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5 夜会
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あれからも夜会へは妻のアンリエッタを伴い出席する。
周りからは良くできた妻だ。子爵夫人にしとくには勿体ないと褒められる。
確かにアンリエッタは元々は伯爵令嬢だが、高位貴族にも引けを取らないマナーで愛想良く会話もそつなくこなす。更に嫁いできてからも家庭教師を雇い何を習っているのかわからないがマナーも知識も格段に上がっているようだ。
隣にいても出しゃばりすぎず控え目でありながら会話の糸口を見つけて会話を弾ませてくれる。
更に高位貴族の妻君方に可愛がられており有益な情報を得てくる。
そのおかげで授爵したばかりのクオンテオ子爵だが、社交界での位置づけはどんどんと上がってきている。
やっかみもあるだろうが、それでも確かに今のアンリエッタは侯爵家へ嫁いだとしても立派にやっていけるだろう。人に言われるまでもなく子爵となった自分に勿体ない位の良い妻だ。
だからだろうか、人妻だというのに彼女を取り巻く者や口説く者達は増えている。
今回も飲み物を取りに少し離れた隙に次期フェルン侯爵のハデスが彼女に話しかけている。
彼女はと見れば笑顔で対応していた。
「クオンテオ子爵夫人。今宵こそは良きお返事をいただきたい。」
「フェルン様。無理を仰らないでくださいませ。
紳士はそんなに軽々しく人妻を誘うものではありませんわ。」
アンリエッタは笑顔を絶やさず、だが少し眉を下げて困り顔で対応していた。
次期フェルン侯爵のハデスは自分より2歳年下でアンリエッタの1歳年上だ。
まだ独身だが侯爵の地位を継承する事が決まっている。結婚相手として最有力候補との噂で、いつも夜会では未婚の娘を持つ親たちや肉食の女性達に狙われている。
今はそれらから抜け出してきたのだろう。
そうはいっても自分の妻を口説いているのを黙って見ている訳にはいかない。
「貴方はフェルン侯爵子息のハデス殿ですね。妻に何か御用ですか?」
何気なさを装い声をかけた。
ハデスはこちらを一瞥すると視線をまたアンリエッタに戻し
「クオンテオ子爵。貴方の奥方は本当に素晴らしく得難い方だ。貴方が羨ましい。
アンリエッタ殿、もっと早く貴女にお会いしたかった。」
そう言いアンリエッタに向ける熱い眼差しを隠そうともしない。
「フェルン様。言い過ぎですわ。羨ましがられるのは私の方ですわ。旦那様はお仕事もできてこんなに素敵なのですから、政略とはいえ結婚できたのは幸運なのですよ。私は捨てられないように必死なんですの。」
と笑顔で答える。
妻として満点の答えだろう。だが、自分にとっては嫌味にしか聞こえない。
どうしてか気持ちが落ち込んでいくのを止められない。
「貴女が捨てられるなんてそんなことはあり得ませんよ。
ですが、もしそんな事があるなら私が貴女をお助けしたい。私に助けを求めてくださればいつでもお助けしますからね。」
「心強いお言葉ありがとうございます。
ですが、そうならないように努力しておりますの。そのお言葉は御守りがわりにさせていただきますわ。」
アンリエッタはグレイも相手も傷つけず上手く交わしている。
婚儀を数日後に控えていたあの場合は仕方がなかったのかもしれないが、婚約解消ではなく1年後に離婚する契約結婚を切り出したのはアンリエッタだ。結婚は政略のためだったが今の彼女の本心はわからない。
なんとなくムシャクシャする気持ちを持て余し早々に会場を後にした。
周りからは良くできた妻だ。子爵夫人にしとくには勿体ないと褒められる。
確かにアンリエッタは元々は伯爵令嬢だが、高位貴族にも引けを取らないマナーで愛想良く会話もそつなくこなす。更に嫁いできてからも家庭教師を雇い何を習っているのかわからないがマナーも知識も格段に上がっているようだ。
隣にいても出しゃばりすぎず控え目でありながら会話の糸口を見つけて会話を弾ませてくれる。
更に高位貴族の妻君方に可愛がられており有益な情報を得てくる。
そのおかげで授爵したばかりのクオンテオ子爵だが、社交界での位置づけはどんどんと上がってきている。
やっかみもあるだろうが、それでも確かに今のアンリエッタは侯爵家へ嫁いだとしても立派にやっていけるだろう。人に言われるまでもなく子爵となった自分に勿体ない位の良い妻だ。
だからだろうか、人妻だというのに彼女を取り巻く者や口説く者達は増えている。
今回も飲み物を取りに少し離れた隙に次期フェルン侯爵のハデスが彼女に話しかけている。
彼女はと見れば笑顔で対応していた。
「クオンテオ子爵夫人。今宵こそは良きお返事をいただきたい。」
「フェルン様。無理を仰らないでくださいませ。
紳士はそんなに軽々しく人妻を誘うものではありませんわ。」
アンリエッタは笑顔を絶やさず、だが少し眉を下げて困り顔で対応していた。
次期フェルン侯爵のハデスは自分より2歳年下でアンリエッタの1歳年上だ。
まだ独身だが侯爵の地位を継承する事が決まっている。結婚相手として最有力候補との噂で、いつも夜会では未婚の娘を持つ親たちや肉食の女性達に狙われている。
今はそれらから抜け出してきたのだろう。
そうはいっても自分の妻を口説いているのを黙って見ている訳にはいかない。
「貴方はフェルン侯爵子息のハデス殿ですね。妻に何か御用ですか?」
何気なさを装い声をかけた。
ハデスはこちらを一瞥すると視線をまたアンリエッタに戻し
「クオンテオ子爵。貴方の奥方は本当に素晴らしく得難い方だ。貴方が羨ましい。
アンリエッタ殿、もっと早く貴女にお会いしたかった。」
そう言いアンリエッタに向ける熱い眼差しを隠そうともしない。
「フェルン様。言い過ぎですわ。羨ましがられるのは私の方ですわ。旦那様はお仕事もできてこんなに素敵なのですから、政略とはいえ結婚できたのは幸運なのですよ。私は捨てられないように必死なんですの。」
と笑顔で答える。
妻として満点の答えだろう。だが、自分にとっては嫌味にしか聞こえない。
どうしてか気持ちが落ち込んでいくのを止められない。
「貴女が捨てられるなんてそんなことはあり得ませんよ。
ですが、もしそんな事があるなら私が貴女をお助けしたい。私に助けを求めてくださればいつでもお助けしますからね。」
「心強いお言葉ありがとうございます。
ですが、そうならないように努力しておりますの。そのお言葉は御守りがわりにさせていただきますわ。」
アンリエッタはグレイも相手も傷つけず上手く交わしている。
婚儀を数日後に控えていたあの場合は仕方がなかったのかもしれないが、婚約解消ではなく1年後に離婚する契約結婚を切り出したのはアンリエッタだ。結婚は政略のためだったが今の彼女の本心はわからない。
なんとなくムシャクシャする気持ちを持て余し早々に会場を後にした。
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