悪役令嬢の婚約者はニヒルな笑みが様になる

小春日和

文字の大きさ
29 / 54
ゲーム前

気になります

しおりを挟む
あのお茶会の一件以来、お茶会の後は必ずルー様のところに寄るようにしている。
そして、その件はどうやらお母様の耳にも入ったらしく、私を王宮の入り口まで送った後、私が先に帰るお母様の馬車を見送っている間、毎回ニマニマした視線を向けてくるのだ。

恥ずかしいったらありゃしない。

今日もそんなお母様の視線に耐えながら馬車が見えなくなったのを確認し、ホッと安堵の息を吐くのも致し方ない。
早速ルー様のところへ行こうと踵を返した時、横からあの、と躊躇いがちに声を掛けられた。

「あの、ユリアーナ様…」

声の方を振り向けば、何度かお茶会で一緒になったことのある令嬢がいた。

ナタリア・アルシオーネ子爵令嬢。
人見知りなのかいつも控えめに俯いている印象で、今も勇気を出して声を掛けたのだろう。
ドレスを握り締める手が震えている。

「まぁごきげんよう、ナタリア様。
どうされたの?」

「え?私の名前覚えて…?」

私が自分の名前を覚えていたのが、余程衝撃的だったのだろう。
パッと顔を上げて、驚きの表情で見つめてくる。
なぜ、そう驚かれるのか分からず思わず首を傾げた。

「?何度かお茶会でご一緒させていただきましたもの。もちろん覚えていますわ」

「…っ」

ナタリア様の顔がかぁっと赤みを帯びる。

「?」

「わ、私、イザベラじゃない方と皆様から呼ばれることが多くて…」

その言葉に、あぁと納得する。
確か、ナタリア様とイザベラ様は双子だった。
前世の知識を活かして言えば、一卵性双生児。
全く同じ見かけなのと比例して、中身は真逆だと評判の姉妹。
社交上手な姉と人見知りの妹。
それはまるで陽と陰。
必然と陽の方に周囲の注目が行き、陰は更に影を濃くする。

それにしても「イザベラじゃない方」なんて、悪意しか感じない。
ルー様のこともそうだけれど、人を貶めて自分を優位に立たせようとすることってそんなに甘美なのかしら。
たかだか一瞬の仮初めで、決して本当に優位になったわけではないのに。
本当趣味が悪くてほとほと呆れるわ。

ふぅっと息を吐くと、びくりとナタリア様が身を震わせる。

「も、申し訳ありません。
何か気にさわることをしてしまいましたでしょうか…?」

その何かに怯えるような様子に、思わず眉を潜める。
彼女が周囲からどのような扱いをされているのか、垣間見えたような気がした。

「ナタリア様、あなた…」

尋ねようとして、止めた。
こんな初対面に近い人物から、身の回りの心配をされたところで本当のことは言わないだろう。
下手をしたら自尊心を傷付けてしまうかもしれない。

「いいえ、何でもないわ。
そういう失礼な呼び方をする方がいらっしゃることを残念に感じただけで、あなたに対してため息を吐いたわけじゃないのよ。
怖がらせてごめんなさいね」

私の言葉に、ナタリア様は安心したようにホッと息を吐いた。

「ところで、何か用事があって私に声を掛けたのではなくて?」

「あ…」

「?」

僅かに顔を青ざめさせて言葉をなくすナタリア様に眉を潜める。

「た、たまたまお会いできて嬉しかっただけです」

お気になさらず、と慌てたように走り去るナタリア様。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、思うことはただ一つ。

「そんな去られ方したら、気になるに決まってるじゃない…」

ーーー

「…とういことがあって」

かくかく然々、早速ルー様に話す。

「うん、それはとても気になるね」

「そうですよね!
何か悩み事でもあるのかしら?」

「あぁ、アナは純粋にナタリア嬢を心配して気になるんだ」

「…?それ以外に何かありますか?」

私の答えにルー様はふふ、と笑う。

「そうだね。
私は彼女の心配ではなく、君の心配をしているよ。
ナタリア嬢がアナに対して何か良からぬことを企んでなければいいとね」

そう言うルー様に抱き込まれた私は、その時ルー様が鋭く瞳を細めていたことを知るよしもなかった。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

処理中です...