当に奇遇なものだ。前は、バンズの港町で、今度はバンズの港から、『奇跡を行う国・オケストラバーグ』への夜行列車の中で、あんたに出会うとは・・・・・」と、ウサギがいった。「で、あんたどうしていたわけ? いままで、わしらはあのあと、ここから、『奇跡を行う国・オケストラバーグ』にいって、一商売していたというわけで、今がつまり、その、商売の二まわり目に当たるとこういうわけなんだが」
アーテ王女は一通り、今まで自身の身の回りにおこったことを説明した。
学校に通い。
人のうちのガラスを割って。
そうしてそのガラス代を肩代わりしてもらった、村長のうちで厄介になっていた。
今は、『奇跡を行う国』の『オケストラバーグ』へ、あらたな旅立ちを迎えているところ。
「そうか、何かいろいろなことがあったようだな。いや、そういえば、今見ると、この前見たときよりも、おまえさん、精悍な表情をしているよ。いろいろ世間の荒波にもまれて、成長したというわけか」すると、ウサギは寝転がって、「そうか、そうか、それはいい。あんた、もともと旅をしてきて、ここにいるんだろう? いいね、旅は人を成長させる、あんたのようなかわいい子には、より厳しいたびをさせたいと、そのようにおもうよ」
ウサギは言葉をきった。
車内アナウスが流れたからである。
旅立ちの日。
村長は、お別れ会を、アーテ王女のために開いてくれた。
朝から、村長の一報を聞いた、さまざまな階層の人々が、アーテ王女を訪れた。
少年、少女、青年、大人、老人。
アーテ王女に親しみを持っていて、幾度か質問をしにきたものは、アーテ王女にお別れの挨拶をしようと、やってきたのである。
この日、アーテ王女を訪れたものの中には、別れを惜しむものがほとんどだった。
もっとも、アーテ王女を批判していた人々はというと、これで自分の周りから、こぶがいなくなる。清々とした気分でいたらしい。
アーテ王女は大きな村長が町のお菓子屋で作らせてくれたケーキを、おいしそうに頬ばったし、みんなと同じケーキを食べることができてよかったとおもった。
アーテ王女がみんなと歓談していると、
「ねえ、アーテ王女」
と、アーテ王女よりも小さいこどもがアーテ王女に質問した。
「アーテ王女はこの世を改造しにきたんでしょう?」
ん?
それはわからないな。
「もしも失敗すると、奈落の世界に落とされるって知ってる? いままで何人もの人が、その世界におとされて、惨めな生活をしているらしいよ」
そうなの?
「ねえ、アーテ王女は大丈夫だよね、これから、『奇跡を行う国』に乗り込んで、本格的にこの世界を改造するんでしょう? だけど、僕、王女ならできるとおもうよ、だって、これだけの人たちを、心酔してしまう、だけの力を、アーテ王女は持っているのだもの」
「改造」
「そう、よりよく変えること」
「そうね。あたしも出来れば、そうしたいと、おもっているわ」
そういうと、村長が、
「さあて、それではアーテ王女から一言、みんなにいただこう。アーテ王女とは、おそらく今日で、本当に最後の別れになりそうだ。なあ、アーテ王女。みんなに一言、何か気のきいた言葉でも何なり、お願いするよ」
そういうと、アーテ王女はホールの隅に立つと、そちらが壇上になった。
アーテ王女がみんなに話したことは、たいしたことではない。
何より、なにをいったらいいのかわからなかった。
鏡の港からきた王女。
それが、どういう価値付けを持っているのか、いまいちわからなかったからである。
アーテ王女は何とかその場を繕う話をするしかなかった。
「ありがとう。みんなのことは、一生忘れません。ここにいた期間はみじかかったけど、みんなからは、多くのものをもらいました。それを手に、わたしは、これからも生きていきたいとおもいます」
拍手。
アーテ王女のお別れ会は終わった。
すると、アーテ王女は村長の書斎に再びこもった。
本を読む。
探していたのは、この世界を改造して、それをしきれなかった人々のことである。
しかし、村長の書斎の本には、それを見つけることができなかった。
それと、鏡の港。
それも、村長の書斎の本には見つけることができなかった。
いったいどういう意味を持っているのだろう。
もっと大きな図書館に行けば、その秘密はわかるだろうか。
しかし、アーテ王女には欠点があった。
この世界で使われている文字が、読めないのである。
それが読めなければ、その秘密もわからないのではないか。
今から言語を一からやるか。
それもアーテ王女は念頭に入れていた。
読まなければならないのである。
アーテ王女おもった。
人に聞く?
そういえば、この世界を改造することができなかった人々は、奈落の世界にいるという。奈落の世界? その人たちの話を聞けば、あるいはこの世界の闇。この世界を支配しているものについて、いくらかの知識をえることができるかもしれない。
しかし、奈落の世界。
それは、いったいどういう場所なのだろう。
もしも、市民権を得ることができないと、アーテ王女はそこに落とされるときいた。
アーテ王女がおもったのは、自身もそこにおとされるのかということと、その世界がいったいどんな場所なのかということだった。
アーテ王女はこの、『奇跡を行う国』のすべてを知りたいと、そのように望んだ。
そうしてそのすべてを知ることが、この、『奇跡を行う国』をかえることにつながるのではないかと、そのようにおもわれた。
変える・・・・・・。
いったいなにを変えるのだろう。
アーテ王女がおもったのは、どうして変える必要があるのだろかということだった。
アーテ王女は本から顔を上げた。そうして、果たしてこの世界に、不思議なイメージを持った。変える。
変えなければならない世界なのだろうか。確かにおかしなところはある、しかし、破壊する? そんなことが必要な世界のようには、アーテ王女にはおもわれなかった。
どうしてこのときのアーテ王女が自身疑問を持ったのかいっておこう。すなわちアーテ王女はこのときはまだ、この世界、『奇跡を行う国』が抱える自己矛盾に気づいてはいなかったのである。しかし、このあと、『奇跡を行う国』へ旅立つことによって、それを知り、そうしてその世界と対決することになるのである。
アーテ王女が本を読んでいると、自然と時間は過ぎた。
いつの間にか、時刻は夜の七時を回ろうかというところにきていた。
旅立ちまで、あと、二時間。
アーテ王女が村長の書斎を出ると、ホールですぐに村長に出くわした。
村長は、アーテ王女を見つけると、
「やあ、あんた、アーテ王女。いっとっただろう。見物に行こう。花火さ。もうすぐ始まることだよ。夏祭りの最後のショウさ。見ないとなると、後悔することになるよ、本当にすごいんだから。この夏の、イベント」
アーテ王女はいった。
もしかしたら、そのあと駅へ直行することにはなりはしないか。
そのため荷物を持っていきたいのですが・・・・・・
「そうじゃな、それがいい、わしとしては、おまえさんにはいつまでもこの町で暮らしてほしいが、あんたはどうやら自身の使命に対して積極的であるらしい。わかったよ、もっておいで、あんたが集めた道具は、全部あんたにやろう。それをもって、どこなりへと、自分の気の向く方向へ進んでいくといい」
アーテ王女はすると、荷物を取りに、自室に戻った。
ブルーのデニムのかばん。
アーテ王女が再びホールに戻ると、
「ちょっとまって」
ローランド女史だった。
「王女、食事を忘れていますよ」
そういうと、ローランドさんはアーテ王女にまた、ビーフカツレツサンドを用意していてくれた。
受け取ると、お礼をいって、アーテ王女と村長は、夕闇の中、出かけていった。
花火大会は、激しい盛り上がりをみせていた。
町の、一番よく見える橋の上から、人々は、われが見よう、われが見よう。
夏の最後の祭典に必死になっていた。
橋は持つのだろうか、これだけの人を乗せて、どうやら、大丈夫らしかった。
アーテ王女が暗い夜空を見ていると、しばらくして、
しゅるしゅるしゅる。
派。
しゅるしゅるしゅる。
派
大きな花火が夜空にまった。
引き続いて、数個。
アーテ王女は夜空を見上げた。
夏の夜。
その空に舞う花火。
それは、この、夏祭りのラストにお誂えむきだった。
アーテ王女はうっとりした目で、夏の花火を見上げた。
赤。青。黄色。みどり。オレンジ。
あがっては散る花火は、みな、夏の夜の一重の悲しみに似ていた。
終了する祭りの、その花火。
それは、この、一時だけの間、続いた夏祭りをよく表しているようにおもわれた。
この花火のように、この町の人たちは終わる。
花火は夏祭りに終わりをあらわすと同時に、この町でのアーテ王女の暮らしの最後でもあった。
時刻は八時を回ろうかというとき、アーテ王女はこの町を去ることにした。
列車の時間がある。
それに乗り遅れたら、二度と『奇跡を行う国』にはいかれない、そのため二度と長橋国には帰れない気がアーテ王女にはしていた。
花火はまだ、続いていたが、アーテ王女には目的があった。
駅にむかって歩く。
村長は、花火に夢中らしかった。
たぶんアーテ王女が消えたことには気がついてはいなかっただろう。
町のみんなも夏祭りの最後の物語に夢中なのか、駅は、それまでの道は、ガラガラだった。
アーテ王女が駅に到達すると、列車がすでに待っていた。
アーテ王女は駅のホームに進入した。
すると、列車は、扉ごとに駅員がいて、乗車する客の切符を切っているのだろうか、そのようだった。
アーテ王女がそうした駅員の一人に近づくと、アーテ王女は乗車券を差し出した。
「よろしゅうございます」
駅員は切符を切って、
「Aの三六十五番のコンパートメントとなります」
アーテ王女は汽車に乗車した。
Aの三六十五番、Aの三六十五番。
探すと、それはすぐにみつかった。
扉をノックをする。
すると中から返事はない。
アーテ王女が戸を開くと、
ガラガラガラ。
扉はいとも簡単に開いた。
どうやら相部屋らしい。
アーテ王女が見ると、寝台が、四つ、部屋の中にはあった。
Aの三六十五番。
アーテ王女は自身の寝台を見つけると、荷物を戸棚にいれて、ベッドの上に座る。
ふかふかしたベッドは、まだ、洗い立てでシーツがしゃんとのびていた。
目的地に着くたびに、ベッドのシーツは交換されるのだろうか。
そうしてしばらくすると、アーテ王女は寝転がった。
今、何時ぐらいだろう。
アーテ王女は時計を持ってはいなかった。
しかし、感覚から、もうすぐ出発すると言うことが、想像できた。
九時。
しばらくすると、車内にアナウスがあった。
「ご乗車の皆様にお知らせいたします。当列車は急行『奇跡を行う国、オケストラバーグ』行き。まもなくの出発となります。お乗りのお客様は、ご乗車になってお待ちください」
もうすぐの発車らしい。
しかし、と、アーテ王女はおもった。
疑問は簡単である。
このコンパートメントには、ほかに三つ、ベッドがあるのに、ほかの客はいないのだろうか。
アーテ王女がおもっていると、それに、変化があるらしかった。
ドアの外にノックをする音がして、続いて人影が、入ってきたからである。
「いやはや、連日の猛暑だ。わたしはもう、本当に解けそうだよ。もしも氷だったらわしはもう解けてるな、いや、本当」
何か当たり前なことをいいながら入ってきた一団は、アーテ王女がすでにコンパートメントの中にいることに気がつくと、
「ああ、これはこれは、レディーがおいででしたか。なんだ、もしもいるんのだったらそういってくれればいいのに、どうして黙ってたんですか」
すると、今度はなにやらちいさな声の男が、
「なにをいっているのだよ、ウサギさん。あんた、入る前に、わたしたちが入ることが、中にいる人にわかるわけはないだろう。いったいなにを、不都合なことをいっているんだ」
「そうだったかね、小人の商人よ、わたし、何かそんなに無茶なことを言ったかね?」
「まあそれはいい、第一のご無礼はもうしてしまったことだ、これからは第二、第三のご無礼をしないように気をつけよう」
小人の商人?
ウサギ?
そういえば、アーテ王女には記憶があった。
ウサギ、小人の商人といえば、かかしとともに、初めてこの世界にアーテ王女がやってきた、船の中でであった面子と同じでないか。
アーテ王女が黙ってことの成り行きを見ていると、向こうのほうも、アーテ王女に気がついた様子であった。
「あれ? あんた、どこかであわなかったかな」
気づいたか。
「そうそう」小人の商人がいった。「あんた、確かトロンボンと、バンズの港町行きの船で、一緒のコンパートメントに乗っていた、人ではないかね」
そうです。
奇遇ですね。
また出会うことになろうとは。
アーテ王女がおもっていると、
「そうか、そうか」
さっきのレディーに対する対応はどこにいったのか、二人はずかずか部屋の中にはいってくる様子であった。相手がアーテ王女で、知り合いで、彼らは安心したのだろうか?
とにかく、そうして荷物を戸棚に納めると、おのおの、自身のベッドに座って(小人の商人は二段ベッドの上の席に、ウサギの助けをかりてのぼった)、
「まあ、運命というのは本当に奇遇なものだ。前は、バンズの港町で、今度はバンズの港から、『奇跡を行う国・オケストラバーグ』への夜行列車の中で、あんたに出会うとは・・・・・」と、ウサギがいった。「で、あんたどうしていたわけ? いままで、わしらはあのあと、ここから、『奇跡を行う国・オケストラバーグ』にいって、一商売していたというわけで、今がつまり、その、商売の二まわり目に当たるとこういうわけなんだが」
アーテ王女は一通り、今まで自身の身の回りにおこったことを説明した。
学校に通い。
人のうちのガラスを割って。
そうしてそのガラス代を肩代わりしてもらった、村長のうちで厄介になっていた。
今は、『奇跡を行う国』の『オケストラバーグ』へ、あらたな旅立ちを迎えているところ。
「そうか、何かいろいろなことがあったようだな。いや、そういえば、今見ると、この前見たときよりも、おまえさん、精悍な表情をしているよ。いろいろ世間の荒波にもまれて、成長したというわけか」すると、ウサギは寝転がって、「そうか、そうか、それはいい。あんた、もともと旅をしてきて、ここにいるんだろう? いいね、旅は人を成長させる、あんたのようなかわいい子には、より厳しいたびをさせたいと、そのようにおもうよ」
ウサギは言葉をきった。
車内アナウスが流れたからである。
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