異世界の姫さまが空から降ってきたとき

杉乃 葵

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第四章 麗美香

第四十六話:Afterwards there will be hell to pay

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 怪物は跳躍し、こちらに向かって来た。

 人の心理状態、特に極限状態のときは、たとえば、交通事故とかで車が自分の方へ向かって来る時ってきっと、こんな風にスローモーションに見えるんだろうな。なんて事を思った。きっとそれは、実際にはコンマ何秒とかだった事だろう。

 身体は、そんな思考とは別に、抱えていた麗美香を庇(かば)う為に、とっさに怪物に背を向けた。

 ドンッ

 背を向けたその方向で、空気が振動する音が聴こえた。

 遠くで、どしゃっと何かが、落下する音。

 振り返ると、後ろに怪物の姿は無かった。
 自分の耳元、麗美香が左腕を突き出していた。

 「麗美香、おまえ。」

 「よかった。まだ、一発撃てた。」

 念力で吹っ飛ばしたのか。
 吹っ飛んだ怪物を見ると、とりもちに捕まって藻掻いていた。

 「あのね、わたし、だれかに庇ってもらうの初めて。えへへ、嬉しいもんだね。ありがとね。ポチ。」

 そう云うと、麗美香は抱きついてきた。

 おいおい、ちょっとまて、おまえ。

 「何やってんだよ。おい。」

 麗美香からの返事は無く、首に巻かれていた彼女の腕が離れ、力無くだらりと下がった。

 え?

 「おい。麗美香? どうした。」

 麗美香は全身の力が無くなったのか、身体がだらりとしなった。

 「そいつをすぐに降ろして寝かせろ!」

 nullさんの指示に従い、麗美香をそっと降ろす。

 nullさんは、麗美香の状態を確認した。心肺停止だ、とnullさんは告げた。

 「ニーナ! AEDを取って来い!」

 「AED?!」

 「アルファベットで書いてある! 行け!」

 ニーナは、何がなんだかわからないながらも、声の強さに気圧されて扉の向こうへ走って行った。

 しばらく心臓マッサージをしていたが、わたしでは軽過ぎて駄目だ、おまえ代われと、云われ……

 「なにを躊躇している! 後の事は考えるな!」

 nullさんの言葉に身体か勝手に動く様に、麗美香に心臓マッサージをしていた。
 そうだ、遠慮なんかしている場合じゃない。

 しばらく続けていたが、変化がない。

 「ダメだなこれは。よし、おまえ、人工呼吸しろ。」

 「や、それはnullさん、お願いします。」

 nullさんは、空気銃に弾を込めてボルトをセットした。

 「おまえが、あいつと闘うのか?」

 nullさんが、指差す方向に、また一体の怪物が出現していた。

 「わるいが、わたしは、おまえに背中を預ける勇気はないぞ?」

 そう云って意地悪く笑い、胸のあたりをゴソゴソしていた。
 そして、胸からボールのようなものを取り出した。

 「念の為、巨乳にしておいて正解だった。」

 胸にあんな物を詰めてたのか。

 「感心している場合か! さっさとやれ!」

 ああ、もう、初キスが、こんな形で、こいつとかよ。
 ええい、どうにでもなれ!

 こうなったらもう、ちゃんと目を覚ませよ、てめえ。



   ※※※


 この巨乳は、ただの巨乳じゃないんだぜ。
 怪物の様子を見る。やつは、まだ、こちらの出方を窺っている。

 5秒というところか。

 ボールのタイマーを5秒にセットしてスイッチを押す。

 直接ヤツに投げ付ければ、とっさに避けるだろう。
 では、こう、ヤツにボールをよく見せた上で、ふわっと山なりに、上に投げればどうだ?

 ついつい、眼で追ってしまうだろう。いい子だ。

 ヤツは、狙い通り、山なりのボールを眼で追った。

 スイッチを押してから5秒後、ちょうどヤツが見つめているタイミングで発動するように投げた。

 「こっちを見るなよ!」

 二人に声を掛け、わたしも腕で眼を隠す。

 投げたボールが破裂し、辺りが光に包まれる。

 どうだ? 閃光弾のお味は。

 10秒ほど数えて、眼を開ける。
 ヤツは眼を抑えて、グググと呻いていた。

 よし、一応効いたようだな。
 出来れば、よろめいて欲しかったが、それは贅沢というものかぁ。

 胸から、巨乳の2つ目を取り出し、ヤツの足元に投げる。
 ボール状のそれは、上手くヤツの側に落ちて、とりもちにくっついてピタっと止まる。

 空気銃を構え、慎重にボールに狙いを定める。 

 パシュッ

 放たれた弾は、ボールに当たり、ボールは激しい音を立てて爆発した。

 怪物は、その音に驚き、跳び上がった。

 ふふふ、破壊力は無いが、花火玉だ。びっくりしただろう? 

 怪物は、しばらく呆然としていたが、やがて正気を取り戻し、後退ろうとしたが、動けなくなっていた。よし、計画通りだ。
 爆音に驚いて、とりもちを踏んでくれると信じてたよ。

 怪物はギィギイと呻いて暴れていた。

 さて、これで、こちらの手札は使い切ったわけだが。

 「こっちは、とりあえずは片付けた。そっちはどうだ?」

 金太郎を見ると、上体を起こしてあいつに支えられていた。どうやら大丈夫のようだな。

 ハロウィン仕様の方はどうだろうかと思い、そいつの方を見上げた。

 ハロウィン仕様は、ゆっくりと振り返り、親指を立てた。

 やれやれ。これで一段落だな。

 さて、後、難儀なのは、わたしの方だな。

 「後は、任せたぞ。」

 扉の方へ歩きながら声を掛ける。

 「え? nullさんどこ行くんですか?」

 あいつに振り返り、

 「なにやら、わたしを嗅ぎ回っている奴等が居るようなのでな。早々に退散するよ。じゃあな。」

 屋上には、学校側の隠しカメラが数台設置されている。今回は、確実にわたしの姿を捉えただろうな。

 なにか云いたそうな、あいつに

 「おまえたちも、早くここから出ろ。それから、今回の件は、全部、学校側には筒抜けだからな。そのつもりで、後を処理しろよ。」

 「処理って、何をどう?」

 「ちょうどいいやつが、2人ほどいるじゃないか。ふふふ。」

 そう云って、後は振り返らずに、屋上を後にする。
 
 そう、上手く処理してくれよ。お二人さん。
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