りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

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116話 ハンドサイン

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ちら、と小袋の中身を見て、値札を見て。
ケースに収まった干し果物を順繰りに見つめた。
私はAIだ。この限られた資産でも、最適解の選択を見つけてみせる。
……だけど。

「うーん、黒ブドウ数個かな……。海ラダなら、リュウ君の手の平いっぱいくらいにはなるよ?」

セイリアが、困ったような顔をする。
海ラダは、彼女の説明からすると、茎ワカメのようなものらしい。
それはそれで食べてみたいけれど、でも、甘くない。
どんなにAIとして計算してみても、一番安い黒ブドウしか選択肢がない。

「くらもの、高い」

しゅん、と意気消沈しながら、見守っていた痩せた壮年男性に小袋の中身全部を渡した。

「おめえ、そりゃ小遣い全部じゃないんか?」

こくりと頷くと、店主らしきその人はがりがり頭を掻いた。

「初めての小遣いでウチを選んだんか? しゃあねえな……次からはサービスしねえよ?!」

ぶつくさ言いながら、小さなスコップで黒ブドウをザッと袋へ入れた。
明らかに、今、多かった。
目を見開いて見上げると、フン、と鼻を鳴らして袋を押しつけてくる。

「はぁーあ、売って損害ってどういうことだ」

怒っているんだろうか? 不貞腐れたような顔に困惑して、返した方がいいのかとセイリアを見上げた。

「おっちゃん、いい目してるよ! 『先の英雄を見据えよ』だよ? この子、きっと魔法使いになるんだから! 絶対、万倍になって返ってくるって!」

それは、『損して得取れ』みたいな感じだろうか。さすが、商家出のセイリアらしい。

「はぁーん、そりゃありがてえな。俺が生きてるウチに頼むわ」

さっさと行けと言うようにぞんざいに手を振られ、笑うセイリアに店を押し出される直前、店主を振り返る。

「……あいやとう!」

ちょっとだけ笑った店主は、怒ってはいないように見えた。

「くよぶどう、こんなに……。りゅー、悪いことした?」

すぐさまひろげてみた袋には、たっぷりの干し黒ブドウ。

「全然、悪くないよ! あれは照れ隠しってトコと見た。とにかく、サービスなんだからだいじょぶ! ちびっ子特権は使えるうちに使っとかなきゃ、なくなっちゃうんだからね?」

セイリアがひとつつまみ上げ、私の口へきゅっと押し込んだ。

「しゅっぱい」

酸っぱくて、少し甘い。
リトの買ってくる干し果物より酸っぱくて、小さくて。
だけど、私の初めての買い物だ。私のお金……かどうか分からなくなってしまったけれど、だけど、私が自分で入手したもの。
頬の奥に染みるような酸味を噛みしめ、私はによによと笑みを浮かべたのだった。



「もうすぐだよ! 疲れた?」

口の中の干しブドウをしゃぶりながら、首を振った。
何せ、私は旅をしてきたのだ。町中を歩くくらい、どうということもない。たとえ、概ねおぶわれていたとしても。
大事に一粒ずつ口の中でふやかして食べる私は、まだまだ減らない袋の中身を確認して、頷いた。
セイリアにも干しブドウを分けてあげようと思ったのだけど、『じゃあ一つだけ』と1粒口に入れて終わりになってしまった。

酸っぱい、と笑うから好きではないのかもしれない。
ブドウに意識を集中していた私は、セイリアに手を引かれるまま周囲を見回した。
多分、海岸の方に近付いているのだろう。繁華街を過ぎれば、あちこちで干された網や道具から強烈な磯の香りが漂っている。放置された貝や、海藻みたいなものは、ゴミだろうか。
いいところに行く、と言っていたはずだけれど……。

「もくてちちは?」

一瞬首を傾げたセイリアが吹き出した。

「目的地って言った? リュウ君ってさ、ちょっと独特の話し方だよね? あのお兄さんの話し方とも違う気がするけど」

言われてみれば、リトの話し方とは違う。そんなこと、考えたこともなかった。
なるべく端的に、言葉にしやすいもので。今も、無意識にそうして言葉を選択している。

「りゅー、おしゃべり上手なない」
「あっ……同世代との接点がないって、もしかしてこういうこと……? 確かに、めちゃくちゃ赤ちゃんぽい割に、言動が大人びたりするし……」

赤ちゃん……。
私は、セイリアの呟きに衝撃を受けた。

「我も、弟子って4歳の割に、ベビ感アリアリだと思う」

そんなこと、言われたことは――ラザクやファエルにしかない。

「りゅー、赤ちゃん……?」

確かに幼子であるのは間違いないけれど。だけど、赤子ではなかろう。
自分の足で立って歩いて、こうして買い物もできる。

「そ、そういうわけじゃなくて! そう、可愛いってこと!!」

私の不満が伝わったのだろうか。セイリアが、慌ててそう言った。
可愛いのか。それなら、いいのかもしれない。

「りゅーは、かわいいって言われる」

それは、街でも良く聞く。
頷くと、セイリアが真っ赤な顔で思い切り頬を膨らませて口を押さえた。なぜ、そんなことを? 耳から呼気が吹き出しそう。

「そ、そうよ! 自信持って! リュウ君は、可愛い!」
「りゅー、かわいい」

こくっと頷く私に、セイリアがますます顔を赤くして両の親指を立てた。

「それ、なに?」
「え……? これ、知らない? 『最高にイイ!』 ってこと」

なんと便利なハンドサインだろうか。感動した私は、慎重に指を選んで、ぐっと親指を立ててみせる。

「そうそう! こうすると『反吐が出るぜ!』で、片手で上向きだと『いいね!』になって――」

なんと、向きひとつで随分変わる。これだけで意思表示ができるなら、言葉よりもずっと的確で効率が良い。
せがむままに、セイリアは色々なサインを教えてくれる。
私はハンドサインを繰り出しながら、どこへとも知れない目的地へと向かったのだった。


「――さ、ここだよ!」

明るい声に顔を上げ、ぐるり周囲を見回して困惑する。

「……ここ?」

お店など影も形もない、やや小高くなった海岸沿いの原っぱだ。
古びた石垣のような跡があるから、もしかすると昔は管理されていた土地なのかも。
そうか、私はてっきり何か美味しいものを食べられるところ、だと思い込んでいたけれど、そうではなかったのか。

「せいりあと、遊ぶところ?」

ガッカリ感は否めないけれど、それでもいい。

「あはは、そんなの、町中で十分だよ! ほら、こっち来て!」

しゃがみ込んだセイリアに倣ってかがみ込むと、細い指が地面の何かを指している。

「ビビベリー、知ってる? 結構美味しいんだから」

目を凝らすと、私の爪くらいの大きさをした黄色い実を見つけた。
美味しいのか。
さっそくつまみ取って口へ入れると、もさっとした食感と共にうっすら甘みが広がった。
少し驚いた顔をしたセイリアが、ため息を吐いた。

「あのさ、リュウ君、こういう時はパクッと口へ入れちゃダメ」
「どうちて?」
「りゅう君、そこらのモノ食べてお腹壊したこと、ないんでしょう」

そこらのモノを食べようとすると、素早くリトに遮られるから……確かにない。ただ、孤児院でお腹を壊したことはある。

「あとね、会ったばっかりの人を信用しすぎちゃダメ! 私が悪い子で、お腹壊すようなものを教えていたらどうするの!」

そんなもの、どうしようもないのでは。

「でも、せいりあ知らない人なない」

耳にクラーケンができるほどリトからは聞いたけれど、セイリアはその条件に当てはまらない。
いや、クラーケンは巨大イカだったな、と思いつつ見上げると、セイリアも困った顔をする。

「うーん、リュウ君が私みたいに大人になって分かるようになるまで、心底信用していいのは家族だけでいいんじゃない?」

セイリアは、大人じゃないけれど。

「りゅー、家族ない」

ハッとしたセイリアが、慌てて付け加えた。

「ち、違うの! 家族みたいにずっと一緒にいる人! あのお兄さんみたいな!」
「じゃあ、らざくとふぁえるは?」

ペンタは、無条件に信用していい。私が、そう思うから。

「ファエルって、その胡散臭いカエルでしょ? ダメダメ! こういうのがいっちばん怪しいんだから! ラザクって人は知らないよ?!」
「この小娘、言わせておけばぁ! けしからん、我が魔力が戻ればお前の身長など、握りこぶしほど下げてやるわぁ!」
「地味ぃ! 地味だけどめちゃくちゃ嫌!!!」

仲は良さそうなのに、と言い合う二人を眺める。
そもそもラザクは信用しないけれど、一応他者からの見解を聞くのも大切だ。

「らざく、借金王のぺてんちで、『良いとこよなし』の小悪人」

言葉にしてみると、改めて酷い。

「…………それ、一緒にいたらダメよ……」

絶句したセイリアは、両手で『反吐が出るぜ』をやったのだった。





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ずーーっと変えなきゃと思ってたタイトル、明日から変えますね!
賛否両論あるだろうけれども……(T^T)
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