異世界の姫さまが空から降ってきたとき

杉乃 葵

文字の大きさ
53 / 73
第五章 観季

第五十一話:failed to tell

しおりを挟む
  二学期が始まり、しばらくは何事もなく、日々が当たり前の様に過ぎていった。

 昼休み
 麗美香は、いつもニーナに会いにやって来る。相変わらず、ドアをバーンと開け放して。

 「あんた、また来たの? ほんっっっとうに友達居ないのね。」

 「わたしは、ニーナちゃんだけ居ればいいんでぇ~す。」

 そして、ヤマゲンと、いがみ合う。この二人は、本当に相性が悪いな。

 ヤマゲンのグループにニーナを取り込んだので、必然的に麗美香もヤマゲンのグループに入り込む形になっている。他のメンバーとは話した事はないが、2人程女子が居る。見た目は、可もなく不可もなく、何処にでも居るような感じの女生徒だ。2人は、麗美香とヤマゲンのやり取りを、ヤレヤレといった表情で見つめていたが、口を挟む事は無かった。

 「あんた、いつもこれだけ云ってるのに、懲りないのね。びっくりするわ。」

 「別に気にならないから。遠慮なく勝手に騒いでください。こっちはニーナちゃんと楽しく遊んでるんで。」

 ニーナが間に挟まれて、どぎまぎしている。これは可哀想だ。だが、自分にはどうしようもない。女子のいざこざに口を突っ込んだらろくな事にはならない。こっちがボコボコにされるだけだ。したがって、ここは静観するに限る。

 「ちょっっとぉ、やまねこぉぉ! こいつをなんとかして!」

 静観するって云ってるのに、ヤマゲンのやつ、こっちに振るなよ。

 「いや、なんとかってぇ。別にいいじゃねぇ? 他のクラスのやつが来ても別にいいじゃん。というか、おまえら、もちょっと仲良くしろよ。ニーナが困ってんじゃないか。」

 麗美香とヤマゲンの視線がニーナに向く。ニーナは、跳び上がりそうに狼狽して、両手を突き出してブンブンと意味なく振った。
 そして、恨めしそうに碧い瞳でこっちを睨んだ。余計な事を云わないでって感じか。

 これ以上此処に居ると、どんなとばっちりを受けるかわからないから、とっとと退散する事にする。
 弁当の残りを急いで口に放り込み、教室を出る。
 後ろでヤマゲンが、逃げるのかぁ~卑怯者~という声が聴こえた気がしたが、無視して廊下を進んだ。

 そして、いつものように屋上の扉の前に辿り着く。
 なんだか此処が自分の場所になってしまったようだ。

 階段に腰を降ろして、しばしぼんやりと過ごす。
 貴重な青春時代をこの様に無駄に消費するのは不経済な気がするが、さりとて、他にする事も無かった。

 そういえば、自分は何がしたいのだろう。

 具体的に興味がある事とか、将来何に成りたいとか、そういったものが何も浮かばなかった。ただ漫然と日々を過ごしている。日々をただだらだらと過ごす。それがまるで目的の様に。
 それはある意味幸せなのだろう。やらないといけない事があって必死に生きている人に比べたら、やらなくてもいいし、やってもいいというのは、なんて贅沢な事なのだろう。
 大人になって自分で生きていかないといけなくなると、そうも言ってられないのだろうけど。

 「お待たせぇ。」

 ニーナがゆっくりと階段を登って来た。

 最近は、ニーナも此処に来る様になった。

 此処で、昼休みが終わるまでの間、しばし二人っきりの時間。

 家での時間とは違った、なにやら特別な時間に感じられた。

 隣に、ちょこんと当たり前の様に座る。

 「あのふたりには困りました。」

 麗美香とヤマゲンの仲悪さにニーナは苦言を吐いた。
 そして、言葉遣いが最近おかしい。
 どうやら、この国でのお姫様用の言葉遣いを模索している様だった。無理して、お姫様みたいに喋らなくてもいいじゃねえかと云ったが、聞き入れて貰えなかった。ニーナなりのこだわりなんだろう。

 「コーイチも止めてください。あんな事云われたら、わたしが悪者じゃないですか。」

 ニーナは頬を少し赤らめて、恨めしく云った。

 「悪者じゃ無いだろう。それに、困ってたのは本当だろう?」

 「そーですけど、本当の事だから云えばいいってものじゃないです。」

 「そっか、それはすまん。」

 ニーナは、溜息をついた後、こっちを上目遣いに見た。

 その碧い瞳に、少しドキリとした。
 本気で惚れてしまいそうだった。

 プロポーズの誤解は未だ解けずに居る。
 ニーナの様子を見れば見るほどに、言いそびれてしまっていた。
 ニーナの様子、それは、最近どうも自分への距離感を積極的に詰めている様な気がするのだ。
 いや、別に悪い気はしないが。

 「そろそろ時間ですね。帰りましょう。コーイチ。」

 そう云って、立ち上がり、彼女はにこやかな笑顔を見せた。

 その笑顔に少しばかり罪悪感が沸くのを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...