命を詠う華

YUE

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それから、巫女は天と共に旅を始めた。
「荷物くらいは男の俺が持ちますよ」
と、申し出た天が今は葛籠を背負っている。
山間へ近付く程に宿場は少なくなり、人影も減る。
平野、川、林道を越え、幾日か過ぎ、夕刻を前に野宿の場所を探している時、2人は野道の先に沢山の人影を見る。
「この辺りにしては珍しいなあ」
天が呟く。
「旅の一座やもしれぬな」
巫女も珍しそうに視線を向けている。
だが、
「・・・違うな」
近付いて来る一団の影がはっきりしてくると、巫女は気を張った。
その空気を察した天も葛籠を下ろし、見える一団を睨む。
一団の先頭を歩くのは壊れた甲冑を身に纏い、髭を無造作に伸ばし。
両脇に刀を数本挿し、腰に袈裟を巻き付けた巨漢。
取り巻く者達はいずれも無頼漢ばかりだ。
「隠れて遣り過ごしますか?」
「そうしたいのはやまやまじゃがな。既に遅かろう」
天の提案を巫女は静かに退ける。
まだ距離が有るとは言え、双方は互いを認識していた。
すると、無頼漢の1人が、こちらを指差しながら巨漢に何か言っている。
「あれ?あいつは・・・」
天はその男を、最近何処かで見た覚えたがあった。
「どうやら、意趣返しにでも来たのじゃろうよ」
巫女もその男には、何となく覚えがあった。
「まさか、あの時逃がした奴かなぁ」
「恐らくはのう」
2人は数日前に賊と対峙し、1人逃げ出した男を思い出していた。
「ようやく見つけたぞ」
眼前に迫った巨漢が巫女と天を見下ろす。
「随分と俺様の手下共を可愛がってくれたみたいじゃねえか?おおう?」
巨漢はどすを効かせた声で凄む。
「やったのは俺1人だ。この人は関係ない」
天は巫女を庇うように前に立ち、巨漢を睨み返す。
その間、数十人の賊達が、2人を囲むようにゆっくりと広がって行く。
それに気付いた天は舌打ちする。
「巫女様は関係ないと言っている!やるなら俺だけにしやがれ」
天は拳を握り、語気に怒りを混ぜる。
「ああ、殺るのはお前だけだが、女は獲物だ」
巨漢は下卑た笑みを浮かべる。
「・・・ああ?」
天の怒りは更に上がる。
「天よ。お主の言葉は、儂がありがたく頂戴しよう」
背後から巫女の言葉が聞こえた。
「じゃが。此奴等では、お主の気遣いは理解出来まいよ」
巫女は天と背中合せに立つと、錫杖を構えた。
「賊の頭目よ。1度だけ問うてやろう。己が罪を悔いて・・・」
「ごちゃごちゃうるせえなあっ!」
巫女の声は頭目の怒声で掻き消された。
「どいつもこいつも、坊主ってのは面倒くせえ!」
頭目は刀を抜き、
「説教なんざで腹は膨れねえんだよ!」
赤錆た切っ先を天の眼前に突き付ける。
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