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第三章其の二
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* * *
アーテ王女の生活は、うえからのお達しが来る日まで、変わることはなかった。
いや、上からのお達しがあったとしても、変わることはなかっただろう。
アーテ王女に上からお達しがあったのは、暦も十月を迎えようという、ある、涼しい日のことだった。
午後、アーテ王女が来客を待って、着替えを済ませると(アーテ王女はこのとき、新しい服を二着新調していた、お金は、町長経由で得た、滞在支援金だった、滞在支援金とは、アーテ王女が王侯だろうということがわかって、国から降りた、アーテ王女基金である。・・・・・・アーテ王女はそのお金を使って、新しい辞書を買うことが出来たし、また、いったように、服を新調することが出来た。そのため、アーテ王女の生活には、新しい服が加わり、アーテ王女はこざっぱりとした服装をしていることができた。また、お風呂について少し触れておくと、アーテ王女は町長のうちのお風呂を、二日に一回の割合で借りることができたし、また、それ以外の日には、沸かしたお湯で、体を拭くなどしていた)、使者がやってきた。何でも、アーテ王女に、明日の午後、テストをしたいというのである。それは、アーテ王女の教養を調べるテストであり、『奇跡を行う国』の住人として、適正であるかどうかを確かめるテストであった。
テスト。
いいでしょう。受けましょう。
アーテ王女はそれを、快く、承諾した。
使者が帰った後、すぐに、たぶん外で様子をうかがっていたのだろう、ジルがやってきて、
「あいつらって、いつもそうよね、まるで自分が支配者気分で、ほんとやんなっちゃう。テストですって? あなたが到着した日には、何の動きも見せなかったくせに、すこしあんたが出来そうな人間であることがわかった途端、態度を変えて、ころっとね。まるではじめからこうなることはわかっていたといわんばかりよ、受けなくてもいいのよ、そんなテスト。あなたはここでも立派にやっていけるんだから」
いいの、ジル。
わたし、テストを受けます。
「でも、あいつらって、奈落の世界の人間を馬鹿にして、見下しているのよ。そんな高飛車な態度をとられてまで、それに従うことはないって。それともあんた、こんなところがやになったのかい? 上の、こぎれいな世界で暮らしたいとでも?」
違う。
それは、わたしの構造の問題。
(「もしもわたしが真の王女だったら、運命に翻弄されることになる。もしもわたしが真の王女ではなったら、運命に翻弄されることはないだろう」)
アーテ王女がいうと、
「へえ、あんた、つまりは自身の運命を試したいんだ、あんたが、真の王女であるかどうか、確かめたいわけ。でも」
と、ジルは言葉を切って、
「それってあんたの内側の問題でしょ。誰がなんといおうと、あんたが自分を王女だとおもっていれば、いいわけじゃないの?」
出来れば、本当のところが知りたい。
本当に、わたしは王女なのか。
鏡がね、いったのよ、それがわたしの運命だって。
「へえ、そう。まあ、あんたの好きにすることね、運命、あたしはそれから遠ざかって、いく年になるのかしら」
翌日の午後。正午。
アーテ王女は運命と、対決するために旅立った。
場所は、『奇跡を行う国』国立合同庁舎。
そこまでは、ジルが送ってくれた。もっとも、ジルは、第三身分、表の世界に出ることは通常許されない奈落の世界の住人であるため、ジルが案内してくれたのは、奈落の世界の出口までだった。
アーテ王女は歩く。
マンホールを出ると、国立合同庁舎へ向けて、歩みを進めた。
しかし、合同庁舎にのグランドフロアに入っても、何の変化もない。
仕方がないので、アーテ王女が受付の女性に話を通してもらうように頼むと、
「そうですか、はあ、アーテ王女。今日、面接の予定? ここで? そんな話はうかがっていませんが」
「・・・・・・・・・・・・」
でも確かに、そう聞いたんです。
「何のテストです? あなたが、王女であるか、どうか、いや、やはり、お話は伺ってはいません、どうでしょう、生活経済課のほうに問い合わせてみたら、あなたのご希望に沿う結果が得られるかもしれません」
生活経済課?
「この建物の十六階となります」
アーテ王女はエレベーターホールにむかった。
十六階、生活経済課まで。
エレベーターがつくと、アーテ王女はそそくさと乗り込んだ、ほかにも多くの人たちが、エレベーターに乗りこんだ。
十六階。
アーテ王女がパネルに触ると、その階の表示がオレンジ色に点灯した。
ふと、アーテ王女が見ると、パネルの最上階が、光らないことに気がついた。
「?」
しかしやがてエレベーターは目的地に到着する。
アーテ王女が降りると、生活経済課を探した。
いくつかの、部署が、混在するフロアである。
部屋の中に掲げられたパネルをみて、それに気がついた。
生活経済課。
あった。
アーテ王女が歩みを進めると、なにやら台座が部署の入り口にあり、
面会ご希望の方は、パネルに指示ください。
どうやらパネルのボタンを押して、そうして内側の人間に、来客を知らせるらしかった。
押す。ビーと、チャイムの音が鳴って、それは中へ通じただろうか。
アーテ王女がおもっていると、アナウスがなった。
よろしゅうございます、生活経済課へようこそ。お部屋の中へお進みください、生活経済課は、入り口をいって、右手になります。
アーテ王女が入ると、生活経済課の中に勤める役人がいて、向こうはアーテ王女に気がついた。
「何をしているんだね、ここは子供の来るところじゃないよ」
ですけど、呼ばれてきたんです。
今日、わたしが王女かどうかを確かめる、テストがあるそうで・・・・・・。
「なに? テスト? そんな話は聞いていないよ、住民保安課のほうにいってみたらどうかね、このビルの三階にあるよ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はそれにしたがった。
再びエレベーターをのって、住民保安課へ。
「なんだって? テスト? そんなことがあるのか、君に聞いてはじめてきいたよ、へえ、うちの役所という場所は、いろいろなことをしているんだね、生涯学習課に言ってみたら、わかるかもよ」
生涯学習課。
「知らないな、本当に今日、ここに来いと、いわれたの?」
アーテ王女は庁舎をでた。
ぜんぜんはなしが通ってはいない。
同時にアーテ王女は自身の知名度のなさに驚いた。
しばらく外をぶらついて、それでも何もしないでは帰れないので、再び庁舎の中にはいると、
「アーテ王女? アーテ王女はいませんか?」
なにやら人の名前を気安くよんで叫び声をあげる人がいるらしいことがわかった。
アーテ王女がその人に近づくと、向こうがアーテ王女を待ち構えていて、
「アーテ王女様、お待ちしていおりました。いったいどこへおいでになられていたのでしょう、探しました」
わたしも探しました。
生活経済課、住民保安課、生涯学習課・・・・・・。
「そうですか、それは失礼をいたしました、あなたの知名度など、その程度のものです。それより、あなたさま。どうやらこちらの世界に這い上がりたいご様子です、どうぞ、おあがりください、奈落の世界の生活などはすてて、そうして、そのために、あなた様が、わたくしどもと生活をともにすることを許される人間であることを証明ください」
「・・・・・・・・・・・・」
高慢。
アーテ王女がおもっていると、
「それでは参りましょう。お洋服は、お着替え済みですか? お洗濯は毎日しておいでですか? 汚い格好で歩かれますと、こちらとしては困ります。蚤とか、取り付いてはいませんか?」
くんくん、くんくん
出迎えは、アーテ王女の体のにおいをかいで、
「においはないようですが、お風呂には、入っておいでですか?」
二日に一回、奈落の世界第六区、町長のうちで、二日に一回入れてもらっています。
「それは結構。二日にいっかいなら、許容範囲内です。お風呂には入っていると認めましょう。何しろあなた様のお名前は、『奇跡を行う国』中に評判でして、いえ、もちろんあなた様が感じ捉えたように、それはたいしたものではございませんが、しかし、王女は王女。下手なことをされては、テストをするこちらに問題が生じます。こんな出来の悪いのを、テストにかけたとあっては、こちらの評判に傷がつきます。よろしゅうございますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
要するに、へまをしなければいいんでしょう?
わかっていますよ。
「それでは、それではこちらがエレベーターとなっております。どうぞ、ご乗車ください。降ります階は三十六階、大会議室になります」
知っています。
エレベーターには何度も今日乗りました。
アーテ王女と出向かえは、エレベーターに乗り込んだ。
そうして、三十六階を目指す。
途中、いくつか停車階があり、人が乗り込んでは降り、エレベーターは、三十六階に到着した。
アーテ王女が見ると、目の前にはガラス張りのまど、そのため外の様子がよく見えた。
放射線状に、この建物から伸びる、道路。
すごい。
まるで寸分たがわぬ作り。
アーテ王女が景色に見入っていると、
「こちらでございます、アーテ嬢」
アーテ王女は目的の会議室についた。
「ここからがテストになります」
出迎えがいった。
「この扉の奥に、あなた様をテストする役人のかたがたがお待ちです。どうぞ、ぼろをお出しにならないようにお気をつけください。ふふふ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は深呼吸をすると、ドアノックし、勢いよく開けた。
すると、中には、まばゆい光がみちていた。
しばらく目がなれて気がついたのはスポットライトである。
アーテ王女が見たのは、スポットライトを照らす人、それに、その後ろに影になった人の列。面接官だろうか。高級官僚? それらの人々は、どうやらアーテ王女に姿を見られるのがいやらしい。そのため、アーテ王女にライトをあてて、その存在を隠している。
アーテ王女が黙ったままいると、
「何を黙っているのかね? アーテ君」
一人が言った。
「君は王女なんだろう? それなら、王女らしく振舞ったらどうかね、それとも君は、礼儀正しい対応も取れないのかね。挨拶、愛嬌。そんなものもなくて、アーテ君、君は王女を名乗るつもりかね」
「これではだめだな、王女とは、到底認められない」
と、はじめに話をした人影がいった。
「いったい君は、本物の王女なのかい?」
「もしもそうなら、みせて御覧なさい、君が、王女である証を」
「きいているよ、君は、確か社会の思想について、いくばくかの知識を持っているらしい、君は、果たしてどういう王女なのかね」
「・・・・・・・・・・・・」
「いいだろう、百歩譲って王女だとしよう。しかし、それだけでは不十分だ、王女。もっとほかに出来ることがないと、わたしたちは到底君を、王女と、認めるわけにはいかない」
「何か、できることはないのかね、王女という以外に」
「そういえば、君は魔法の道具をいくつか持っているらしい。金の鍵、魔法の鏡。しかし、それだからといって、君に、『奇跡を行う国』での滞在許可、市民権を与えるにはまだ早い。いったい君は王女である以外でいったい何が出来るんだい、何か出来なくては、君を王女と認めることは出来ないよ」
「きいた話によると、君は、魔法を使えるらしいね、それをやって見せてはくれないか?」
「何かしら出来ないと、市民権を与えることは出来ないんだよ」
アーテ王女はいった。
扉の鍵を開けることが出来ます。
どんな扉でも、わたしは不思議な力で、見事、開け放って見せます。
うそではなかった。
アーテ王女は長橋国にいた当時から、幾度もデッカー次官の部屋に侵入していた。侵入できたのは、アーテ王女が鍵を、針金で開けることができたからである。
すると。
「そういうとおもっていたよ、きっと君は鍵屋ではないのかとね、不思議な金の鍵も持っているそうじゃないか」
「いいだろう。あけてもらおうではないか」
そういうと、審査員の面々は、なにやら扉らしきものを持ち込ませた。
いつ用意したの?
アーテ王女が疑問におもっていると、いった。
「これは、我が、『奇跡を行う国』でいちばん一般に普及しているタイプの扉だ、これを、あなたは開けることができるかな?」
アーテ王女の前に、扉が用意された。
「こちらをどうぞ」
と、アーテ王女をここまで導いた役人に手渡されたのは、針金である。
「見事この扉を、この針金でお開けください」
アーテ王女はしばらく扉の錠を眺めていたが、おもむろに、針金を曲げると、扉の錠に差込始めた。
五秒経過。
三十秒経過。
四十五秒経過。
「なんだ、あけられないじゃないか。君はそれでも奇跡を行っているつもりかね。それではあなたを王女と認めるわけにはいかないな」
アーテ王女がなおも扉と格闘すると。
六十秒経過。
「三分以内には、できるんだろうなあんた、本当に王女なわけ?」
「もしもそうではないということになると、あんたは人心を惑わした罪で、極寒のワインバーグ刑務所に行ってもらうけど、どうだい?」
それは、ちょうど一分三十秒が経過したときだった。
かちり。
「?」
小気味いいおとがして扉が開く。
アーテ王女は扉を開けた。
すると、会議室内から歓声がおこった。
「すごい」
「あけてしまった」
「いや、あんたは本当の王女らしい」
「まさか、三分もかからずあけてしまうとは」
「まさか、あの伝説は本当なんだろうか」
「控よ」
最後にひとりがいった。
「ここにいるものはまごうことなく王女であらせられるぞ」
ははあ。
会議室内から歓声があがった。
スタンディングオベーション。
スポットライトが消され、アーテ王女委員会のメンバーが一人ずつ立ち上がると、アーテ王女に握手を求めた。
アーテ王女にいくつもの手がかざされた。
アーテ王女は順番に、その手に握手していった。
アーテ王女の生活は、うえからのお達しが来る日まで、変わることはなかった。
いや、上からのお達しがあったとしても、変わることはなかっただろう。
アーテ王女に上からお達しがあったのは、暦も十月を迎えようという、ある、涼しい日のことだった。
午後、アーテ王女が来客を待って、着替えを済ませると(アーテ王女はこのとき、新しい服を二着新調していた、お金は、町長経由で得た、滞在支援金だった、滞在支援金とは、アーテ王女が王侯だろうということがわかって、国から降りた、アーテ王女基金である。・・・・・・アーテ王女はそのお金を使って、新しい辞書を買うことが出来たし、また、いったように、服を新調することが出来た。そのため、アーテ王女の生活には、新しい服が加わり、アーテ王女はこざっぱりとした服装をしていることができた。また、お風呂について少し触れておくと、アーテ王女は町長のうちのお風呂を、二日に一回の割合で借りることができたし、また、それ以外の日には、沸かしたお湯で、体を拭くなどしていた)、使者がやってきた。何でも、アーテ王女に、明日の午後、テストをしたいというのである。それは、アーテ王女の教養を調べるテストであり、『奇跡を行う国』の住人として、適正であるかどうかを確かめるテストであった。
テスト。
いいでしょう。受けましょう。
アーテ王女はそれを、快く、承諾した。
使者が帰った後、すぐに、たぶん外で様子をうかがっていたのだろう、ジルがやってきて、
「あいつらって、いつもそうよね、まるで自分が支配者気分で、ほんとやんなっちゃう。テストですって? あなたが到着した日には、何の動きも見せなかったくせに、すこしあんたが出来そうな人間であることがわかった途端、態度を変えて、ころっとね。まるではじめからこうなることはわかっていたといわんばかりよ、受けなくてもいいのよ、そんなテスト。あなたはここでも立派にやっていけるんだから」
いいの、ジル。
わたし、テストを受けます。
「でも、あいつらって、奈落の世界の人間を馬鹿にして、見下しているのよ。そんな高飛車な態度をとられてまで、それに従うことはないって。それともあんた、こんなところがやになったのかい? 上の、こぎれいな世界で暮らしたいとでも?」
違う。
それは、わたしの構造の問題。
(「もしもわたしが真の王女だったら、運命に翻弄されることになる。もしもわたしが真の王女ではなったら、運命に翻弄されることはないだろう」)
アーテ王女がいうと、
「へえ、あんた、つまりは自身の運命を試したいんだ、あんたが、真の王女であるかどうか、確かめたいわけ。でも」
と、ジルは言葉を切って、
「それってあんたの内側の問題でしょ。誰がなんといおうと、あんたが自分を王女だとおもっていれば、いいわけじゃないの?」
出来れば、本当のところが知りたい。
本当に、わたしは王女なのか。
鏡がね、いったのよ、それがわたしの運命だって。
「へえ、そう。まあ、あんたの好きにすることね、運命、あたしはそれから遠ざかって、いく年になるのかしら」
翌日の午後。正午。
アーテ王女は運命と、対決するために旅立った。
場所は、『奇跡を行う国』国立合同庁舎。
そこまでは、ジルが送ってくれた。もっとも、ジルは、第三身分、表の世界に出ることは通常許されない奈落の世界の住人であるため、ジルが案内してくれたのは、奈落の世界の出口までだった。
アーテ王女は歩く。
マンホールを出ると、国立合同庁舎へ向けて、歩みを進めた。
しかし、合同庁舎にのグランドフロアに入っても、何の変化もない。
仕方がないので、アーテ王女が受付の女性に話を通してもらうように頼むと、
「そうですか、はあ、アーテ王女。今日、面接の予定? ここで? そんな話はうかがっていませんが」
「・・・・・・・・・・・・」
でも確かに、そう聞いたんです。
「何のテストです? あなたが、王女であるか、どうか、いや、やはり、お話は伺ってはいません、どうでしょう、生活経済課のほうに問い合わせてみたら、あなたのご希望に沿う結果が得られるかもしれません」
生活経済課?
「この建物の十六階となります」
アーテ王女はエレベーターホールにむかった。
十六階、生活経済課まで。
エレベーターがつくと、アーテ王女はそそくさと乗り込んだ、ほかにも多くの人たちが、エレベーターに乗りこんだ。
十六階。
アーテ王女がパネルに触ると、その階の表示がオレンジ色に点灯した。
ふと、アーテ王女が見ると、パネルの最上階が、光らないことに気がついた。
「?」
しかしやがてエレベーターは目的地に到着する。
アーテ王女が降りると、生活経済課を探した。
いくつかの、部署が、混在するフロアである。
部屋の中に掲げられたパネルをみて、それに気がついた。
生活経済課。
あった。
アーテ王女が歩みを進めると、なにやら台座が部署の入り口にあり、
面会ご希望の方は、パネルに指示ください。
どうやらパネルのボタンを押して、そうして内側の人間に、来客を知らせるらしかった。
押す。ビーと、チャイムの音が鳴って、それは中へ通じただろうか。
アーテ王女がおもっていると、アナウスがなった。
よろしゅうございます、生活経済課へようこそ。お部屋の中へお進みください、生活経済課は、入り口をいって、右手になります。
アーテ王女が入ると、生活経済課の中に勤める役人がいて、向こうはアーテ王女に気がついた。
「何をしているんだね、ここは子供の来るところじゃないよ」
ですけど、呼ばれてきたんです。
今日、わたしが王女かどうかを確かめる、テストがあるそうで・・・・・・。
「なに? テスト? そんな話は聞いていないよ、住民保安課のほうにいってみたらどうかね、このビルの三階にあるよ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女はそれにしたがった。
再びエレベーターをのって、住民保安課へ。
「なんだって? テスト? そんなことがあるのか、君に聞いてはじめてきいたよ、へえ、うちの役所という場所は、いろいろなことをしているんだね、生涯学習課に言ってみたら、わかるかもよ」
生涯学習課。
「知らないな、本当に今日、ここに来いと、いわれたの?」
アーテ王女は庁舎をでた。
ぜんぜんはなしが通ってはいない。
同時にアーテ王女は自身の知名度のなさに驚いた。
しばらく外をぶらついて、それでも何もしないでは帰れないので、再び庁舎の中にはいると、
「アーテ王女? アーテ王女はいませんか?」
なにやら人の名前を気安くよんで叫び声をあげる人がいるらしいことがわかった。
アーテ王女がその人に近づくと、向こうがアーテ王女を待ち構えていて、
「アーテ王女様、お待ちしていおりました。いったいどこへおいでになられていたのでしょう、探しました」
わたしも探しました。
生活経済課、住民保安課、生涯学習課・・・・・・。
「そうですか、それは失礼をいたしました、あなたの知名度など、その程度のものです。それより、あなたさま。どうやらこちらの世界に這い上がりたいご様子です、どうぞ、おあがりください、奈落の世界の生活などはすてて、そうして、そのために、あなた様が、わたくしどもと生活をともにすることを許される人間であることを証明ください」
「・・・・・・・・・・・・」
高慢。
アーテ王女がおもっていると、
「それでは参りましょう。お洋服は、お着替え済みですか? お洗濯は毎日しておいでですか? 汚い格好で歩かれますと、こちらとしては困ります。蚤とか、取り付いてはいませんか?」
くんくん、くんくん
出迎えは、アーテ王女の体のにおいをかいで、
「においはないようですが、お風呂には、入っておいでですか?」
二日に一回、奈落の世界第六区、町長のうちで、二日に一回入れてもらっています。
「それは結構。二日にいっかいなら、許容範囲内です。お風呂には入っていると認めましょう。何しろあなた様のお名前は、『奇跡を行う国』中に評判でして、いえ、もちろんあなた様が感じ捉えたように、それはたいしたものではございませんが、しかし、王女は王女。下手なことをされては、テストをするこちらに問題が生じます。こんな出来の悪いのを、テストにかけたとあっては、こちらの評判に傷がつきます。よろしゅうございますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
要するに、へまをしなければいいんでしょう?
わかっていますよ。
「それでは、それではこちらがエレベーターとなっております。どうぞ、ご乗車ください。降ります階は三十六階、大会議室になります」
知っています。
エレベーターには何度も今日乗りました。
アーテ王女と出向かえは、エレベーターに乗り込んだ。
そうして、三十六階を目指す。
途中、いくつか停車階があり、人が乗り込んでは降り、エレベーターは、三十六階に到着した。
アーテ王女が見ると、目の前にはガラス張りのまど、そのため外の様子がよく見えた。
放射線状に、この建物から伸びる、道路。
すごい。
まるで寸分たがわぬ作り。
アーテ王女が景色に見入っていると、
「こちらでございます、アーテ嬢」
アーテ王女は目的の会議室についた。
「ここからがテストになります」
出迎えがいった。
「この扉の奥に、あなた様をテストする役人のかたがたがお待ちです。どうぞ、ぼろをお出しにならないようにお気をつけください。ふふふ」
「・・・・・・・・・・・・」
アーテ王女は深呼吸をすると、ドアノックし、勢いよく開けた。
すると、中には、まばゆい光がみちていた。
しばらく目がなれて気がついたのはスポットライトである。
アーテ王女が見たのは、スポットライトを照らす人、それに、その後ろに影になった人の列。面接官だろうか。高級官僚? それらの人々は、どうやらアーテ王女に姿を見られるのがいやらしい。そのため、アーテ王女にライトをあてて、その存在を隠している。
アーテ王女が黙ったままいると、
「何を黙っているのかね? アーテ君」
一人が言った。
「君は王女なんだろう? それなら、王女らしく振舞ったらどうかね、それとも君は、礼儀正しい対応も取れないのかね。挨拶、愛嬌。そんなものもなくて、アーテ君、君は王女を名乗るつもりかね」
「これではだめだな、王女とは、到底認められない」
と、はじめに話をした人影がいった。
「いったい君は、本物の王女なのかい?」
「もしもそうなら、みせて御覧なさい、君が、王女である証を」
「きいているよ、君は、確か社会の思想について、いくばくかの知識を持っているらしい、君は、果たしてどういう王女なのかね」
「・・・・・・・・・・・・」
「いいだろう、百歩譲って王女だとしよう。しかし、それだけでは不十分だ、王女。もっとほかに出来ることがないと、わたしたちは到底君を、王女と、認めるわけにはいかない」
「何か、できることはないのかね、王女という以外に」
「そういえば、君は魔法の道具をいくつか持っているらしい。金の鍵、魔法の鏡。しかし、それだからといって、君に、『奇跡を行う国』での滞在許可、市民権を与えるにはまだ早い。いったい君は王女である以外でいったい何が出来るんだい、何か出来なくては、君を王女と認めることは出来ないよ」
「きいた話によると、君は、魔法を使えるらしいね、それをやって見せてはくれないか?」
「何かしら出来ないと、市民権を与えることは出来ないんだよ」
アーテ王女はいった。
扉の鍵を開けることが出来ます。
どんな扉でも、わたしは不思議な力で、見事、開け放って見せます。
うそではなかった。
アーテ王女は長橋国にいた当時から、幾度もデッカー次官の部屋に侵入していた。侵入できたのは、アーテ王女が鍵を、針金で開けることができたからである。
すると。
「そういうとおもっていたよ、きっと君は鍵屋ではないのかとね、不思議な金の鍵も持っているそうじゃないか」
「いいだろう。あけてもらおうではないか」
そういうと、審査員の面々は、なにやら扉らしきものを持ち込ませた。
いつ用意したの?
アーテ王女が疑問におもっていると、いった。
「これは、我が、『奇跡を行う国』でいちばん一般に普及しているタイプの扉だ、これを、あなたは開けることができるかな?」
アーテ王女の前に、扉が用意された。
「こちらをどうぞ」
と、アーテ王女をここまで導いた役人に手渡されたのは、針金である。
「見事この扉を、この針金でお開けください」
アーテ王女はしばらく扉の錠を眺めていたが、おもむろに、針金を曲げると、扉の錠に差込始めた。
五秒経過。
三十秒経過。
四十五秒経過。
「なんだ、あけられないじゃないか。君はそれでも奇跡を行っているつもりかね。それではあなたを王女と認めるわけにはいかないな」
アーテ王女がなおも扉と格闘すると。
六十秒経過。
「三分以内には、できるんだろうなあんた、本当に王女なわけ?」
「もしもそうではないということになると、あんたは人心を惑わした罪で、極寒のワインバーグ刑務所に行ってもらうけど、どうだい?」
それは、ちょうど一分三十秒が経過したときだった。
かちり。
「?」
小気味いいおとがして扉が開く。
アーテ王女は扉を開けた。
すると、会議室内から歓声がおこった。
「すごい」
「あけてしまった」
「いや、あんたは本当の王女らしい」
「まさか、三分もかからずあけてしまうとは」
「まさか、あの伝説は本当なんだろうか」
「控よ」
最後にひとりがいった。
「ここにいるものはまごうことなく王女であらせられるぞ」
ははあ。
会議室内から歓声があがった。
スタンディングオベーション。
スポットライトが消され、アーテ王女委員会のメンバーが一人ずつ立ち上がると、アーテ王女に握手を求めた。
アーテ王女にいくつもの手がかざされた。
アーテ王女は順番に、その手に握手していった。
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