四季を彩るアルビノへ

夜月 真

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四章 夏

瓶覗色

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「うわ。本当だ。しかもかなりしょっぱい」
 声を出して笑う僕を見て、両手で掬い上げた海水を目の前に出される。
「え? 何?」
「貴方も飲んでよ」
「いや多すぎるでしょ!」
 じわじわと微笑みを作り出した彩音は僕の顔に両手を近づける。
「ちょっとだけね」
 右手の人差し指を両手に持った水溜りに突っ込み、一滴ほどの水を舐めると、海水が僕の視界を遮った。彩音が僕の顔目掛けて水を掛けたのだ。堪らず口の中のものを吐き出してしまう。

「あはは! ごめん、つい!」
 僕は腰を折って、片手で海水を弾き飛ばす。驚いた声を漏らしながら彩音の顔に付着した水滴が頬を伝っているのを見て、僕は思わず笑う。すると真正面にある右足が、勢いよく持ち上がり、もう一度僕の顔面へと勢いよく水を掛けた。前髪から水滴が滴る。細めた目を見た彩音が走り出す。
「あはは! ごめんって!」
 コバルトブルーの後ろ姿は、水面から海の一部を弾き飛ばしながら僕から離れていく。波が引いていく。不安定な足場はその細い足を掬い上げ、転ばせた。
「大丈夫?」
 駆け寄って見ると、膝から下、そして服の丈は見事に海水に浸かっている。

「イタズラは良くないってことね」
 差し伸べた手を掴んで立ち上がる彩音は反省した様子だった。海辺から離れて大きなコンクリートでできた塀の上に座り込み、濡れた服を乾かすこととした。雲が作り上げた大きな日傘は僅かな涼しさを運んでくれていた。
ぼんやりとして広い夏の象徴を泳ぐ人達を眺めながら、ふと思ったことを口にする。
「彩音は、全部の色が見えるようになったら、どんな自分になると思う?」
 そうね、とだけ声に出し、海風が沈黙を届けた。
「……私は、どんな自分も、自分なんだなって気づいたの」
 彩音は続ける。

「貴方と過ごしているうちに、自分を受け入れてくれる人もいるんだなって知れたし、色が見えない自分も、真っ白な自分も、笑う自分も、全部私なんだって自覚できるようになったの。だから色が見えるようになっても、見えないままでも、私は私を好きでいる自分になると思う」
 って答えになってないか、そう笑顔で付け足され、僕は首を横に振る。
「ううん、素敵な考えだと思う」
 背中の近くで体重を支える両手へ不自然に意識が向いてしまっていた。潮音と自動車の音が混ざり合うのを耳に、僕らに言葉は不要だった。
 昼下がり、天色あまいろの広がる頭上にふと、自分の感情や気持ちに置き換えた。

「この空は……思い出みたいな色をしてる」
「思い出? どんな?」
 いつもの透き通るような綺麗な声でその意味を尋ねられる。
「わからないけど……思い出、と言ったら、この空みたいな色だと思うんだ」
 彩音は顔を寄せて立て続けに尋ねる。
「じゃあ、黄色は?」
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