世界の中心は君だった

KOROU

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一章

訪問看護の件

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 地域活動支援センターの中に入り、受付で名乗り平田さんを呼ぶ。

 平田さんは程なくして来てくれた。挨拶を交わして、面談室へと向かう。

 平田さんはこのセンターの職員で、中年の女性だ。以前頂いた名刺に、社会福祉士と精神保健福祉士と書いてあった。そこから察するに、こういった福祉施設での経験は長いのだろう。

 しかしながら、まだ会って間もないためか、私は平田さんに警戒心を抱いたままだ。平田さんが私をどう思っているのかは分からないが、それでも私はあまり平田さんを好きではない。

「狐さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。お世話になってます」

 私は警戒心が出ると口調や言葉遣いが硬くなる。それは私が私を守るための一種の防衛反応なのだろうと思う。

「早速ですけど、本日お越しいただいたのは、先日の訪問看護の件です。どうでしょうか。どこか良いなとか利用してみたいなと思う所はありましたか?」
「はい。一か所だけありました。『すずかぜ』という所です」
「そこは結構利用者様が多い人気の訪問看護施設ですね」

 私はそうだろうなと思いながら、「そうなんですね」と知らないふりをする。なにせ市内の大きな病院で行っている訪問看護だ。手厚いサービスやサポートが充実していそうで選んだから、そういった目的で選ぶ利用者が多いのだろう。

「訪問看護の『すずかぜ』さんには、こちらからお電話致しますか。それとも狐さんからお電話しますか?」
「私が電話します」

 それではと、平田さんが訪問看護の説明を始める。私は聞いているふりをしながら、その話実は二度目なんですと思う。
 以前別の訪問看護を利用していたので、利用の仕方やどういったサービスやサポートがあるのかは知っている。それでも人が話しているから私は相槌を打つなどして聞いているだけだ。

「そうしましたら、本日中にご連絡しますか?」
「そうですね。本日中に連絡して来ていただく日を決めたいと思います」
「それなら良かったです」

 平田さんとの会話はそのくらいで、私は相談を終えて面談室を出た。
 たったこれだけのために地域活動支援センターに訪れるのだから、正直退屈で面倒臭い。とはいえ、呼ばれたからには行かないわけにもいかないと思うのは、私の性分なのだろう。

 バス停までの道のりで『すずかぜ』に電話を掛けた。日取りは調整してからにはなるが、ひとまずやる事はやったと思いつつのんびり帰る。
 その最中、桜並木の匂いが鼻を掠めて、私は顔をしかめる。
 ああ、やっぱりこの匂いは嫌いだ――。
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