りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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52話 どちらさま?

集中、集中だ。
私はすう、と息を吸い込み、必要な情報を絞った。
今は、視覚と触覚があればいい。リトに怒られるので、聴覚も少しだけ。
視覚に意識を集中させれば、見回すだけで分かる。あの色、あの形、まるで薬草だけ別の色で塗分けたかのように、はっきりと分かる。

私は渡されたカゴに次々放り込んでは勢いのまま進み、採りつくしては徐々に移動した。
だけど、リトも採取するから、この場を離れるなと言っていた気がする。
この場とは、どの程度の範囲だろうか。
カゴがいっぱいになってきたことに気が付いて、鈍くなっていた思考を取り戻すべく集中を切った。

比較的草丈の低いところに連れて来てもらったので、視界がそれなりに確保できる。
ぐるりと見回すと、リトが森の中にいるのが見え隠れしていた。
大丈夫、この範囲なら声も届くだろう。

もう少し摘んでから戻ろうかと思った時、近くの茂みから誰かが顔を出した。
私と目を合わせ、一瞬驚いて引っ込んだけれど、危険はないと判断したのかそろりと全身を現した。

「こんちにわ」

ひとまずぺこりと挨拶してみたものの、私は戸惑っている。
これは、変質者だろうか。だって、服を着ていない。
相手は挨拶を返すでもなく、周囲を窺いながら近づいてくる。

「わたちのこちょば、分かりましゅか? どちやさまでちゅか?」

違和感を覚えて、そう聞いてみる。
返事はない。
人種が違うのだと思ったけれど、それにしては原始的だ。
身長はかなり低いけれど、子どもには見えない成熟した体つきをしている。全く毛が生えていない割りに猿人のような印象を受けるのは、やや背を曲げた二足歩行のせいだろうか。窪んだ眼窩とむき出した歯のせいだろうか。
ただ、緑がかった肌で、耳と鼻がとがっているのは、猿人との違いだろう。

うん? 緑の皮膚……? 
ふとそんな記述があったことを思い出し、ハッとした。

「ごぶいん?! もちかちて、あなた、まもも……?」

やっぱり、返事はない。
リト、リトは……! 慌てて振り返った瞬間、視界の隅に緑の小人が飛び掛かって来たのが見え……。
次の瞬間、その場に響いた悲鳴は――私のものではなかった。

「魔物で合ってる。呼ぶのがおっせえわ!」

むしろ、呼べてはいなかったけれど。
振り返って倒れ伏したゴブリンを確認し、ふう、と肩の力を抜いた。

「りゅー、びっくりちた」
「ビックリですむお前にビックリだっつうの」

リトが大きく息を吐いて、確かめるように私を抱きしめた。
外は、本当に危険なのだな。この短時間のうち、リトがいなければ私は2回も食べられていることになる。
逆に言えば、私は魔物をおびき寄せるには格好の釣り餌になれるということだ。
今のところ、餌はあっても針がないけれど。

「ゴブリンは強くはねえけど、群れで生活する魔物だから気をつけろ」

やはりあれがゴブリンらしい。身近にいるうち、最も厄介な魔物。
他の個体は見当たらないので、ひとまず運が良かったのだろうか。

「ごぶいん、覚える」

私はすたすたと遺骸に近づくと、薬草と同じようにデータ収集を行う。
まだ、温かい。魔物にも体温はあるのだな。それに、独特の臭いがする。毛がないと思ったけれど、産毛のようなものが生えて、手触りはガサガサしていた。爪は猿やヒトと違って鋭く、歯も肉食獣のそれ。雑食のはずだけれど、大分肉食寄りのようだ。
ちなみに、味覚を使うのは止められてしまった。

「……お前、肝が据わってると思っちゃあいたが、ここまでとはな。怖くねえのか? 気持ち悪くねえか?」

だって、こと切れているのに怖くはないだろう。気持ち悪い、というのはよくわからない。特に気分を害すようなことはないと思うけれど。
首を傾げていると、リトがじっと私の瞳をのぞき込んだ。

「生き物を切ったり、血が出たり、冒険者はそういうのが日常になる。今、平気か?」

自分が切られたり、血が出たら平気ではないと思うけれど。今は、何も問題ないと頷いてみせる。
生き物を狩るなら、当然そういう生活になるだろう。

「そうか。ならいいけど、無理はすんなよ!」

立ち上がったリトが、ぽん、と私の頭に手を置いた。
私は、相棒としてぽんぽん、とリトの腿を撫でて見上げた。

「らいじょうぶ、無理ない。りとは? 無理ちてない?」

一瞬きょとんとしたリトが、思い切り破顔した。

「はっはは! まさか俺の心配かよ! 斬新すぎて腹がいてえ! あー大丈夫、無理はしてねえよ!」
「そえならいいけど」
「なんか、そうだな、そうだったな。最初は俺も無理してたんだよ、吐いたりしたっけな」

リトが目を細めてゴブリンを見やった。

「当たり前みたいに切り捨てたけどよ、俺は今、こいつと戦って勝ったってことだな。なんつうの、命のアレやソレって感じすんな」

感慨深そうなリトだけど、残念ながら私にはまったく伝わっていない。アレソレの部分が肝心だったと思うのだけど。
ただ、分かることがひとつ。

「りとなら、勝った。りゅーだと、負けた――かも」

リトとゴブリン、ゴブリンと私。何も違わない命の駆け引きがあるのだな。
少し瞠目したリトが、ややあって笑った。

「かも、じゃねえわ! 勝てる可能性がどこにあんだよ」
「ある! りゅーだって、剣ある!」
「ねえわ、ばーか! そもそも戦おうとすんな、まず助けを呼べ、まず逃げろ!」

そういえば木剣を抜くことすら、頭になかったけれど。
まず助けを、まず逃げることを。
むくれつつ、私は今回のことでしっかりと理解したのだった。



◇◇◇◇◇◇◇

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