65 / 71
65
しおりを挟む
空達は、過去に通った道を辿り旅を続けた。
空にとっては記憶を懐かしみ、刹那と久遠にとっては父を知る旅路となる。
やがて、長い道のりを経て、ようやく大江山に辿り着く。
山中は獣道しかなく、不馴れな刹那と久遠は悪戦苦闘するが、弱音などは一切吐かなかった。
空にはそれが、とても頼もしく見えた。
そして遂に、山寺が空達の視界に入る。
「2人共、良く頑張ったのう。この山寺に、父が居る」
空は総門を見上げながら告げた。
2人は辺りを見渡しながら戸惑う。
総門はさることながら、敷地を囲う壁は至る所が崩れ落ち、見える範囲の敷地内は草が生い茂り、とても誰かが居るとは思えない。
「ふふ。まったく困った父親じゃのう。妻と子供達が帰って来たと言うのに、出迎えもせんとはなあ」
空は苦笑しながら言葉を溢す。
空自身分かっていた。
だが、それを受け入れたくは無かった。
だから、見て見ぬふりをした。
刹那と久遠は顔を見合せ、母のそれを感じ取り、
「ただいま戻りました、父上」
「ただいま戻りました、父様」
と、声を合わせた。
「ああ。ただいま。そして、おかえり」
空は思わず2人を抱き締める。
その眼には涙が光る。
落ち着いた空は敷地内を案内して回った。
その中で気付く。
各部屋には、とても天1人で生活していたと思えない程の荷物が並んでいたのだ。
台所の食器や釜の量も、自身の知っている倍以上あった。
だが、天と共にした寝室だけは、記憶のままに残っていた。
最後となった本殿の襖を開けて驚いた。
幾つもの鍋や七輪、食器、砕けた長机が散乱していた。
それだけではない。
何の骨とも分からぬ物が無数に散らばっている。
それを目の当たりにした空は、理解した。
してしまった。
この山寺には、数十を越える者達が暮らしていた事。
そして恐らく、人も妖も居たであろう事。
この本殿で、惨劇が起きたであろう事。
あの日、胸に走った痛み。
聞こえてしまった声。
知らず、空の頬には涙が伝う。
そんな空を刹那と久遠は不安気に見上げている。
泣いてはならない。
泣けば2人は更に不安に思う。
頭では理解していた。
だが、涙は止まらない。
足下が揺らぐ感覚がする。
思考が薄れていく感覚がする。
それでも、2人に微笑みかけたのは、母としての矜持だ。
その時、空を呼ぶ声が聞こえた。
気がした。
空はふらついた足取りで本殿の中へ向かう。
刹那と久遠はどうして良いか分からず、立ち尽くす。
空は半壊した仏像の前まで来ると、その膝元へ恐る恐る手を伸ばした。
ここまで近付けば、そこに在る物が分かった。
優しく包み込むように手に取り、愛し気に胸元に引き寄せる。
それは、白い欠片。
それは、ずっと待っていた。
空が見間違えるはずもないそれは、朱天童子の角だった。
空は天の名を叫びながら、泣いた。
1人の女として泣いた。
刹那と久遠が走り寄ってくる。
気付いた空は、涙を拭くのも忘れ、震えた手で2人に角を見せ、
「待って・・・おったのじゃ・・・こん、な・・・姿に、なっても・・・儂との・・・約束を、守って・・・待っておったのじゃ・・・」
嗚咽混じりに、誇らし気に語る。
「天・・・遅う、なって・・・すまぬ・・・じゃが、約束は・・・守った・・・」
空は2人角を近付け、
「さあ、触れて・・・みよ?」
促す。
刹那と久遠は恐る恐る指先を触れる。
途端、涙が溢れる。
心が、魂が理解したのだ。
これは、父の遺骨だと。
3人は泣いた。
父の死を悼み。
愛しき者の死を悼み。
ひたすらに泣いた。
どれ程の間、泣いていたか分からない。
少なくとも、刹那と久遠が泣き疲れて眠る程には泣いていた。
空は角を見詰めていた。
「・・・天。もうお主を、1人にはせぬ。儂と共に、生きよ」
呟くと、空は角を口内へ入れる。
それは、天の望みでもあるかのように、さほどの抵抗も無く、されるがままに小さくなり、喉元を通り、空の体内へと溶けていく。
空にとっては記憶を懐かしみ、刹那と久遠にとっては父を知る旅路となる。
やがて、長い道のりを経て、ようやく大江山に辿り着く。
山中は獣道しかなく、不馴れな刹那と久遠は悪戦苦闘するが、弱音などは一切吐かなかった。
空にはそれが、とても頼もしく見えた。
そして遂に、山寺が空達の視界に入る。
「2人共、良く頑張ったのう。この山寺に、父が居る」
空は総門を見上げながら告げた。
2人は辺りを見渡しながら戸惑う。
総門はさることながら、敷地を囲う壁は至る所が崩れ落ち、見える範囲の敷地内は草が生い茂り、とても誰かが居るとは思えない。
「ふふ。まったく困った父親じゃのう。妻と子供達が帰って来たと言うのに、出迎えもせんとはなあ」
空は苦笑しながら言葉を溢す。
空自身分かっていた。
だが、それを受け入れたくは無かった。
だから、見て見ぬふりをした。
刹那と久遠は顔を見合せ、母のそれを感じ取り、
「ただいま戻りました、父上」
「ただいま戻りました、父様」
と、声を合わせた。
「ああ。ただいま。そして、おかえり」
空は思わず2人を抱き締める。
その眼には涙が光る。
落ち着いた空は敷地内を案内して回った。
その中で気付く。
各部屋には、とても天1人で生活していたと思えない程の荷物が並んでいたのだ。
台所の食器や釜の量も、自身の知っている倍以上あった。
だが、天と共にした寝室だけは、記憶のままに残っていた。
最後となった本殿の襖を開けて驚いた。
幾つもの鍋や七輪、食器、砕けた長机が散乱していた。
それだけではない。
何の骨とも分からぬ物が無数に散らばっている。
それを目の当たりにした空は、理解した。
してしまった。
この山寺には、数十を越える者達が暮らしていた事。
そして恐らく、人も妖も居たであろう事。
この本殿で、惨劇が起きたであろう事。
あの日、胸に走った痛み。
聞こえてしまった声。
知らず、空の頬には涙が伝う。
そんな空を刹那と久遠は不安気に見上げている。
泣いてはならない。
泣けば2人は更に不安に思う。
頭では理解していた。
だが、涙は止まらない。
足下が揺らぐ感覚がする。
思考が薄れていく感覚がする。
それでも、2人に微笑みかけたのは、母としての矜持だ。
その時、空を呼ぶ声が聞こえた。
気がした。
空はふらついた足取りで本殿の中へ向かう。
刹那と久遠はどうして良いか分からず、立ち尽くす。
空は半壊した仏像の前まで来ると、その膝元へ恐る恐る手を伸ばした。
ここまで近付けば、そこに在る物が分かった。
優しく包み込むように手に取り、愛し気に胸元に引き寄せる。
それは、白い欠片。
それは、ずっと待っていた。
空が見間違えるはずもないそれは、朱天童子の角だった。
空は天の名を叫びながら、泣いた。
1人の女として泣いた。
刹那と久遠が走り寄ってくる。
気付いた空は、涙を拭くのも忘れ、震えた手で2人に角を見せ、
「待って・・・おったのじゃ・・・こん、な・・・姿に、なっても・・・儂との・・・約束を、守って・・・待っておったのじゃ・・・」
嗚咽混じりに、誇らし気に語る。
「天・・・遅う、なって・・・すまぬ・・・じゃが、約束は・・・守った・・・」
空は2人角を近付け、
「さあ、触れて・・・みよ?」
促す。
刹那と久遠は恐る恐る指先を触れる。
途端、涙が溢れる。
心が、魂が理解したのだ。
これは、父の遺骨だと。
3人は泣いた。
父の死を悼み。
愛しき者の死を悼み。
ひたすらに泣いた。
どれ程の間、泣いていたか分からない。
少なくとも、刹那と久遠が泣き疲れて眠る程には泣いていた。
空は角を見詰めていた。
「・・・天。もうお主を、1人にはせぬ。儂と共に、生きよ」
呟くと、空は角を口内へ入れる。
それは、天の望みでもあるかのように、さほどの抵抗も無く、されるがままに小さくなり、喉元を通り、空の体内へと溶けていく。
0
あなたにおすすめの小説
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる