王様のナミダ

白雨あめ

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その扉の先は6

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「なっ、」

驚くひまもなく、離れていく会長の綺麗な顔をみる。
きっと、酷く間抜けな顔をしているであろう意識はあるけれど、それを直すだけの時間は今の俺にはない。

「か、会長! なにしてるのっ。き、きすとか! 2回目だしっ。」

「うるせぇ。てめぇが嘘つくのがわりぃ。」

「う、うそなんて!」

「言った。お前は嘘ついた。」

そう、吐き捨てるように言う会長に、軽く目を見開く。
はっ、と小さく息を吐いてそっぽを向いた会長の横顔をみて、あぁその通りだな、と素直に思う。

会長が太陽くんに会いに行って、平気なわけない。太陽くんは、会長のことが好きなんだ。それだけで気になるのに。

心が狭いってことは分かってるけど、嫌なんだ。ただ、それだけで。

会長が、好きなのはこいつだ、と。そう言ってくれた時、すごく嬉しくて愛しさがこみ上げた。

それと同時に感じたのは、少しの。それでも確かな優越感で。

会長は、太陽くんじゃなくて俺を選んでくれた。

そう思ったら、確かにすごく嬉しくて。

「会長、......ごめん。俺、嫌なやつなんだ。会長が太陽くんじゃなくて俺を選んでくれたとき嬉しかった。でもっ、俺は」

偉そうに太陽くんを可哀想だと思ったことは本当だけど、でもそれ以上に。

「会長に、嫌な俺を見てほしくなかった。」

あの時、太陽くんに優越感を覚えた俺を。

「こんな、俺を」

「桜庭。」

呼ばれた名前に、自然と下がっていた視線をあげる。
今の俺は、きっと情けない顔をしているに違いない。

だって会長も、見たことないくらいへにょへにょの顔をしているから。

「桜庭。俺は、......正直言うとあいつのことなんてどうでもいい。あいつがこの学園にいる限り、生徒会長としてあいつと関わる。それは他の生徒にも言えることだ。でも、」

会長の手が、湿布のはっていない方の頬に触れる。

「お前は、違うだろ?」

首を傾げながら、耳を赤くしながら。

そう、小さく笑う会長に、俺も自然と笑みがこぼれる。


「俺が......。俺が、好きなのは、お前なんだ。あいつじゃねぇ。」

「......うん。」

「それでもあいつんとこ行けっていうのか。」

「ううんっ。いわ、ない。」


震える腕を懸命に伸ばす。声が震えて、カッコ悪い。

だけど、しょうがない。これが俺なんだ。
泣くのを我慢しただけ、ほめてほしいくらいだ。


会長が、クツリとかっこよく笑う。

この人の大きさは知っているはずだったのに。


なんだか、どこまでも。どこまでも救われた気分だ。


「かいちょ、う......。」

「さくらば。」


伸ばした手を掴まれる。

どくどく、と酷く脈打つ熱に、身体の全部が熱くなる。


触れ合う肌はほんの一部で。だけど、そこから会長の熱まで伝染するみたいに。視線が離せない。

身体が勝手に引き寄せられる。




ーーあぁ、この人が好きだ。




そう強く思う。



「かいちょ、」

「こらあ!? 桜庭っー!」

「おわっ!」


唇が触れ合う寸前、真横の扉から飛び出してきた人影に、会長の腕を咄嗟に掴み後ろへ下がる。

なんだっ、何事なの!

急ぎ、視線を移してみれば。あぁ、......納得というか。なんというか。


「......愛せんぱい。」


「名字で呼ぶなっつってんだろうが!」

「あー、はいはい。すいません。」

「てめえ!」


拳を固く作り、肩を上げた愛先輩の背後にまたもや人影。ゆらゆら揺れて見える銀の色。


「まぁまぁ、愛ちん。そんな怒ることないじゃん。君の名前はとっても似合ってると思うよー。俺も」

「おい、こら錦。てめぇ」


俺から視線を外し、錦を睨みつける愛先輩の顔は驚くほどに険しい。果たして今までに、愛先輩がここまで酷く表情を歪ませたことがあっただろうか。

俺の記憶のなかで、今の愛先輩は一番怒っている気がする。もう、鬼を通りこして鬼神の表情である。



なんか普通にこわい。

「おい、桜庭。」

「......ん?」



愛先輩と錦のバトルを見ていた俺に、少しの吐息。小声で名前を呼びながら、俺の袖の端をくいくいと引っ張る会長に振り返る。振り返りながらーー、


え、ちょっとまって。なに、それ。

真面目な顔でなにやってんの。

なにその、可愛い動き。


と思ったけれど、口には出さない。こんなこと思ったなんて知られたら引かれかねない。



「こいつらがバカやってる内に廊下に出るぞ。愛に捕まったらめんどくせぇ。」

「あ、うん。分かった。」



一つ頷き、会長の手を握りなおす。途端、ぽっ、と赤くなった耳に口元が緩むのが止められない。

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