命を詠う華

YUE

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空達は、過去に通った道を辿り旅を続けた。
空にとっては記憶を懐かしみ、刹那と久遠にとっては父を知る旅路となる。
やがて、長い道のりを経て、ようやく大江山に辿り着く。
山中は獣道しかなく、不馴れな刹那と久遠は悪戦苦闘するが、弱音などは一切吐かなかった。
空にはそれが、とても頼もしく見えた。
そして遂に、山寺が空達の視界に入る。
「2人共、良く頑張ったのう。この山寺に、父が居る」
空は総門を見上げながら告げた。
2人は辺りを見渡しながら戸惑う。
総門はさることながら、敷地を囲う壁は至る所が崩れ落ち、見える範囲の敷地内は草が生い茂り、とても誰かが居るとは思えない。
「ふふ。まったく困った父親じゃのう。妻と子供達が帰って来たと言うのに、出迎えもせんとはなあ」
空は苦笑しながら言葉を溢す。
空自身分かっていた。
だが、それを受け入れたくは無かった。
だから、見て見ぬふりをした。
刹那と久遠は顔を見合せ、母のそれを感じ取り、
「ただいま戻りました、父上」
「ただいま戻りました、父様」
と、声を合わせた。
「ああ。ただいま。そして、おかえり」
空は思わず2人を抱き締める。
その眼には涙が光る。
落ち着いた空は敷地内を案内して回った。
その中で気付く。
各部屋には、とても天1人で生活していたと思えない程の荷物が並んでいたのだ。
台所の食器や釜の量も、自身の知っている倍以上あった。
だが、天と共にした寝室だけは、記憶のままに残っていた。
最後となった本殿の襖を開けて驚いた。
幾つもの鍋や七輪、食器、砕けた長机が散乱していた。
それだけではない。
何の骨とも分からぬ物が無数に散らばっている。
それを目の当たりにした空は、理解した。
してしまった。
この山寺には、数十を越える者達が暮らしていた事。
そして恐らく、人も妖も居たであろう事。
この本殿で、惨劇が起きたであろう事。
あの日、胸に走った痛み。
聞こえてしまった声。
知らず、空の頬には涙が伝う。
そんな空を刹那と久遠は不安気に見上げている。
泣いてはならない。
泣けば2人は更に不安に思う。
頭では理解していた。
だが、涙は止まらない。
足下が揺らぐ感覚がする。
思考が薄れていく感覚がする。
それでも、2人に微笑みかけたのは、母としての矜持だ。
その時、空を呼ぶ声が聞こえた。
気がした。
空はふらついた足取りで本殿の中へ向かう。
刹那と久遠はどうして良いか分からず、立ち尽くす。
空は半壊した仏像の前まで来ると、その膝元へ恐る恐る手を伸ばした。
ここまで近付けば、そこに在る物が分かった。
優しく包み込むように手に取り、愛し気に胸元に引き寄せる。
それは、白い欠片。
それは、ずっと待っていた。
空が見間違えるはずもないそれは、朱天童子の角だった。
空は天の名を叫びながら、泣いた。
1人の女として泣いた。
刹那と久遠が走り寄ってくる。
気付いた空は、涙を拭くのも忘れ、震えた手で2人に角を見せ、
「待って・・・おったのじゃ・・・こん、な・・・姿に、なっても・・・儂との・・・約束を、守って・・・待っておったのじゃ・・・」
嗚咽混じりに、誇らし気に語る。
「天・・・遅う、なって・・・すまぬ・・・じゃが、約束は・・・守った・・・」
空は2人角を近付け、
「さあ、触れて・・・みよ?」
促す。
刹那と久遠は恐る恐る指先を触れる。
途端、涙が溢れる。
心が、魂が理解したのだ。
これは、父の遺骨だと。
3人は泣いた。
父の死を悼み。
愛しき者の死を悼み。
ひたすらに泣いた。
どれ程の間、泣いていたか分からない。
少なくとも、刹那と久遠が泣き疲れて眠る程には泣いていた。
空は角を見詰めていた。
「・・・天。もうお主を、1人にはせぬ。儂と共に、生きよ」
呟くと、空は角を口内へ入れる。
それは、天の望みでもあるかのように、さほどの抵抗も無く、されるがままに小さくなり、喉元を通り、空の体内へと溶けていく。
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