異世界の姫さまが空から降ってきたとき

杉乃 葵

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第一章 ニーナ

第六話 『The First Step』

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 昨日はなんだかよく眠れなかった。ニーナの事が心配というか、ヤマゲンも心配だし、会った事が無いといってもルームメイトの美霧さんの事も心配だ。ニーナが何もしていないと信じたい。
 昨日の電話の様子だと、ヤマゲンは普通だったし、問題なさげだけど。本当かどうかなんて、わからない。
 そして、ニーナのことをこれからどうすればいいのか? いつまでもヤマゲンの部屋においておく訳にはいかないだろうし。

「おはよう。やまねこ♪」

 脳天気な笑顔で声をかけてくるヤマゲン。どうやら、考え事しているうちに学校に着いていたようだ。人間の慣れというのは怖いものだ。自動的に学校まで来てしまったという感じだ。朝起きてから後の事を、あまり覚えていない。ずっとニーナのことを考えていたら、いつの間にかここに居たという感じだ。

「なに深刻な顔してんのよ?」

 ヤマゲンの声に振り向くと、信じられないものを視た。

「って、なんで居るんだよ!」

 ヤマゲンの隣に、うちの制服を着たニーナがちょこんと立っていた。

「だって、ニーナ独りっきりで部屋に閉じ込めるのかわいそうじゃんか」

 いやいや、そもそも匿うって云ってなかったか? 出てきたら匿ってないじゃんか。

 さっとニーナの手を握り、ニーナに確認する。

「隠れていなくていいのか?」

( うん。もう落ち着いた。それに私はこの世界をもっと知る必要がある。 )

「だから、学校に来たのか?」

 コクリと頷くニーナ。

 まあ、制服着てれば違和感無いからそんな目立たないしな。ニーナは外見は白人系外国人である。うちの高校にも白人系外国人の学生はそれなりに在籍しているので、取り立てて訝しがられはしまい。

 ( やっぱり、ちゃんとわからないと不安で押しつぶされそうです。 )

 急に自分の身体の周りに寒気がしてきた。

 ( この世界は、私にとって安全なのでしょうか? )

 この世界は安全だ。ニーナが居た世界のように怪物に襲われたりしない。普通に暮らしていれば、危険なことはないところだ。でもそれは、自分たちにとっての安全であって、ニーナの安全を保証するものじゃない。

 言葉に詰まった。しかしながら、言葉に詰まっても、手を繋いでいるため、こちらの考えていることは伝わってしまっているのだろう。ニーナの碧い瞳に薄っすらと陰りが見えた。

「ねえ、いつまでそうしてるの?」

 ヤマゲンが焦れて話しかけてきた。そういえば、ヤマゲンの存在をすっかり忘れていた。
 
「公衆の面前で、手を繋いで見つめ合ってたら、変な噂が立っちゃうよ。」

 まったくヤマゲンの言うとおりだ。外国人が目立たないとはいえ、ニーナは綺麗な顔立ちをしている。そんなが男と手を繋いで見つめ合ってるなんて、確かに誤解しか与えない。
 
 手を離そうとすると、ニーナはシッカリと握り返してきた。どうやら、まだ話があるようだ。

 しかし困ったな。

「話があるようだ。」

「えー、後じゃダメなん?」

 コクリと可愛らしく頷くニーナ。

「とりあえず人目につかない場所に行こ。」

「お、おう。そうだな。」

 こういうときのヤマゲンは頼りになるなあ。ささっと先導して歩く彼女の後に続く。ヤマゲンは、校舎の横にあるちょっとした茂みに誘導した。此処なら周りから視られる心配はないし、用がなければ通る人も居ない。

「それで、話って?」

 ( 私は この世界を知る必要がある。 )

「ニーナは世界を知りたいって」

 ヤマゲンに通訳する。
 
「なあ、これって多人数会話は無理なんか?」

 いちいちヤマゲンに通訳するのが面倒くさくなってきた。みんなで手を繋いで同時に会話出来ればそれが一番効率がいい。

 ( 無理 混乱する )

 そっか。それは残念だ。
 
「あ、多人数会話は混乱するするから無理なんだって。」

 ヤレヤレ顔のヤマゲン。

「とりあえず、ここやまねこ、あんたに任せたわ。」
 
 そう云ってヤマゲンはさっさと立ち去ろうとする。

 「二人一緒に授業ふけると、私たちが変な噂立てられるしね。この前も一緒にふけたし。」

 まったくお前の云う通りだ。こいつと良からぬ噂など御免被りたい。

「先生には巧く言っておくよ。」

「サンキューな。」

 いい奴だなヤマゲン。

「やまねこが女の子と二人っきりで、人目のつかないところへ走り去って行きましたって」

 前言を撤回する。やっぱりこいつはヤマゲンだった。
 
「あははは 冗談冗談」

 じゃあね。っと言って笑いながら去っていった。

 彼女の背中に手を振って見送る。

 ( 私はこれからどうすればいい? )

 そうなんだよね。どうしたもんだか。ニーナのつぶやきは切実だ。何もわからない知らない場所で、知らない人達の中でどう行きていけばいいのかわからないのだ。当然ながら自分はそんな経験などしたことがない。それ故に、何もアドバイス出来るものを持ち合わせていなかった。
 
「立ち話もなんだし、ちょっと座ろう。」

 少し先にある小さな公園の木製のベンチに二人で腰掛けた。公園のベンチに手を繋いで座る男女。端から見たら、どう見てもカップルだよなあ。後々に噂になる事に不安が過る。

 ( どうすればいいんでしょうか )

 なにを?っと一瞬思ってごめんなさい。いかん、真面目に考えねば。くだらない、ニーナの悩みと比べて遥かにくだらない心配をしている場合では無かった。

 とは云うものの、何も思いつかない。

 こういうときは、シンプルに考えよう。ニーナが、安心して過ごせる場所。それがあれば第一段階クリアだ。

 ……うん。無いな。

 誰かに相談するにしても、事情話せる人なんて居ないし。ニーナには力を使って欲しくない。

 無理ゲー過ぎる。

 お金も無い。家も無い。身内も居ない。言葉も話せない。そして異世界の住人である。あまりにもユニーク過ぎる。

 ん?

 あれ?

 なんか閃いた。

 でも、どうやって。

 いや、やってみる価値はある。

 そう思ったとき、手をずっと繋いだままだったことを思い出した。自分が考えていたことは、全部筒抜けだったんだろうな。
 ニーナはこちらを見て頷き
 
 ( いいと思います。その案。 )

 そう云って


 いたずらっぽく笑った。
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