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婚約解消へ
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シリル様が帰られてから父へと伝言を頼んだ。
足を骨折していて歩くのが無理なのだ。
顔は腕で庇ったので傷はないが、その代わりのように腕は全面擦り傷だ。打撲もあちこちある。酷いのは右手首と右足の骨折だ。
詰め襟の長袖のロングドレスでなければあちこちの包帯が見えてしまう。この季節にこの服は合わないが包帯姿を見る使用人の目が痛ましいものを見るようでつい隠してしまう。
帰宅した父は私の身体を慮って部屋に来てくれた。
今までは学園で怪我をしたと言う事実しか話していなかった。まだ話していなかった学園入学後から今までの事と今日のシリル様との会話を全て話した。
「辛かっただろう。よく頑張った。学園は嫌なら怪我が治っても行かなくてもいい。まずはゆっくり休んで怪我を治しなさい。
婚約解消は私から国王に話をする。あとは任せなさい。お前を悪者になど絶対させないから安心してお休み。」
そう言って部屋を出て行った。
父の優しい言葉が嬉しくて涙が止まらなくなった。
翌日父が王宮に行き婚約解消を申し出たが、色々な思惑がありすぐに解消とはいかないらしい。
父にはいじめのことも加害者の名前も伏せてもらうようにお願いしていた。
私へのいじめや怪我の事そしてシリル様とリュエル様の仲を知ればすぐに解消されるだろうが、父は私のお願いと私に瑕疵がつかないようにと頑張ってくれている。その頑張りを知っているから婚約解消の話が進まなくても私からは何も言う事はない。
私とシリル様の婚約が解消されたなら、リュエル様は元々婚約者として名前が上がっていた方だからシリル様の次の婚約者に相応しい。更に今2人は相思相愛なのだから渡りに船とばかりにすぐに新しく婚約を結び直すだろう。
あれから10日がたった。婚約解消の話は遅々として進んでいない。
怪我は少し良くなりアザは色が薄くなってきている。
今日は来客の予定がなかったのだが、玄関が騒がしい。どなたかが訪問されたのだろうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、執事の声と男性の声が聞こえてきた。
その声は…。婚約者のシリル様だ。まだ婚約解消が保留になっているとはいえまだ婚約者なのだ。そして婚約者でなくなってもシリル様は王族。この邸の主である父ならなんとかできたかもしれないが、父は今日も王宮に出かけている。もうすぐ帰ってくる予定だが不在の今一介の使用人には止められないのだろう。仕方なく私が対応することにした。勿論まだ通常のように歩くことができないので私室にて対応する。
シリル様は入室早々「君に謝りたい。すまなかった。」と言うと頭を下げられた。
王族はそう簡単に頭を下げるものじゃない。と言われているのに……
「頭を上げてください。一体何の謝罪かもわかりませんし、そもそも王族たる者は無闇に頭を下げるものではありませんわ。」
頭を上げたが、視線は下を向いて交わらない。
「だが、グレイテス伯爵から婚約を解消したいという話を聞いている。」
自分の非を認め謝罪はされてちょっと見直したのに、格下の我が家から婚約解消を願い出たのを非難にこられたのか。
まだ嫌いになりきれずにいる自分が馬鹿すぎて心の中で笑ってしまう。
「こちらから解消を願いでるなんて、立場を弁えず申し訳ありません。」
「謝罪は必要ない。俺が悪かったのだから。
ずっとリュエル嬢とその取り巻きから嘘の話を聞かされ続けて信じ込んでいた。
あれから調べたが、君がいじめをしていた事実はなく反対にリュエル嬢と取り巻きが君をいじめていたと知った。嘘を信じて君を疑うような発言をしてしまいすまなかった。直ぐには無理かもしれないが、もう一度お互いに信頼を築きあげよう。」
湾曲した噂を聞かされ続け、リュエル様が側にいる事で真実を伝えようとする人が近寄れなかったのも仕方がないのだろう。
今後はきちんと彼に対して悪い事も率直に伝えられる人物が側にいれば良いだけだ。
「私が婚約者である必要がありませんわ。
本来シリル様の婚約者はリュエル様に内定されていました。それを貴方は喜んでいたとも。
ですが、婚約発表の前にリュエル様のご都合がつかなくて仕方なく私に決定したとお聞きしております。リュエル様が戻られたのですから元の正しい形に戻すのがよろしいかと。
リュエル様も嫉妬から少し行動がいき過ぎただけでしょうし。」
貴方と彼女が相思相愛なのだから。とはわかっていても言いたくない。
彼と目を合わせたくなくて窓の外を見る。彼の目を見てしまえばつい許してしまいたくなる。
「婚約を結ぶ前に内定の話があったのは認めよう。だが、私は君が婚約者で良かったと思っていたよ。」
そう言いながらシリル様は距離を詰めて私右の手を取る。
シリルに手を取られて服の袖がズレ包帯を巻いた手首が現れる。
痛々しい。そんな視線を受けて手を引っ込めようとしたが痛さを感じない強さで握られておりそのままになる。
「ごめんね。俺が早くに気付いていればこんな怪我はしなかっただろうに。」
そしてゆっくりと包帯の上にキスを落とす。
なにが起こったのかわからないオリビアはパニックだ。シリルの行動は見てわかるがなぜそういう行動に出たのかがわからない。
「あ、あの……シリル様?」
「何?」
「えっと、シリル様に謝っていただくことはありません。怪我も良くなりつつありますので私のことなどどうぞお気になさらず。」
いたって真面目な顔のシリル様にどういった思惑があるのかわからない。片手でしっかりと離さないように捕まえて反対の手で包帯を優しく撫でている。シリル様にとって私は婚約解消を申し出ている相手だ。こんな行動はおかしすぎる。
周りに助けを求めようと見回すといるはずのメイドがいない。
結婚前の年頃の男女が2人きりで部屋にいるなんて……。婚約者でも、あまり認められない。まして婚約解消するのなら他人だ。これはまずい。
どうにかしてこの状況をなんとかしなければと視線を忙しなく動かしていると
「どこを見てるの?」
そう言ってオリビアの顎を掴みがっちり捕まえられた。今すぐキスしてしまいそうな距離に視線だけでもと逸らす。
「ち、近いです。離してください。
それに密室で2人きりなんて何を言われるか……。よく考えて行動しなければ後悔なさいますよ。」
シリル様は何か考えているが離すことはしない。
「そうだな。今までが考えなしに行動していたから君にこんな対応される結果に繋がったのだよな。それなら」
急に目の前が暗くなった。といっても気を失ったわけではない。
彼と私の距離がゼロになったからだ。
足を骨折していて歩くのが無理なのだ。
顔は腕で庇ったので傷はないが、その代わりのように腕は全面擦り傷だ。打撲もあちこちある。酷いのは右手首と右足の骨折だ。
詰め襟の長袖のロングドレスでなければあちこちの包帯が見えてしまう。この季節にこの服は合わないが包帯姿を見る使用人の目が痛ましいものを見るようでつい隠してしまう。
帰宅した父は私の身体を慮って部屋に来てくれた。
今までは学園で怪我をしたと言う事実しか話していなかった。まだ話していなかった学園入学後から今までの事と今日のシリル様との会話を全て話した。
「辛かっただろう。よく頑張った。学園は嫌なら怪我が治っても行かなくてもいい。まずはゆっくり休んで怪我を治しなさい。
婚約解消は私から国王に話をする。あとは任せなさい。お前を悪者になど絶対させないから安心してお休み。」
そう言って部屋を出て行った。
父の優しい言葉が嬉しくて涙が止まらなくなった。
翌日父が王宮に行き婚約解消を申し出たが、色々な思惑がありすぐに解消とはいかないらしい。
父にはいじめのことも加害者の名前も伏せてもらうようにお願いしていた。
私へのいじめや怪我の事そしてシリル様とリュエル様の仲を知ればすぐに解消されるだろうが、父は私のお願いと私に瑕疵がつかないようにと頑張ってくれている。その頑張りを知っているから婚約解消の話が進まなくても私からは何も言う事はない。
私とシリル様の婚約が解消されたなら、リュエル様は元々婚約者として名前が上がっていた方だからシリル様の次の婚約者に相応しい。更に今2人は相思相愛なのだから渡りに船とばかりにすぐに新しく婚約を結び直すだろう。
あれから10日がたった。婚約解消の話は遅々として進んでいない。
怪我は少し良くなりアザは色が薄くなってきている。
今日は来客の予定がなかったのだが、玄関が騒がしい。どなたかが訪問されたのだろうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、執事の声と男性の声が聞こえてきた。
その声は…。婚約者のシリル様だ。まだ婚約解消が保留になっているとはいえまだ婚約者なのだ。そして婚約者でなくなってもシリル様は王族。この邸の主である父ならなんとかできたかもしれないが、父は今日も王宮に出かけている。もうすぐ帰ってくる予定だが不在の今一介の使用人には止められないのだろう。仕方なく私が対応することにした。勿論まだ通常のように歩くことができないので私室にて対応する。
シリル様は入室早々「君に謝りたい。すまなかった。」と言うと頭を下げられた。
王族はそう簡単に頭を下げるものじゃない。と言われているのに……
「頭を上げてください。一体何の謝罪かもわかりませんし、そもそも王族たる者は無闇に頭を下げるものではありませんわ。」
頭を上げたが、視線は下を向いて交わらない。
「だが、グレイテス伯爵から婚約を解消したいという話を聞いている。」
自分の非を認め謝罪はされてちょっと見直したのに、格下の我が家から婚約解消を願い出たのを非難にこられたのか。
まだ嫌いになりきれずにいる自分が馬鹿すぎて心の中で笑ってしまう。
「こちらから解消を願いでるなんて、立場を弁えず申し訳ありません。」
「謝罪は必要ない。俺が悪かったのだから。
ずっとリュエル嬢とその取り巻きから嘘の話を聞かされ続けて信じ込んでいた。
あれから調べたが、君がいじめをしていた事実はなく反対にリュエル嬢と取り巻きが君をいじめていたと知った。嘘を信じて君を疑うような発言をしてしまいすまなかった。直ぐには無理かもしれないが、もう一度お互いに信頼を築きあげよう。」
湾曲した噂を聞かされ続け、リュエル様が側にいる事で真実を伝えようとする人が近寄れなかったのも仕方がないのだろう。
今後はきちんと彼に対して悪い事も率直に伝えられる人物が側にいれば良いだけだ。
「私が婚約者である必要がありませんわ。
本来シリル様の婚約者はリュエル様に内定されていました。それを貴方は喜んでいたとも。
ですが、婚約発表の前にリュエル様のご都合がつかなくて仕方なく私に決定したとお聞きしております。リュエル様が戻られたのですから元の正しい形に戻すのがよろしいかと。
リュエル様も嫉妬から少し行動がいき過ぎただけでしょうし。」
貴方と彼女が相思相愛なのだから。とはわかっていても言いたくない。
彼と目を合わせたくなくて窓の外を見る。彼の目を見てしまえばつい許してしまいたくなる。
「婚約を結ぶ前に内定の話があったのは認めよう。だが、私は君が婚約者で良かったと思っていたよ。」
そう言いながらシリル様は距離を詰めて私右の手を取る。
シリルに手を取られて服の袖がズレ包帯を巻いた手首が現れる。
痛々しい。そんな視線を受けて手を引っ込めようとしたが痛さを感じない強さで握られておりそのままになる。
「ごめんね。俺が早くに気付いていればこんな怪我はしなかっただろうに。」
そしてゆっくりと包帯の上にキスを落とす。
なにが起こったのかわからないオリビアはパニックだ。シリルの行動は見てわかるがなぜそういう行動に出たのかがわからない。
「あ、あの……シリル様?」
「何?」
「えっと、シリル様に謝っていただくことはありません。怪我も良くなりつつありますので私のことなどどうぞお気になさらず。」
いたって真面目な顔のシリル様にどういった思惑があるのかわからない。片手でしっかりと離さないように捕まえて反対の手で包帯を優しく撫でている。シリル様にとって私は婚約解消を申し出ている相手だ。こんな行動はおかしすぎる。
周りに助けを求めようと見回すといるはずのメイドがいない。
結婚前の年頃の男女が2人きりで部屋にいるなんて……。婚約者でも、あまり認められない。まして婚約解消するのなら他人だ。これはまずい。
どうにかしてこの状況をなんとかしなければと視線を忙しなく動かしていると
「どこを見てるの?」
そう言ってオリビアの顎を掴みがっちり捕まえられた。今すぐキスしてしまいそうな距離に視線だけでもと逸らす。
「ち、近いです。離してください。
それに密室で2人きりなんて何を言われるか……。よく考えて行動しなければ後悔なさいますよ。」
シリル様は何か考えているが離すことはしない。
「そうだな。今までが考えなしに行動していたから君にこんな対応される結果に繋がったのだよな。それなら」
急に目の前が暗くなった。といっても気を失ったわけではない。
彼と私の距離がゼロになったからだ。
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