悪役令嬢の婚約者はニヒルな笑みが様になる

小春日和

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ゲーム前

乱入

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「はーい、そこまで!」

パンパンと手を叩きながら近寄ってきたのは、呆れたような顔をしたサミュエルだった。

「ちょっと兄貴やり過ぎ。
人ん家でいちゃいちゃしないでもらえますか?」

そう、今日お茶会が開催されてるのは、アンドロフ公爵家のサロン。

「まぁ、そう言うなサミュエル。
お前が家で行われているお茶会に兄貴を誘った瞬間から、こうなることは分かっていたことだ。
あの、姉御に会えないとえげつないオーラを出していた兄貴に比べれば…」

そう言って、遠い目をして話すのはニコル。

「ヴィルフェルム!お兄ちゃんにもそうやって甘えていいんだぞ!遠慮はいらん!さぁ!」

言わずもがな、これはアラン殿下。
おかしいな、ゲームではこんなアホっぽいキャラではなかったのに、メインヒーローがこんなんで大丈夫なのか?
既にキャラ崩壊してる気がするけど。

「…」

キリアンは一言も発さず、無表情で立ってるのみ。
内心は、大勢の女性を前にして固まってるだけなのを知っている。
めちゃめちゃ初なのよ、この子。
今思い出した。
それなのに最初の頃、私にはよく突っ掛かって来れたわよね。
………解せん。

すっと背後から温もりが消えた。
ちらりと振り返ると、先程の柔らかい笑顔が嘘のような表情の抜け落ちた顔。
ルー様が何かを告げようとした瞬間、私とルー様を背後にして、サミュエルやニコルたちと対峙するように華奢な後ろ姿が私たちの前に立ちふさがった。

「ちょっとお兄様…」

俯き加減に声を低く震わせながらサミュエルに声を掛けるその人は、アンドロフ公爵令嬢。

「お兄様!」

「な、何だよ。カレン」

カレンとは、アンドロフ公爵令嬢のことである。
問い掛けるサミュエルは、妹であるカレン様にやや圧され気味な感じが否めない。

「せっかく…、せっかくいいところでしたのに!
何故邪魔をするのです!」

「え?」

「お茶会の度に恋する乙女のようにヴィルフェルム様を語るユリアーナ様は、まさに恋の宣教師!
人を愛するということはこういうことなのだと、教えていただけて、今日は目の前で2人のふれあいを見られるという奇跡が起こりましたのに!
くぅ!もっと見ていたかったのに!!
お兄様のせいで、今日のお茶会のテーマが半分パァですわ!!!」

「お、お茶会のテーマ…?」

「そうですわ!
ここにいる方々は、愛する人に全力で愛を捧げるユリアーナ様をお慕いしている者の集いですのよ。
もちろん、会長はこの私!
会員は今爆発的に増加中ですのよ。
近々、ユリアーナ様とヴィルフェルム殿下をモデルに会員限定で物語を発行する予定ですのよ。
お茶会の度にネタを提供してくださるから、もう私ニマニマが止まらなくて、それを隠すために必死だったんですの」

あぁ、それでニヤリとした読めない顔になっていたのか。

「って、そうじゃなぁぁぁい!」

「まぁ、ユリアーナ様。いかがなさいました?」

混乱する私に、カレン様が笑顔で振り返る。
瞳をキラキラ輝かせて、頬は少し紅潮しているのは気のせいだろうか。

しかし、色々衝撃的な発言が多すぎてどこから突っ込めばいいのか、もはや分からず項垂れるしかない。

「もしや、勝手に物語のモデルにしたことを怒ってらっしゃるの?」

不安そうに見上げてくるカレン様。
攻略対象の妹だけあって、すごい美少女なのだ。
その美少女にうるうると見上げられると、とてもいけないことをしたような気分になるのは、きっと私だけではないはず。

「い、いえ。
その物語で、ヴィルフェルム殿下のことを分かってくださる人が出てくる可能性があることを考えると、嬉しくは思っても怒ったりはしません」

「では、勝手に会を設立したことが不満でいらっしゃる?」

「…そこまで好感を持っていただけるのが不思議だというだけで、不満とまでは…」

「まぁ!それは、あれのせいですね!
ヴィルフェルム殿下を少し悪く言わないと、ユリアーナ様ったら全然惚気て下さらないから、当番制で悪役を回していましたの。
申し訳ないと、皆お茶会の後に落ち込んでは、窺った話で傷を癒していたのです。
でも、間違いなく私たちは、ユリアーナ様をお慕いしていますわ。
お兄様たちが姉御と呼ばせていただいていますが、私たちには是非ともお姉様と呼ばせていただく、許可を!」

確かに、最近嫌味を言われる度に相手が逆に泣きそうになっていることが多くて、誰かに言わされてるのかなとは思っていたけど、まさかこういうことだったとわ。
それに、お母様の同伴も減ってきて、私一人で参加するお茶会も増えてきたのはこういうことか。
そういうお茶会は、母親からゴーサインが出た令嬢一人で参加するもので、そういうものだとは思ってたけど、まさか自分を慕っている会も発足していたなんて、誰が想像できよう。

カレン様の後ろに、いつの間にか令嬢たちが同じように目を輝かせながら、一心に私を見つめてくる。
こうなったら、自棄糞だ。

「よ、呼ばれるくらいでしたら…」

いいですよ、と言い終わるか言い終わらないうちに、サロン中が女子たちの歓喜の声で満たされた。

「ただし!」

私の一言でピタリと止まる。

「1つだけお願いがあります。
ルー様を悪く言うのは止めてくださいね」

「はい!もちんですわ、お姉様!!」

令嬢たちの声がキレイに重なって響いた。
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