りゅうはきっと、役に立つ。ピュアクール幼児は転生AI?!最強知識と無垢な心を武器に、異世界で魂を灯すためにばんがります!

ひつじのはね

文字の大きさ
144 / 189

140 雨天決行

しおりを挟む
「ああ、やっぱ降ってきたな。どうする? 出かけるのやめるか?」

ぼさぼさの頭で窓の外を見たリトが、大あくびした。
さっきからずっと外を見ている私は、みるみる色を変えていく景色を見守った後、首を傾げた。

「どうちて?」
「雨が降ってるだろ」
「雨、りゅー外出たい」
「ああ……お前には『いい天気』だったか」

こくりと頷いて、暗い空を見上げる。
以前いた場所より、ここはよく雨が降る。だから、珍しくはなくなったけれど。
それでも、晴れの日よりも雨の日の方が珍しいと思う。

「ええー雨の日にわざわざ出かけるなんて、酔狂である! 我は反対!」

ファエルがぶつくさ言っている。私の知識だと、カエルは雨が好きなはずなのに。

「雨具、買っておいたのがあったはずだが……」
「あまぐ?」
目を輝かせて窓から離れると、荷物を漁るリトの手元を覗き込む。
これだろうか。それだろうか。
何か取り出すたびにリトを見上げるけれど、違うらしい。
傘だろうか、カッパだろうか、それとも他の物?
辛抱強く見守る私を笑って、リトが唇をつまんだ。
どうしてリトは、私が集中していると口を摘まむのか。
怒って振り払ったところで、ぽんと頭の上に何か乗せられた。

滑り落ちてきたそれを、両手で広げてみる。

「服……?」
「雨具だ。それ着ていくぞ」
「我のは?」
「あるか!」

文句を言うファエルの声を聞き流しつつ広げたそれは、普通のポンチョに思えるけれど、撥水加工なのだろうか。
さっそく寝間着を脱いで羽織ると、先に服を着ろと怒られた。どうやら服の上に着るらしい。
服を着て、雨具を着て、ブーツを履いて。
リトも雨具だろうかと見上げると、いつものマントにフードを被っただけ。

「りと、雨具なない?」
「俺のは冒険者仕様だからな、常に兼用だ。お前には重いだろ」

確かに、雨具はすこしずっしりしている。何かの皮だろうか。
どうやら傘は差さないらしい。


「もう、いい?」
「いいけど、転ぶなよ」
「転ばない」

わくわくしながら宿を飛び出し、まず第一歩目でひっくり返った私を、見事にリトがキャッチした。
それ見たことか、と言わんばかりの視線にむくれる。

「……いちゅも、ここ滑やない」
「そうだな。けど、今は雨が降ってるから滑るんだ。濡れると滑りやすい場所は多いぞ」

抱き上げられるんじゃないかと用心して、じりじり距離をとると、リトが苦笑して私の背中を叩いた。

「気を付けて歩け。走るやつも多いし、馬車が水を跳ねるから、背中を向けるんだぞ」
「大丈夫」
「何も大丈夫じゃなさそうだけどな……」

ぼやくリトを見上げてフードをしっかり押さえると、雨降りの景色に足を踏み出した。
ばばばば、と音がする。私のフードを雨が叩いて、結構大きな音がする。
大量の水が全部を濡らして、景色は普段より一段濃い色に見えた。
ファエルは、リトのポケットの中にすっぽり入り込んで、顔も出さない。本当に雨の嫌いなカエルなんだな。

雨具は、凄かった。全然水を通さない。
腕に落ちた雨粒が、生き物のようにするする逃げていく。
腕を持ち上げてじっと待っていると、いくつかの粒が、そこへ留まった。
丸く、玉になった雨がきれいだ。つまんだ途端、ただの水になって私の指を濡らす。
私に当たった水玉が、雨具に弾けて滑るのが面白くて、じっと見ていた。

「おーーい。早く歩いてくれ……」

既に疲れたようなリトの声に、ハッと顔を上げる。
とても面白いけれど、今日は用事がある。急がなくては。
リトを見上げた途端、目に衝撃を受けてぎゅむと閉じた。額に、頬に、冷たい雫がいっぱい落ちてくる。

「こらこら、雨具の意味がねえだろ」
「目々、雨入った」
「大丈夫だ、水だから」

くいっと頭を正面に戻され、濡れた顔が乱暴に拭われた。
ぱちぱち瞬いているうち、リトの手が私の手を握って歩き出す。

「手、繋いでりゃこっち見なくても大丈夫だろ。滑っても大丈夫だ」

なるほど、合理的だ。見上げかけた顔を戻して、こくりと頷いた。
これなら、私がよそ見しても大丈夫。

珍しい雨の中、色んな音を聞きながら町を歩く。
雨の日は、匂いも違うと初めて知った。雨にぬれると、いつもより強く香る気がする。
土も、漁網も、木も、草も、全部いつもより強く主張する。
やっぱり、皆雨の日を好きなのだろう。どうしてリトとファエルは好きじゃないのか。
坂道を、レースのように波打ちながら流れる水と一緒に、リトと歩く。時折滑る足が頼りないけれど、リトが手を掴んでいたら何も心配はない。

やがて坂道が終わった時、いつもの海が鈍色で、どおん、という音が大きく聞こえた。これが、荒れているということなのだろう。
ぱちゃ、と鳴った足元を見ると、水の膜が張っている。
歩くと、波紋が広がる。
まるで、水面を歩いているよう。
しっかり撥水しているブーツは、もしかすると水の上を歩けたりするだろうか。

ぱちゃ、と踏みしめると、リトが悲鳴をあげた。
もう一度ぱちゃ、とやると怒られた。
じゃあ離れていればいい、と手を離そうとしたのに、それは許してもらえない。

「濡れるだろうが、やめろっつうの!」
「りゅー、濡れてもいい」
「ダメだ、病気になるだろ」

濡れたくらいで、病気になるだろうか。
だけど、あんまりやると抱き上げられそうな気配を感じて、渋々諦めた。

「さて、儀礼の間と本屋、どっちの方が近かったか……」
「ぎえいの間」
「ああ、ならそっちに行くか」

商店街に差し掛かると、いつもより人が速い。みんな、何かを急ぐように俯いて足早に歩いている。
あんまり私とぶつかりそうになるものだから、ついに抱き上げられてしまった。下を向いているのに、皆私が見えないんだろうか。

「どうちて、みんな急いでる?」
「濡れたくねえからだよ」
「雨具、持ってない?」
「まあ……お前が着ているクラスのは、あんまり持ってねえだろうな。たとえ持っていても、早く濡れない場所に行きたいだろ」

分からない。私は、もうちょっと濡れて遊びたい。
急ぐ気持ちが理解できずに、眉根を寄せてリトに笑われた。
フードの中から、リトの銀の目がきらりとする。雨の日は、リトの目も、銀色が濃く見える。
普段は、色んな色が映しこまれる銀が、ちゃんと本来の色に見える。

「ほら、もう着くけど、もらった人の顔分かるのか?」

まじまじ見つめていたら、リトの目もこちらに向いた。

「りゅー、分かる」
「さすがだな。お前には、指名手配書とか見せておくべきだな」

なるほど……? それはいいアイディアだ。危険を避けることにもつながる。
それは、どこにあるんだろうか。
話を続けようとした時、フッと世界から音が消えた。

びっくりして顔を上げると、リトがフードを後ろへ避けたのが見えた。

「どうした、目がデカくなってるぞ」
「……聞こえた。りゅー、音なくなって、びっくりちた」
「ああ、雨の音か」

リトが、私のフードも後ろへやった。
そうか、建物に入ったから。
耳を塞ぐほどに大きかった雨音が遠くなると、こんなに静かだ。
ざああ、と離れた場所で鳴る音を聞きながら、儀礼の間受け付けへと向かった。
しおりを挟む
感想 317

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

処理中です...