りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

文字の大きさ
128 / 184

124話 常識の相違

しおりを挟む
やっぱり、町の中と外は空気が違う。
外は少し冷たくて、鋭くて――清々しい。
幌を巻き上げた馬車は、ガタガタ言う車輪の音も、そよぐ草の音もよく聞こえる。
前髪を揺らして去って行く風を追って、もう見えない町へ視線をやった。

私たちはあれからすぐ、彼の仲間と合流して馬車に乗っている。
馬車内には、私たち以外にも冒険者グループが二つ。
時折ちらりとこちらへ視線が向けられるけれど、リトはまるで気付いていないように髪をなびかせていた。

「あの、リトさん……」

おずおず問いかけられ、仕方なさそうにリトの視線が馬車の中へ戻ってきた。

「えーと、再確認なんすけど……」

ミッチの視線が、リトと膝の上にいる私を往復する。
ついでに、周囲の視線も同じように私とリトを行き来した。

「俺、討伐って言ったと思うんすけど……その子、本当に連れて行くんすか?」

ちなみに、あのときの『かっこいいお兄さん』はミッチというらしい。
そして、彼が所属するパーティはあと男性一人と女性二人。それぞれ名前もある。

「ああ」

ものすごく端的に答えたリトが、話は終わったとばかりに視線を戻そうとして、ミッチに詰め寄られた。

「ああ、じゃないっすよ! そんなデコレーションして店頭に並んでるお砂糖菓子みたいな子! 魔物の巣窟に連れてくとか……!!」

思わず吹き出しそうになったリトが、慌てて自分の口元を覆った。
私は、お砂糖菓子みたいなのか。ケーキの方が好きだけれど、まあ、悪くない。

「問題ねえよ、旅の同行者だぞ」
「えっ……リトさん、こんな小さい子連れて旅してたんすか? なんで……あ、いえ」

疑問と非難と尊敬と、あと同情と……いろいろない交ぜになった目が、まじまじリトを見る。

「肝が据わってるからな。お前らに迷惑かけることにはならねえよ」
「そうは言っても……巣穴の探索とか、隠密行動で群れの調査とか……」

引き下がらないミッチに、リトがため息を吐いた。

「そんな作戦に俺を含むんじゃねえよ、俺は想定外の人員だろ? 戦闘の戦力としてだけ、加わってやるよ」
「それはそうなんすけど! フェルウルフの群れがうろつく場所っすよ?! それじゃリトさん、単独でその子と残されることになるんすけど?!」
「元々そのつもりだ」

言った途端、ミッチの目が輝いて、リトがしまったと身をひいた。

「カッケーっす! さすがリトさんっす!」
「いや、俺らのことは構わなくていいっつうつもりで……」

よそ行きのリトが、剥がれそう。
うろたえるリトはミッチの顔を掴んで、物理的に押しやった。

「あの、本当に大丈夫ですか? 実力者だとは重々承知しているんですけど、さすがに小さい子と一緒だと……。戦力としてすごくありがたいですから、ちゃんとその子の護衛もやりますよ?」

苦笑してミッチを引っ張った女性が、遠慮がちにリトを見上げた。これは、セリナという人。

「さっき言った通り、こいつと旅してきたから大丈夫だ。戦闘も経験している。悪いな、気を遣わせて」

ミッチの圧迫感から解放されたリトが、安堵したように微かに笑って、セリナが口ごもった。

「い、いえっ! その、ええと、だいじょぶです!」
「リトさん?! 俺と対応違わないっすか?!」

セリナの手を振りほどいたミッチが憤って、リトがまた顔面に手を着いて接近を防いだ。

「お前はうるせえからだ! 寄るな!」

リトは、すごいな。
私は誰かと仲良くする方が難しいのに、リトは仲良くしない方が難しそう。
隙あらば寄ってこようとするミッチを牽制するよう、私は静かにファエルを掴んだのだった。


乾いた草が、私たちの移動に伴って割と派手な音をたてる。
背負子に興味津々だった冒険者たちは、徐々に声を発さなくなり、もうこちらを見ることがなくなった。
リトの膝までだった草丈が、徐々に腰に届きそうになる頃、動向していた冒険者パーティがどこに行ったか分からなくなった。
私の目では、ただ草原が広がっているように見える。さっきまで、そこにいたのに。
じっと佇むリトは、一点を見つめて動かない。だから、きっとそこに彼らがいるのだと思う。

「どこ?」
「どこって言われてもなあ……あいつらもCランクだから、そうそうお前に見られる間抜けはしねえだろうよ」

そう言われて、むっと目を凝らしてみるけれど、やっぱりどこにいるかわからない。
完全に草の中に身を沈め、獣のように進んでいるらしい。

私たちは、彼らの邪魔にならないよう荷物番としてここに残っている。
まあ、邪魔になるのは私だけれども。
馬車で数時間の距離で、こんなにも人の気配がなくなってしまう世界が、不思議だ。
人を襲うような狼の群れがここにいるのだという。
狼の行動範囲など、馬車数時間の距離なら軽く含まれるだろうに。なのに、町にはやってこない。
人という生き物の住処、という区分は存外にはっきりしているらしい。

すごいな、と思う。
私のような、ひと噛みで終わりの生き物がたくさんいるのに。
だけど、一部のリトのような人がいるから、魔物の領域が切り開かれる。壁を作る人がいて、住処を守る人がいて、住処を発展させる人がいて、だから、人は増える。
弱い人の中から、またいろんな人が生まれる。

知り得た知識が、文字によって引き継がれていく。知識が、どんどん積み重なっていく。
それは、人類が手に入れた「外部拡張メモリ」。
読み書きできるだけの幼子が、数十年生きた魔物の上を行く。
凄まじいな、と思う。

つらつらと考えるうち、リトの視線が森の方まで移動していた。
さすがに目で追えなくなったか、小さく息を吐いて私を振り返る。

「あいつら、本当に野営する気か……? なんでだよ、ちゃちゃっと狩って帰りゃいいじゃねえか。近いのに」

どうも、リトの思う討伐と彼らのやろうとしている討伐が違う気がする。
野営場所の確保を……という話に、『は?』となったリトと、『は?』となった彼ら。
それぞれの『常識』と『当然』が食い違っていたらしい。
まだまだ真上にはならない太陽を見上げては森を眺め、リトは落ち着かない。

「じゃあ、りとがとうばちゅしたらいい」
「そりゃそうだけどよ……さすがに俺が一人で狩ったら顰蹙ものだっつうの」

多分、その認識も食い違う気がするけれど。


「――群れの規模、結構大きいかもしれないっす」

ようやく戻って来た彼らは、どこか深刻そうな顔をしている。

「こうなると、リトさんがいてくれたのは本当に運が良かった……」

ため息を吐いたのは、もう一人の男性であるロガン。大きく頷いたのが、ケリー。

「そうか。巣は見つけたんだろ? なら、早く行かねえのか?」

広い縄張りをもつフェルウルフだけれど、今の時期繁殖するらしく、巣を作って留まるのだとか。それを叩こうというギルドの腹づもりだったのだけれど。

「リトさん聞いてませんね?! 規模が大きいんすよ! フェルウルフって多くて10頭じゃないすか、それが倍くらいはいるんじゃないかって」
「…………」

押し黙ったリトを見上げた彼らの真剣な顔が、変化した。
事の重大さに気付いたはずのリトの表情は、どう見ても『だから?』といわんばかりに訝しげだったから。

「……あのー、リトさんってもしかしてその数、余裕っすか?」
気まずい沈黙の中、なぜかそっと手を挙げたミッチが、恐る恐るといった体で口を開いたのだった。
しおりを挟む
感想 311

あなたにおすすめの小説

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...