りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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20話 力を振り絞って

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「リトさん、お帰りなさい。長期依頼お疲れさまでした! 今回も依頼者さんは大変感謝されていましたよ!」
「感謝って……普通に護衛しかしてねえけど」
「その護衛を完璧にできる人間は、『普通』そんなに多くないんですよ!」

 それじゃあ依頼する側も大変だな、なんて呑気に考えながら、リトは褒めちぎろうとするギルドの受付に手を振った。

 どうも、リトがそろそろ街を出ようとしている――という根も葉もある噂を聞いて、引き留め工作に必死のようだ。特に隠してもいなかったけれど、これは面倒なことになったと思う。

 潔く、明日出ようか。どうせ、大した荷物はない。ずっと点々としているのだから、慣れたものだ。
 そう考え、見上げた空が赤いことに気が付いて慌てて視線を下げた。ああ、これは本当に早いところ出た方が良い。
 リトは苦笑とともに宿へ引き上げ、明日発つ手はずを整えたのだった。



 ――何度目かの溜息を吐いて門を見上げ、咳払いして視線を逸らす。
 そろそろ、門番も遠慮の無い視線を送ってきている。
 さすがに不審者だろうと、リトだって思う。

 朝も早くから、そこらへ依頼をこなしに行く風を装って外へ行く門まで来たはいいものの、さっきからその足は門をくぐろうとしない。

(会わなかったら、いいんだよな)

 きっともう、馴染んでいる頃だろう。
 会ったら会ったで、もしかすると『コイツ誰だ』なんて顔をされるのかもしれない。

「ま、それならそれで俺としちゃ助かるけどな!」

 リトは、門番に会釈して踵を返した。

「元気にしている姿を見たら、俺も安心して出られるってもんだ」

 あいつがどうしているか分からないから、こうも未練がましいのだろう。
 リトはそう結論づけて足早に歩を進めた。


 街の中でも閑散とした場所に、ひっそりと建てられた孤児院。ぐるりと囲む塀も相まって、まるで収容所だ。確かに、その側面がないとも言い切れないが。

 リトは、すうっと気配を消すと、木陰を選んで塀の隙間から覗き込んだ。
 ちょうど、呼ばれた子どもたちが移動を始めたところらしい。
 外廊下をぱたぱたと走る子どもたちの足音と、ざわめき。

 痩せ気味の体はお世辞にも良い生活を送っているとは言えないけれど、悲壮感があるわけでもない。リュウが育つはずであったあの小さな集落であっても、食事情はそう大きく変わらないだろう。

 駆ける小さな人影が途切れるまで見送ったものの、リュウの姿はなく。
 どこかホッとしながら、リトは微かに微笑んだ。

「きっと、朝飯なんだろうよ。そりゃあ、いの一番に駆けてったろうな」

 走る姿か――。
 湧き上がった願望を押しやり、さて、と肩の荷物を揺すり上げたところで、年長者らしい1人が駆け戻ってくるのが見えた。

 不服そうな顔が気になって、つい目で追っていたリトの呼吸が止まった。

 くしゃくしゃになった、アイボリーの髪。
 だらりとした、傷だらけの細い手足。
 引きずるように抱えられるまま、揺れる頭。

 乱暴に抱え直され、がくりと露わになった生気の無い顔。
 汚い布きれを頬ばった、虚ろな瞳。

 そんなはずはない。
 あんな、あんな……。

 見開いた目を逸らせないまま、震えるリトの全身が否定している。

 違う、違う。

 強く首を振って視線を引きはがそうとした時、リトは見てしまった。

 これが、さいごだと悟ったような。
 全てを諦めたような不思議な微笑みと、滴っていく涙を。

「――っ!!」

 一挙に壁を跳び越え、瞬きの間に腕に奪った小さな小さな身体。
 あまりに軽く、あまりに儚く。
 霞のように、消えてなくなるかと思った。
 
「リュウ!! リュウ!」

 揺することさえはばかられ、閉じられた瞼をこじ開けたくて、ただ必死で呼んだ。
 その睫毛が重たげに、微かに上がる。

「…………り、と」

 濁った瞳は何も映してはいなかったけれど、確かにそう言って大きく見開かれた。

「そうだ、リュウ! 俺だ、リトだ。ごめん、ごめんな、こんな。違うんだ、ごめんな――」

 ぼたぼた、とやつれた顔に滴り落ちたものが何か考える余裕もなく、リトは小さな体に顔を埋めて震えた。
 うつろな目をしたリュウが、手探りでリトの濡れた頬に触れる。
 その無機質な表情が、みるみる崩れてくしゃくしゃになった。

「――、ぅ、えぇえ。うえええぇぇ……」

 リュウは、残る力を振り絞るように、声をあげて泣いた。
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