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1巻
1-3
しおりを挟む「着いたぞ」
ムスッとしたギルの声に、新菜は目の前の建物を見上げた。
三階建ての建物は、コンクリートのようなモスグリーンの石壁に、飾り窓が左右対称に付いている大きな屋敷だった。
両開きの豪華な扉から支配人らしき男が出てきて、恭しく二人を出迎える。
「いらっしゃいませ。今日は旦那様のお相手を探しに? それとも、そこのお嬢さんの身売りをご希望ですか?」
「あ、私の相手を探しに」
眼鏡をかけた上品そうな男は、新菜の言葉に眉を上げて驚いた。
「ほぉ、それはそれは……」
「あ、でも、今日は下見というか……、どのぐらいの金額で買えるのか事前に知っておきたくて。それだと、やっぱり入れてもらえませんか?」
新菜は最初に今日は下見するために来たのだと告げる。入った瞬間に、「さぁ買え!」と迫られても困るからだ。
彼女のその言葉に、支配人らしき男は別段気分を害した風でもなく笑って頷いてくれた。
「よろしいですよ。さあ、どうぞ」
その対応から、ここはとんでもなく高級な娼館ではないかと思った。
もちろん、新菜は娼館に行ったことはない。日本でだって風俗に行ったことなどない新菜である。
しかし、行ったことがない場所でも、イメージというものはある。ここはなんというか厳かな雰囲気が漂う、銀座の高級クラブのようだ。中に入って、その印象は確信に変わった。
「うわー……」
頭上には大きなシャンデリアが吊り下がり、床には染み一つない真っ赤な絨毯が敷かれていた。そして、長い階段を下りたその先には、色とりどりのドレスに身を包んだ美しい女性達の姿がある。
「ギ、ギル! ギル! ここ凄く高そうだよ! 私もっと安い所でいい!」
彼の袖を引っ張りながら新菜は小声でそう言う。そんな彼女を、ギルは冷たい瞳で見下ろした。
「残念だが、この街で男娼がいる娼館はここだけだ。金が払えないなら男娼なんて早々に諦めることだな」
「……なんかギル、機嫌悪い?」
「悪くない。胃がムカムカして死にそうなだけだ」
眉間に皺を寄せたままギルがそう言ったところで、支配人の男が色気の漂う男性を三人程連れてきた。一人は少年のように可愛らしく、もう一人は引き締まった体躯を持つなかなかの美丈夫だ。最後の一人も独特の色香を持つ長髪の気怠そうな男だった。
三人三様、タイプは違うがなかなかのイケメン具合である。新菜はその揃った顔ぶれに引きつった笑みを浮かべた。
(た、高そう……)
しかし、生理的に受け付けないということはない顔ぶれだ。その点で考えれば、ここは新菜にとって最適な娼館だったのかもしれない。
(たぶん、キスくらいなら平気かな……)
そう思っていると、低い声でギルが支配人に値段を聞く。しかし、この世界に来て間もない新菜に当然貨幣価値がわかるわけもなく、結局どのくらい働けば彼らの一晩が買えるのか、ギルに説明してもらうこととなった。
「一ヶ月のお給料と同じ!? 一晩が!?」
「あくまで平均的な月収だがな」
これで諦めがついたか? そう言いたそうな表情でギルは腕を組んだまま新菜を見下ろした。
結局、新菜は男娼を買うのを諦めざるを得ない現実を目の当たりにし、すごすごと娼館から退散するしかなかった。
「どうしよう……」
部屋に帰ってきた新菜は紐をつけてペンダントのように首から下げた小瓶を夕日にかざす。
空にはすでに夜の藍が覗き始めていた。もうすぐ夜がくる。
(あーあ、いい案だと思ったんだけどな……)
まさか男娼が、あんなに高いものだとは思いもしなかった。とてもじゃないが、新菜が数日稼いでどうにかなる金額ではない。
まぁ、働く場所もないのだが……
新菜としては、日雇いや短期バイトのつもりで一日数時間でもどこかで働けたらと思っていたのだが、自分が根本的な労働条件を満たしていないと教えられたのだ。
ギルが言うには、魔力を自在に使えない新菜がこの街で働くのはかなり難しいらしい。
ほとんどの人間が魔力を持ち魔術を使って生活している国では、仕事も当然魔力を使ったものとなる。いくら魔力を溜めることができても、新菜にそれを操ることはできない。
今後、使えるようになるかもしれないが、今の新菜が就ける仕事はこの街にはないに等しいのだそうだ。王都に行けば魔力がない者や魔法を操れない者でも雇ってくれるところがあるらしいのだが、この街くらいの大きさでは、それこそ娼婦くらいしか仕事がないとのことだった。
昼の段階で全体の五分の一程あったピンク色の液体は、瓶底が透けるまでに減ってしまっていた。
(もう一度ギルに頼む? でもこれ以上、彼に迷惑をかけるのもなぁ……)
最初にキスをした時の何かに耐えるようなギルの表情を思い出し、新菜は心が重くなるのを感じる。
(やっぱり、嫌なんだろうな。ああ見えて結構女性の理想が高そうだし、暴力女とキスなんてしたくないよね……)
新菜は深いため息をついた。
正直に言えば、新菜は出会ったばかりの男娼より、ギルとキスをする方がいい。
いくらセクハラ発言があっても、基本的に彼は真面目で誠実な男性だ。出会ってまだ一日だが、彼は信用に足る人物だと思っている。
だからこそ、彼にこれ以上迷惑をかけるのは気が引けた。だけど……
ギルにキスを頼むか、それとも他の方法を考えるか。
「どうかしたのか?」
机に肘を付いて俯いたまま、内心でぐるぐる葛藤している新菜の顔を、後ろから来たギルが心配そうに覗き込んできた。
新菜は、その男らしい顔をじっと見つめる。
小瓶の中の魔力も少ない。ここは、彼に我慢して協力してもらう他ないだろう。
「ねぇ、ギル」
「なんだ?」
「今日だけでもいいから、魔力を溜めるの手伝って欲しい」
新菜が遠慮がちにそう言うと、ギルは少し拗ねたようにそっぽを向いた。
「今更か。俺は男娼の代わりはご免こうむる」
勇気を出して頼んだ新菜のその願いを彼は一言で突っぱねる。新菜は眉を下げながら困ったように頬を掻いた。
「うーん、むしろ男娼の方がギルの代わりだったんだけど」
「は? 逆じゃなくて?」
「逆じゃなくて」
驚いた声を出して、ギルはその場で固まった。まるで真意を探るかのようにじっと新菜を見つめている。
「……」
「……ねぇ、やっぱり嫌かな?」
その場合、最悪路上で見知らぬ男性に声をかけないといけなくなるのだろうか。できればそれはやりたくない。けれども本気でギルが嫌がるなら、新菜は無理強いすることはできなかった。
ギルは何も言わず、強張った顔で新菜を見つめている。
その表情が全てを物語っているようで、新菜はため息を一つついた。
「うん、わかった。じゃあ、いいや。何か別の方法考えるから……変なこと聞いてごめんね」
新菜は笑顔を張り付けたまま手を振る。そのまま頭を下げても、まだ驚いた顔でギルは固まっていた。
キスだけなのにそんなに嫌なのか……そう思うと胸が少し苦しくなる。確かに自分は女性としての魅力に乏しいかもしれないが、あんな表情をされる程嫌がられたことは過去になかった。
こうなったら、本気で路上で男漁りをしなくてはいけないらしい。
神様はなんて運命を自分に授けたのだろうか。彼氏に浮気されたあげく、突然跳ばされた異世界で男漁りをしなくてはいけないなんて……
新菜は路上で男に唇を強請る自分を想像し、あまりの気持ち悪さに吐き気がした。
それでも、この世界で生きて行くには魔力が絶対に必要だ。少なくとも日常会話を覚えるまで、新菜はこの魔法陣に頼らなくてはいけない。
覚悟を決めた新菜は、おもむろに席を立つ。
「……どこへ行く気だ?」
ふらふらと扉から出て行こうとする新菜をギルが止める。
「んー。聞かないで欲しいかな」
男を漁りに行くなんてはしたないこと、ギルには言いたくなかった。
「……お前まさか……」
新菜はギルの視線から逃れるように俯く。
「ダメだ! それは本当にダメだ、危険すぎる! 路上で男を誘うなんて真似を俺が許すと思うのか!」
「だって……」
じゃあ、どうしろというのだ。男娼は高すぎて買えない。ギルに頼むこともできない。このままではじきにまた、魔力切れで意思疎通ができなくなる。新菜は正直、もういっぱいいっぱいだった。
「どうして、もうちょっと俺を頼ろうとしない!」
ギルが怒ったように新菜の肩を掴んできた。
「頼ったじゃない! 断ったのはギルでしょう……」
「断ってない! 少し驚いていただけだ!」
その言葉に、新菜は戸惑いつつ彼を見上げる。
「……じゃあ、してくれるの?」
「ああ」
ずいっと顔を近付けてきたギルに、新菜は思わず後ずさった。
なんだか、彼の雰囲気が先程までと違う気がするのは気のせいだろうか……
「ニーナ、俺でいいんだな?」
「え? う、うん。もちろん」
自分の名を呼ぶギルの声がやけに甘く聞こえて、新菜は背筋を震わせながら彼を見上げた。
ギルの赤い瞳は新菜を映してゆらゆら揺れている。その赤い瞳の奥に、はっきりと情欲を感じ取り、新菜は自分が犯した大きなミスに気が付いた。
「ギル、その、もしかして勘違い……」
「俺がすぐにお前を天国に連れて行ってやるからな」
腹の底に響くような声と台詞に、新菜の全身がぶるりと震えた。
(い、いけない! ギルの色香に流されてる場合じゃないっ……!!)
「あ、あのね、ギル。私がして欲しいのはキスだけで、たぶんギルが思ってるのとは違うかなぁって思うんだけど……」
「*#¢£♯@ニーナ?」
おずおずと切り出した新菜だったが、次の瞬間ギルの言葉が理解できなくなった。
「何この最悪なタイミング!」
じりじりと壁際まで追いつめられて、ニーナは怯えたようにギルを見上げる。自然と目が潤み顔は赤くなっているはずだ。そんな新菜を見つめ、ギルは本当に嬉しそうに唇の端を引き上げた。
彼はシャツのボタンを片手で外しながら、もう片方の手で壁と自分の間に新菜を閉じ込める。そして逃げ道を塞ぐように新菜の両足の間に自身の膝を入れた。
「ひぃっ! ちょっと、ほ、本気なの!? 私達まだ出会って一日な……」
「ニーナ」
シャツのボタンを外したギルの人差し指が、新菜の唇にそっと当てられる。そのジェスチャーは世界が変わっても一緒なのだろうか。
少し黙れ、と言われているような気がして、ニーナは口をつぐんだ。
新菜が静かになると、ギルはまるで褒めるみたいに新菜の頬にキスを落とす。チュッというリップ音が耳に響いてどうしようもなく肌が粟立った。
「あ、あのね、ギル。キスだけでいいんだけど」
「%&※∞$?」
「えっと……」
焦った新菜は咄嗟に自らの唇を指す。するとギルはわかったと頷き、新菜の肩を壁に押しつけて顔を近付けてきた。どうしようもなく心臓が高鳴る。最初にキスした時とは比べものにならないくらい体温が上がっていった。
「んっ……」
二人の唇が重なる。ギルの熱い唇が新菜の唇を音を立てて吸う。上唇と下唇を交互に吸われただけで、立っていられなくなる程の快感が新菜を襲った。
「んっ……はぁ」
ただ触れるだけのキスなのに、二人の呼吸が荒くなっていく。
ギルはキスを続けながら、快楽に溺れそうになっている新菜の顔を熱く見つめる。そして、いきなり彼女の口腔内に舌を侵入させた。
「ぁっ」
新菜は突然のことにビクッと肩を跳ねさせて、咄嗟に唇を閉じようとする。
だが、ギルは新菜の口に親指を入れて、無理矢理開かせた。溢れた唾液が彼の腕を伝っていく。
新菜の下顎を掴んだまま、ギルは新菜の舌をしゃぶる。じゅっと音を立てて吸われた後、新菜の舌先をギルが甘く噛んだ。
「んっ……ぁあぁー!!」
抗議するように声を出すと、ギルは少し笑って下顎から手を離した。
その手は新菜の身体を流れるように滑り、彼女の服を脱がしにかかる。いつの間にかワンピースをたくし上げていた手が、新菜の太腿から胸元までを一気に撫で上げた。
「ひゃぁあんっ!!」
直接肌に触れた手の感触に、新菜の背筋がゾクゾクと震える。全身が粟立ち、まるで期待するみたいに、じゅん、っと下半身が疼いた。
新菜は自分の反応に戸惑い、必死にその快感に耐える。自然と彼のシャツを掴む手が震えてしまった。目ざとくそれに気付いたギルは、意地悪く微笑み新菜の耳に唇を寄せる。
「ここがいいんだったな……」
次の瞬間、くちゅり、という粘着質な音が新菜の頭に直接響く。そして、いやらしい手つきで背中を撫で回された。
「ひっ! や、やだっ……っ! ギルっ! 耳も、せ、せなかも、やめっ……ひゃぁあぁんっ!」
耳の穴に舌を差し込まれて、くちゅりくちゅりと隅々まで舐められる。耳朶を噛まれて、再び新菜の身体がビクンと跳ねた。背中もいやらしい手が何度も何度も往復を繰り返している。
「右の次は、左だな」
耳元でそう囁いたギルが、あっという間に左に移動する。そしてそのまま左耳に舌をねじ込まれた。
「あっ!! やだぁ……。ギル――んっ! やぁ、やめてぇっ!」
「可愛いよ、ニーナ」
「は、ひゃぁん――っ! みみもとでっ! んっ!」
「ニーナは耳もいいのか?」
ギルが新菜の目尻に溜まった涙を舐め取りながら、そう聞いてくる。新菜はがくがくと震える身体を抱き締め緩く首を振った。
「わかん、ない……」
「なら、わかるまでしようか」
「やっ!」
新菜は目の前に迫るギルの顔をぐっと押しやるが、抵抗むなしく両手首を掴まれ壁に磔にされてしまう。ギルは互いの手の指を絡ませて優しく微笑んだ。そして唇を新菜の唇に合わせる。
「んっ……はっ、んっ……」
「ん……」
貪るように唇を吸いながら、ギルは新菜の両手首を片手で固定し直した。そしてもう片方の手で彼女の素肌をなぞる。スカートの中に侵入してきたギルの手は、新菜の下着の上から、濡れ始めた隙間をゆっくりとなぞり上げた。
「んー! んー! んー!」
本気で貞操の危機を感じ、新菜は唇を塞がれたままギルの手から逃れようと必死に身を捩る。しかし、ぴくりとも動かないギルの腕に新菜は半泣きになった。すると、ギルは新菜から唇を離し、切なそうな目を向けてきた。
「やっぱり俺は嫌か?」
「な、何を言ってるの?」
「俺より、見ず知らずの男娼に抱かれる方がいいのか?」
少し息を詰めたような表情でギルは新菜を見つめる。その少し悲しげな表情に新菜は声を張った。
「そんなわけないでしょ!」
「そうか。よかった」
「――っ!」
本当に嬉しそうに微笑まれ、新菜は二の句が継げなくなる。
おまけに彼は、会話の合間にも新菜の身体をまさぐっているのだ。きっと、ギルの経験値はかなりのものなのだろう。新菜のオーバースカートとエプロンは、いつの間にか脱がされて床に落とされている。その手際の良さたるや感心する程だった。
それはそうだろう。控えめに言っても彼はかなりの色男だ。通った鼻筋に燃えるような瞳。黙っていても男性としての色気が滲み出ている。
おまけに、服の上からでもわかるぐらい、しっかりと鍛えられた逞しい身体をしているのだ。
そんな男性を、女性が放っておくはずがない。
彼の甘いマスクと逞しい身体で迫られたら、どんな女性だっていちころだ。それは、新菜とて例外ではない。すでに、これでもかと体温が上昇しているのを肌で感じる。頭が沸騰しそうなくらい熱い。
そんなことを考えている間に、ギルの指が下着の縁からそっと中に侵入してきた。
「ひゃぁっん!」
新菜の口から思わず甲高い声が出る。
「……ニーナ」
ギルは蕩けるような甘い顔をして、新菜の首筋にキスを落とした。湿った音を響かせながら強く吸い上げ、赤い花を咲かせていく。ギルは自分の付けた痕を見て満足そうに舌で唇を湿らせた。
新菜にはそれが、獲物を前にした肉食獣の舌なめずりのように見える。
本能的な危機感を感じて、新菜は思わず声を張った。
「本当にちょっと待って!」
「待てない」
内臓に響くようなその声に全身が粟立つ。ギラギラと情欲を湛えた瞳が新菜を鋭く射る。
ギルの手は新菜の素肌を流れるように滑り、躊躇うことなくその胸を揉みしだいた。
「んぁっ……あぁああぁっ!」
容赦なく胸の頂を押しつぶされて、新菜は震えながら甘い声を響かせる。
「いいぞ、ニーナ」
何がいいのかわからない。新菜は溶けた思考で必死にこの状況から抜け出す方法を考えた。しかし、彼女の意思とは裏腹に身体は快感に正直で、背筋をビクつかせながら蜜壷を潤わせる。
ショーツの中に侵入していたギルの指が、ぐちゅりと音を響かせながら押し入ってきた。
「濡れているな。……もうドロドロじゃないか」
ギルが嬉しそうに新菜の耳元で囁く。
「――――っ!!」
新菜のそこは彼の指を更に呑み込まんと無意識に肉をひくつかせている。
「欲張りな身体だな。もう俺が欲しいらしい」
「言わないでぇ――っ! んっ!!」
ギルが新菜の花びらを押しつぶす。甘い痺れが身体中に広がって、新菜は身体をびくびくと痙攣させた。その瞬間、ギルは新菜の花芯を摘み上げる。
「んやぁんんんっ――――――!!」
新菜の視界に火花が散った。
いつの間にか自由になっていた両手で、新菜はギルの頭を抱き込む。そのまま弓なりに背中をそらして達してしまった。
「あと、何回イきたい? 好きなだけイかせてやろう」
「イかせてやろう、って……」
ワンピースもブラも取り払われ、ショーツだけになっていた新菜は真っ赤な顔で上半身を隠す。
心臓の音がおかしいぐらいに頭に鳴り響いている。
もちろん新菜は処女ではない。処女ではないが、こんな快感は知らなかった。
頭の芯が溶けるような、身体が熱く痺れていく感覚はこれまで経験したことがない。はっきり言って、とっても気持ちが良い。
このまま快感に流されてしまいたい。そう思う自分に、冷静な自分が警鐘を鳴らす。
いくら気持ちが良くても、気持ちの伴わない行為は空しいだけではないのだろうか。
(もしギルとするなら、そういう関係になってからしたいな……)
一瞬頭の隅をよぎった思考を、新菜は必死に振り払う。
それではまるで、彼とそういう関係になりたいと思っているみたいだ。
あくまでこれは、新菜が異世界で生きていくための魔力を溜める――そのための行為なのだから。
新菜は流されそうになる気持ちを抑え、ギルに向かって口を開いた。
「ね、ねぇ、ギル」
「どうした?」
「いや、なんでも……ない」
目の前に現れたとんでもない肉体美に思わず目を奪われた。シャツを脱いだギルは、美しく鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく晒して新菜に迫ってくる。
その身体を見た瞬間、このまま抱かれてもいいかな、と考えたのは仕方のないことだと思う。
至る所に見える引きつった傷痕も、今の新菜には最高に色っぽく見えた。
新菜は無意識にギルの胸板に手を触れ、ごくりと喉を鳴らす。
これから彼に抱かれる。そう思っただけで、新菜の身体は期待で更に溶けてくる。
ギルは新菜のショーツを脱がし、潤ったソコに指を二本差し入れた。
「あ、ぁ、あぁー……」
そこは、いつでもギルを受け入れられる程にトロトロに溶けきり蜜を溢れさせている。
がくがくと足が震え、新菜はもう立っていられないとばかりにギルに縋りついた。
「なぁ、そろそろいいか?」
ぐちゃぐちゃと人差し指と中指を新菜の中に出し入れしながら、ギルはうっとりとそう聞いてきた。円を描くように中を掻き回され、新菜は小さく悲鳴を上げる。新菜の中はもう準備万端だ。
「お前の中に入りたい」
「ギ、ル……」
涙目で新菜が見上げると、ふっとギルに微笑まれる。そのまま抱き上げられた新菜は、ベッドに連れて行かれて押し倒された。
「あ、あの、待ってっ!」
「もう遅い」
そう言って、ギルはいつの間にかくつろげていたズボンから反応した己自身を取り出した。
「へっ!?」
それを目の当たりにした瞬間、新菜は素っ頓狂な声を上げる。
(大きい! 太い! 長い! 無理無理無理――!!)
あんな凶悪なモノを、今から自分の中に入れられるのかと思ったら戦慄するしかない。
「ちょっと、む、り……」
「ん?」
新菜が思わず震える声を出す。それが聞き取れなかったのか、ギルは小首を傾げた。しかしその間にもギルは行為を進め、その凶悪な切っ先を新菜の中心へと宛てがった。新菜はのしかかってくる身体を必死に押し返す。
「入らない! 無理! そんな大きいの!」
「なんだ褒めているのか?」
何を勘違いしたのか、ギルは嬉しそうに笑う。
「ちが……」
「ニーナ、挿れるぞ」
「――――っ」
話を聞かないギルの行動に、新菜の大きな黒真珠のような瞳が潤む。その変化に気付いたギルは今にも入らんとしていた己自身を止めて、新菜を覗き込んだ。
「ニーナ?」
「な……」
「な?」
「難易度考えろ!!」
そう叫びながら、新菜はのしかかってくるギルの腹部を蹴り上げたのだった。
ムスッとしたギルの声に、新菜は目の前の建物を見上げた。
三階建ての建物は、コンクリートのようなモスグリーンの石壁に、飾り窓が左右対称に付いている大きな屋敷だった。
両開きの豪華な扉から支配人らしき男が出てきて、恭しく二人を出迎える。
「いらっしゃいませ。今日は旦那様のお相手を探しに? それとも、そこのお嬢さんの身売りをご希望ですか?」
「あ、私の相手を探しに」
眼鏡をかけた上品そうな男は、新菜の言葉に眉を上げて驚いた。
「ほぉ、それはそれは……」
「あ、でも、今日は下見というか……、どのぐらいの金額で買えるのか事前に知っておきたくて。それだと、やっぱり入れてもらえませんか?」
新菜は最初に今日は下見するために来たのだと告げる。入った瞬間に、「さぁ買え!」と迫られても困るからだ。
彼女のその言葉に、支配人らしき男は別段気分を害した風でもなく笑って頷いてくれた。
「よろしいですよ。さあ、どうぞ」
その対応から、ここはとんでもなく高級な娼館ではないかと思った。
もちろん、新菜は娼館に行ったことはない。日本でだって風俗に行ったことなどない新菜である。
しかし、行ったことがない場所でも、イメージというものはある。ここはなんというか厳かな雰囲気が漂う、銀座の高級クラブのようだ。中に入って、その印象は確信に変わった。
「うわー……」
頭上には大きなシャンデリアが吊り下がり、床には染み一つない真っ赤な絨毯が敷かれていた。そして、長い階段を下りたその先には、色とりどりのドレスに身を包んだ美しい女性達の姿がある。
「ギ、ギル! ギル! ここ凄く高そうだよ! 私もっと安い所でいい!」
彼の袖を引っ張りながら新菜は小声でそう言う。そんな彼女を、ギルは冷たい瞳で見下ろした。
「残念だが、この街で男娼がいる娼館はここだけだ。金が払えないなら男娼なんて早々に諦めることだな」
「……なんかギル、機嫌悪い?」
「悪くない。胃がムカムカして死にそうなだけだ」
眉間に皺を寄せたままギルがそう言ったところで、支配人の男が色気の漂う男性を三人程連れてきた。一人は少年のように可愛らしく、もう一人は引き締まった体躯を持つなかなかの美丈夫だ。最後の一人も独特の色香を持つ長髪の気怠そうな男だった。
三人三様、タイプは違うがなかなかのイケメン具合である。新菜はその揃った顔ぶれに引きつった笑みを浮かべた。
(た、高そう……)
しかし、生理的に受け付けないということはない顔ぶれだ。その点で考えれば、ここは新菜にとって最適な娼館だったのかもしれない。
(たぶん、キスくらいなら平気かな……)
そう思っていると、低い声でギルが支配人に値段を聞く。しかし、この世界に来て間もない新菜に当然貨幣価値がわかるわけもなく、結局どのくらい働けば彼らの一晩が買えるのか、ギルに説明してもらうこととなった。
「一ヶ月のお給料と同じ!? 一晩が!?」
「あくまで平均的な月収だがな」
これで諦めがついたか? そう言いたそうな表情でギルは腕を組んだまま新菜を見下ろした。
結局、新菜は男娼を買うのを諦めざるを得ない現実を目の当たりにし、すごすごと娼館から退散するしかなかった。
「どうしよう……」
部屋に帰ってきた新菜は紐をつけてペンダントのように首から下げた小瓶を夕日にかざす。
空にはすでに夜の藍が覗き始めていた。もうすぐ夜がくる。
(あーあ、いい案だと思ったんだけどな……)
まさか男娼が、あんなに高いものだとは思いもしなかった。とてもじゃないが、新菜が数日稼いでどうにかなる金額ではない。
まぁ、働く場所もないのだが……
新菜としては、日雇いや短期バイトのつもりで一日数時間でもどこかで働けたらと思っていたのだが、自分が根本的な労働条件を満たしていないと教えられたのだ。
ギルが言うには、魔力を自在に使えない新菜がこの街で働くのはかなり難しいらしい。
ほとんどの人間が魔力を持ち魔術を使って生活している国では、仕事も当然魔力を使ったものとなる。いくら魔力を溜めることができても、新菜にそれを操ることはできない。
今後、使えるようになるかもしれないが、今の新菜が就ける仕事はこの街にはないに等しいのだそうだ。王都に行けば魔力がない者や魔法を操れない者でも雇ってくれるところがあるらしいのだが、この街くらいの大きさでは、それこそ娼婦くらいしか仕事がないとのことだった。
昼の段階で全体の五分の一程あったピンク色の液体は、瓶底が透けるまでに減ってしまっていた。
(もう一度ギルに頼む? でもこれ以上、彼に迷惑をかけるのもなぁ……)
最初にキスをした時の何かに耐えるようなギルの表情を思い出し、新菜は心が重くなるのを感じる。
(やっぱり、嫌なんだろうな。ああ見えて結構女性の理想が高そうだし、暴力女とキスなんてしたくないよね……)
新菜は深いため息をついた。
正直に言えば、新菜は出会ったばかりの男娼より、ギルとキスをする方がいい。
いくらセクハラ発言があっても、基本的に彼は真面目で誠実な男性だ。出会ってまだ一日だが、彼は信用に足る人物だと思っている。
だからこそ、彼にこれ以上迷惑をかけるのは気が引けた。だけど……
ギルにキスを頼むか、それとも他の方法を考えるか。
「どうかしたのか?」
机に肘を付いて俯いたまま、内心でぐるぐる葛藤している新菜の顔を、後ろから来たギルが心配そうに覗き込んできた。
新菜は、その男らしい顔をじっと見つめる。
小瓶の中の魔力も少ない。ここは、彼に我慢して協力してもらう他ないだろう。
「ねぇ、ギル」
「なんだ?」
「今日だけでもいいから、魔力を溜めるの手伝って欲しい」
新菜が遠慮がちにそう言うと、ギルは少し拗ねたようにそっぽを向いた。
「今更か。俺は男娼の代わりはご免こうむる」
勇気を出して頼んだ新菜のその願いを彼は一言で突っぱねる。新菜は眉を下げながら困ったように頬を掻いた。
「うーん、むしろ男娼の方がギルの代わりだったんだけど」
「は? 逆じゃなくて?」
「逆じゃなくて」
驚いた声を出して、ギルはその場で固まった。まるで真意を探るかのようにじっと新菜を見つめている。
「……」
「……ねぇ、やっぱり嫌かな?」
その場合、最悪路上で見知らぬ男性に声をかけないといけなくなるのだろうか。できればそれはやりたくない。けれども本気でギルが嫌がるなら、新菜は無理強いすることはできなかった。
ギルは何も言わず、強張った顔で新菜を見つめている。
その表情が全てを物語っているようで、新菜はため息を一つついた。
「うん、わかった。じゃあ、いいや。何か別の方法考えるから……変なこと聞いてごめんね」
新菜は笑顔を張り付けたまま手を振る。そのまま頭を下げても、まだ驚いた顔でギルは固まっていた。
キスだけなのにそんなに嫌なのか……そう思うと胸が少し苦しくなる。確かに自分は女性としての魅力に乏しいかもしれないが、あんな表情をされる程嫌がられたことは過去になかった。
こうなったら、本気で路上で男漁りをしなくてはいけないらしい。
神様はなんて運命を自分に授けたのだろうか。彼氏に浮気されたあげく、突然跳ばされた異世界で男漁りをしなくてはいけないなんて……
新菜は路上で男に唇を強請る自分を想像し、あまりの気持ち悪さに吐き気がした。
それでも、この世界で生きて行くには魔力が絶対に必要だ。少なくとも日常会話を覚えるまで、新菜はこの魔法陣に頼らなくてはいけない。
覚悟を決めた新菜は、おもむろに席を立つ。
「……どこへ行く気だ?」
ふらふらと扉から出て行こうとする新菜をギルが止める。
「んー。聞かないで欲しいかな」
男を漁りに行くなんてはしたないこと、ギルには言いたくなかった。
「……お前まさか……」
新菜はギルの視線から逃れるように俯く。
「ダメだ! それは本当にダメだ、危険すぎる! 路上で男を誘うなんて真似を俺が許すと思うのか!」
「だって……」
じゃあ、どうしろというのだ。男娼は高すぎて買えない。ギルに頼むこともできない。このままではじきにまた、魔力切れで意思疎通ができなくなる。新菜は正直、もういっぱいいっぱいだった。
「どうして、もうちょっと俺を頼ろうとしない!」
ギルが怒ったように新菜の肩を掴んできた。
「頼ったじゃない! 断ったのはギルでしょう……」
「断ってない! 少し驚いていただけだ!」
その言葉に、新菜は戸惑いつつ彼を見上げる。
「……じゃあ、してくれるの?」
「ああ」
ずいっと顔を近付けてきたギルに、新菜は思わず後ずさった。
なんだか、彼の雰囲気が先程までと違う気がするのは気のせいだろうか……
「ニーナ、俺でいいんだな?」
「え? う、うん。もちろん」
自分の名を呼ぶギルの声がやけに甘く聞こえて、新菜は背筋を震わせながら彼を見上げた。
ギルの赤い瞳は新菜を映してゆらゆら揺れている。その赤い瞳の奥に、はっきりと情欲を感じ取り、新菜は自分が犯した大きなミスに気が付いた。
「ギル、その、もしかして勘違い……」
「俺がすぐにお前を天国に連れて行ってやるからな」
腹の底に響くような声と台詞に、新菜の全身がぶるりと震えた。
(い、いけない! ギルの色香に流されてる場合じゃないっ……!!)
「あ、あのね、ギル。私がして欲しいのはキスだけで、たぶんギルが思ってるのとは違うかなぁって思うんだけど……」
「*#¢£♯@ニーナ?」
おずおずと切り出した新菜だったが、次の瞬間ギルの言葉が理解できなくなった。
「何この最悪なタイミング!」
じりじりと壁際まで追いつめられて、ニーナは怯えたようにギルを見上げる。自然と目が潤み顔は赤くなっているはずだ。そんな新菜を見つめ、ギルは本当に嬉しそうに唇の端を引き上げた。
彼はシャツのボタンを片手で外しながら、もう片方の手で壁と自分の間に新菜を閉じ込める。そして逃げ道を塞ぐように新菜の両足の間に自身の膝を入れた。
「ひぃっ! ちょっと、ほ、本気なの!? 私達まだ出会って一日な……」
「ニーナ」
シャツのボタンを外したギルの人差し指が、新菜の唇にそっと当てられる。そのジェスチャーは世界が変わっても一緒なのだろうか。
少し黙れ、と言われているような気がして、ニーナは口をつぐんだ。
新菜が静かになると、ギルはまるで褒めるみたいに新菜の頬にキスを落とす。チュッというリップ音が耳に響いてどうしようもなく肌が粟立った。
「あ、あのね、ギル。キスだけでいいんだけど」
「%&※∞$?」
「えっと……」
焦った新菜は咄嗟に自らの唇を指す。するとギルはわかったと頷き、新菜の肩を壁に押しつけて顔を近付けてきた。どうしようもなく心臓が高鳴る。最初にキスした時とは比べものにならないくらい体温が上がっていった。
「んっ……」
二人の唇が重なる。ギルの熱い唇が新菜の唇を音を立てて吸う。上唇と下唇を交互に吸われただけで、立っていられなくなる程の快感が新菜を襲った。
「んっ……はぁ」
ただ触れるだけのキスなのに、二人の呼吸が荒くなっていく。
ギルはキスを続けながら、快楽に溺れそうになっている新菜の顔を熱く見つめる。そして、いきなり彼女の口腔内に舌を侵入させた。
「ぁっ」
新菜は突然のことにビクッと肩を跳ねさせて、咄嗟に唇を閉じようとする。
だが、ギルは新菜の口に親指を入れて、無理矢理開かせた。溢れた唾液が彼の腕を伝っていく。
新菜の下顎を掴んだまま、ギルは新菜の舌をしゃぶる。じゅっと音を立てて吸われた後、新菜の舌先をギルが甘く噛んだ。
「んっ……ぁあぁー!!」
抗議するように声を出すと、ギルは少し笑って下顎から手を離した。
その手は新菜の身体を流れるように滑り、彼女の服を脱がしにかかる。いつの間にかワンピースをたくし上げていた手が、新菜の太腿から胸元までを一気に撫で上げた。
「ひゃぁあんっ!!」
直接肌に触れた手の感触に、新菜の背筋がゾクゾクと震える。全身が粟立ち、まるで期待するみたいに、じゅん、っと下半身が疼いた。
新菜は自分の反応に戸惑い、必死にその快感に耐える。自然と彼のシャツを掴む手が震えてしまった。目ざとくそれに気付いたギルは、意地悪く微笑み新菜の耳に唇を寄せる。
「ここがいいんだったな……」
次の瞬間、くちゅり、という粘着質な音が新菜の頭に直接響く。そして、いやらしい手つきで背中を撫で回された。
「ひっ! や、やだっ……っ! ギルっ! 耳も、せ、せなかも、やめっ……ひゃぁあぁんっ!」
耳の穴に舌を差し込まれて、くちゅりくちゅりと隅々まで舐められる。耳朶を噛まれて、再び新菜の身体がビクンと跳ねた。背中もいやらしい手が何度も何度も往復を繰り返している。
「右の次は、左だな」
耳元でそう囁いたギルが、あっという間に左に移動する。そしてそのまま左耳に舌をねじ込まれた。
「あっ!! やだぁ……。ギル――んっ! やぁ、やめてぇっ!」
「可愛いよ、ニーナ」
「は、ひゃぁん――っ! みみもとでっ! んっ!」
「ニーナは耳もいいのか?」
ギルが新菜の目尻に溜まった涙を舐め取りながら、そう聞いてくる。新菜はがくがくと震える身体を抱き締め緩く首を振った。
「わかん、ない……」
「なら、わかるまでしようか」
「やっ!」
新菜は目の前に迫るギルの顔をぐっと押しやるが、抵抗むなしく両手首を掴まれ壁に磔にされてしまう。ギルは互いの手の指を絡ませて優しく微笑んだ。そして唇を新菜の唇に合わせる。
「んっ……はっ、んっ……」
「ん……」
貪るように唇を吸いながら、ギルは新菜の両手首を片手で固定し直した。そしてもう片方の手で彼女の素肌をなぞる。スカートの中に侵入してきたギルの手は、新菜の下着の上から、濡れ始めた隙間をゆっくりとなぞり上げた。
「んー! んー! んー!」
本気で貞操の危機を感じ、新菜は唇を塞がれたままギルの手から逃れようと必死に身を捩る。しかし、ぴくりとも動かないギルの腕に新菜は半泣きになった。すると、ギルは新菜から唇を離し、切なそうな目を向けてきた。
「やっぱり俺は嫌か?」
「な、何を言ってるの?」
「俺より、見ず知らずの男娼に抱かれる方がいいのか?」
少し息を詰めたような表情でギルは新菜を見つめる。その少し悲しげな表情に新菜は声を張った。
「そんなわけないでしょ!」
「そうか。よかった」
「――っ!」
本当に嬉しそうに微笑まれ、新菜は二の句が継げなくなる。
おまけに彼は、会話の合間にも新菜の身体をまさぐっているのだ。きっと、ギルの経験値はかなりのものなのだろう。新菜のオーバースカートとエプロンは、いつの間にか脱がされて床に落とされている。その手際の良さたるや感心する程だった。
それはそうだろう。控えめに言っても彼はかなりの色男だ。通った鼻筋に燃えるような瞳。黙っていても男性としての色気が滲み出ている。
おまけに、服の上からでもわかるぐらい、しっかりと鍛えられた逞しい身体をしているのだ。
そんな男性を、女性が放っておくはずがない。
彼の甘いマスクと逞しい身体で迫られたら、どんな女性だっていちころだ。それは、新菜とて例外ではない。すでに、これでもかと体温が上昇しているのを肌で感じる。頭が沸騰しそうなくらい熱い。
そんなことを考えている間に、ギルの指が下着の縁からそっと中に侵入してきた。
「ひゃぁっん!」
新菜の口から思わず甲高い声が出る。
「……ニーナ」
ギルは蕩けるような甘い顔をして、新菜の首筋にキスを落とした。湿った音を響かせながら強く吸い上げ、赤い花を咲かせていく。ギルは自分の付けた痕を見て満足そうに舌で唇を湿らせた。
新菜にはそれが、獲物を前にした肉食獣の舌なめずりのように見える。
本能的な危機感を感じて、新菜は思わず声を張った。
「本当にちょっと待って!」
「待てない」
内臓に響くようなその声に全身が粟立つ。ギラギラと情欲を湛えた瞳が新菜を鋭く射る。
ギルの手は新菜の素肌を流れるように滑り、躊躇うことなくその胸を揉みしだいた。
「んぁっ……あぁああぁっ!」
容赦なく胸の頂を押しつぶされて、新菜は震えながら甘い声を響かせる。
「いいぞ、ニーナ」
何がいいのかわからない。新菜は溶けた思考で必死にこの状況から抜け出す方法を考えた。しかし、彼女の意思とは裏腹に身体は快感に正直で、背筋をビクつかせながら蜜壷を潤わせる。
ショーツの中に侵入していたギルの指が、ぐちゅりと音を響かせながら押し入ってきた。
「濡れているな。……もうドロドロじゃないか」
ギルが嬉しそうに新菜の耳元で囁く。
「――――っ!!」
新菜のそこは彼の指を更に呑み込まんと無意識に肉をひくつかせている。
「欲張りな身体だな。もう俺が欲しいらしい」
「言わないでぇ――っ! んっ!!」
ギルが新菜の花びらを押しつぶす。甘い痺れが身体中に広がって、新菜は身体をびくびくと痙攣させた。その瞬間、ギルは新菜の花芯を摘み上げる。
「んやぁんんんっ――――――!!」
新菜の視界に火花が散った。
いつの間にか自由になっていた両手で、新菜はギルの頭を抱き込む。そのまま弓なりに背中をそらして達してしまった。
「あと、何回イきたい? 好きなだけイかせてやろう」
「イかせてやろう、って……」
ワンピースもブラも取り払われ、ショーツだけになっていた新菜は真っ赤な顔で上半身を隠す。
心臓の音がおかしいぐらいに頭に鳴り響いている。
もちろん新菜は処女ではない。処女ではないが、こんな快感は知らなかった。
頭の芯が溶けるような、身体が熱く痺れていく感覚はこれまで経験したことがない。はっきり言って、とっても気持ちが良い。
このまま快感に流されてしまいたい。そう思う自分に、冷静な自分が警鐘を鳴らす。
いくら気持ちが良くても、気持ちの伴わない行為は空しいだけではないのだろうか。
(もしギルとするなら、そういう関係になってからしたいな……)
一瞬頭の隅をよぎった思考を、新菜は必死に振り払う。
それではまるで、彼とそういう関係になりたいと思っているみたいだ。
あくまでこれは、新菜が異世界で生きていくための魔力を溜める――そのための行為なのだから。
新菜は流されそうになる気持ちを抑え、ギルに向かって口を開いた。
「ね、ねぇ、ギル」
「どうした?」
「いや、なんでも……ない」
目の前に現れたとんでもない肉体美に思わず目を奪われた。シャツを脱いだギルは、美しく鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく晒して新菜に迫ってくる。
その身体を見た瞬間、このまま抱かれてもいいかな、と考えたのは仕方のないことだと思う。
至る所に見える引きつった傷痕も、今の新菜には最高に色っぽく見えた。
新菜は無意識にギルの胸板に手を触れ、ごくりと喉を鳴らす。
これから彼に抱かれる。そう思っただけで、新菜の身体は期待で更に溶けてくる。
ギルは新菜のショーツを脱がし、潤ったソコに指を二本差し入れた。
「あ、ぁ、あぁー……」
そこは、いつでもギルを受け入れられる程にトロトロに溶けきり蜜を溢れさせている。
がくがくと足が震え、新菜はもう立っていられないとばかりにギルに縋りついた。
「なぁ、そろそろいいか?」
ぐちゃぐちゃと人差し指と中指を新菜の中に出し入れしながら、ギルはうっとりとそう聞いてきた。円を描くように中を掻き回され、新菜は小さく悲鳴を上げる。新菜の中はもう準備万端だ。
「お前の中に入りたい」
「ギ、ル……」
涙目で新菜が見上げると、ふっとギルに微笑まれる。そのまま抱き上げられた新菜は、ベッドに連れて行かれて押し倒された。
「あ、あの、待ってっ!」
「もう遅い」
そう言って、ギルはいつの間にかくつろげていたズボンから反応した己自身を取り出した。
「へっ!?」
それを目の当たりにした瞬間、新菜は素っ頓狂な声を上げる。
(大きい! 太い! 長い! 無理無理無理――!!)
あんな凶悪なモノを、今から自分の中に入れられるのかと思ったら戦慄するしかない。
「ちょっと、む、り……」
「ん?」
新菜が思わず震える声を出す。それが聞き取れなかったのか、ギルは小首を傾げた。しかしその間にもギルは行為を進め、その凶悪な切っ先を新菜の中心へと宛てがった。新菜はのしかかってくる身体を必死に押し返す。
「入らない! 無理! そんな大きいの!」
「なんだ褒めているのか?」
何を勘違いしたのか、ギルは嬉しそうに笑う。
「ちが……」
「ニーナ、挿れるぞ」
「――――っ」
話を聞かないギルの行動に、新菜の大きな黒真珠のような瞳が潤む。その変化に気付いたギルは今にも入らんとしていた己自身を止めて、新菜を覗き込んだ。
「ニーナ?」
「な……」
「な?」
「難易度考えろ!!」
そう叫びながら、新菜はのしかかってくるギルの腹部を蹴り上げたのだった。
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