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あのお茶会の一件以来、お茶会の後は必ずルー様のところに寄るようにしている。
そして、その件はどうやらお母様の耳にも入ったらしく、私を王宮の入り口まで送った後、私が先に帰るお母様の馬車を見送っている間、毎回ニマニマした視線を向けてくるのだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
今日もそんなお母様の視線に耐えながら馬車が見えなくなったのを確認し、ホッと安堵の息を吐くのも致し方ない。
早速ルー様のところへ行こうと踵を返した時、横からあの、と躊躇いがちに声を掛けられた。
「あの、ユリアーナ様…」
声の方を振り向けば、何度かお茶会で一緒になったことのある令嬢がいた。
ナタリア・アルシオーネ子爵令嬢。
人見知りなのかいつも控えめに俯いている印象で、今も勇気を出して声を掛けたのだろう。
ドレスを握り締める手が震えている。
「まぁごきげんよう、ナタリア様。
どうされたの?」
「え?私の名前覚えて…?」
私が自分の名前を覚えていたのが、余程衝撃的だったのだろう。
パッと顔を上げて、驚きの表情で見つめてくる。
なぜ、そう驚かれるのか分からず思わず首を傾げた。
「?何度かお茶会でご一緒させていただきましたもの。もちろん覚えていますわ」
「…っ」
ナタリア様の顔がかぁっと赤みを帯びる。
「?」
「わ、私、イザベラじゃない方と皆様から呼ばれることが多くて…」
その言葉に、あぁと納得する。
確か、ナタリア様とイザベラ様は双子だった。
前世の知識を活かして言えば、一卵性双生児。
全く同じ見かけなのと比例して、中身は真逆だと評判の姉妹。
社交上手な姉と人見知りの妹。
それはまるで陽と陰。
必然と陽の方に周囲の注目が行き、陰は更に影を濃くする。
それにしても「イザベラじゃない方」なんて、悪意しか感じない。
ルー様のこともそうだけれど、人を貶めて自分を優位に立たせようとすることってそんなに甘美なのかしら。
たかだか一瞬の仮初めで、決して本当に優位になったわけではないのに。
本当趣味が悪くてほとほと呆れるわ。
ふぅっと息を吐くと、びくりとナタリア様が身を震わせる。
「も、申し訳ありません。
何か気にさわることをしてしまいましたでしょうか…?」
その何かに怯えるような様子に、思わず眉を潜める。
彼女が周囲からどのような扱いをされているのか、垣間見えたような気がした。
「ナタリア様、あなた…」
尋ねようとして、止めた。
こんな初対面に近い人物から、身の回りの心配をされたところで本当のことは言わないだろう。
下手をしたら自尊心を傷付けてしまうかもしれない。
「いいえ、何でもないわ。
そういう失礼な呼び方をする方がいらっしゃることを残念に感じただけで、あなたに対してため息を吐いたわけじゃないのよ。
怖がらせてごめんなさいね」
私の言葉に、ナタリア様は安心したようにホッと息を吐いた。
「ところで、何か用事があって私に声を掛けたのではなくて?」
「あ…」
「?」
僅かに顔を青ざめさせて言葉をなくすナタリア様に眉を潜める。
「た、たまたまお会いできて嬉しかっただけです」
お気になさらず、と慌てたように走り去るナタリア様。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、思うことはただ一つ。
「そんな去られ方したら、気になるに決まってるじゃない…」
ーーー
「…とういことがあって」
かくかく然々、早速ルー様に話す。
「うん、それはとても気になるね」
「そうですよね!
何か悩み事でもあるのかしら?」
「あぁ、アナは純粋にナタリア嬢を心配して気になるんだ」
「…?それ以外に何かありますか?」
私の答えにルー様はふふ、と笑う。
「そうだね。
私は彼女の心配ではなく、君の心配をしているよ。
ナタリア嬢がアナに対して何か良からぬことを企んでなければいいとね」
そう言うルー様に抱き込まれた私は、その時ルー様が鋭く瞳を細めていたことを知るよしもなかった。
そして、その件はどうやらお母様の耳にも入ったらしく、私を王宮の入り口まで送った後、私が先に帰るお母様の馬車を見送っている間、毎回ニマニマした視線を向けてくるのだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
今日もそんなお母様の視線に耐えながら馬車が見えなくなったのを確認し、ホッと安堵の息を吐くのも致し方ない。
早速ルー様のところへ行こうと踵を返した時、横からあの、と躊躇いがちに声を掛けられた。
「あの、ユリアーナ様…」
声の方を振り向けば、何度かお茶会で一緒になったことのある令嬢がいた。
ナタリア・アルシオーネ子爵令嬢。
人見知りなのかいつも控えめに俯いている印象で、今も勇気を出して声を掛けたのだろう。
ドレスを握り締める手が震えている。
「まぁごきげんよう、ナタリア様。
どうされたの?」
「え?私の名前覚えて…?」
私が自分の名前を覚えていたのが、余程衝撃的だったのだろう。
パッと顔を上げて、驚きの表情で見つめてくる。
なぜ、そう驚かれるのか分からず思わず首を傾げた。
「?何度かお茶会でご一緒させていただきましたもの。もちろん覚えていますわ」
「…っ」
ナタリア様の顔がかぁっと赤みを帯びる。
「?」
「わ、私、イザベラじゃない方と皆様から呼ばれることが多くて…」
その言葉に、あぁと納得する。
確か、ナタリア様とイザベラ様は双子だった。
前世の知識を活かして言えば、一卵性双生児。
全く同じ見かけなのと比例して、中身は真逆だと評判の姉妹。
社交上手な姉と人見知りの妹。
それはまるで陽と陰。
必然と陽の方に周囲の注目が行き、陰は更に影を濃くする。
それにしても「イザベラじゃない方」なんて、悪意しか感じない。
ルー様のこともそうだけれど、人を貶めて自分を優位に立たせようとすることってそんなに甘美なのかしら。
たかだか一瞬の仮初めで、決して本当に優位になったわけではないのに。
本当趣味が悪くてほとほと呆れるわ。
ふぅっと息を吐くと、びくりとナタリア様が身を震わせる。
「も、申し訳ありません。
何か気にさわることをしてしまいましたでしょうか…?」
その何かに怯えるような様子に、思わず眉を潜める。
彼女が周囲からどのような扱いをされているのか、垣間見えたような気がした。
「ナタリア様、あなた…」
尋ねようとして、止めた。
こんな初対面に近い人物から、身の回りの心配をされたところで本当のことは言わないだろう。
下手をしたら自尊心を傷付けてしまうかもしれない。
「いいえ、何でもないわ。
そういう失礼な呼び方をする方がいらっしゃることを残念に感じただけで、あなたに対してため息を吐いたわけじゃないのよ。
怖がらせてごめんなさいね」
私の言葉に、ナタリア様は安心したようにホッと息を吐いた。
「ところで、何か用事があって私に声を掛けたのではなくて?」
「あ…」
「?」
僅かに顔を青ざめさせて言葉をなくすナタリア様に眉を潜める。
「た、たまたまお会いできて嬉しかっただけです」
お気になさらず、と慌てたように走り去るナタリア様。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、思うことはただ一つ。
「そんな去られ方したら、気になるに決まってるじゃない…」
ーーー
「…とういことがあって」
かくかく然々、早速ルー様に話す。
「うん、それはとても気になるね」
「そうですよね!
何か悩み事でもあるのかしら?」
「あぁ、アナは純粋にナタリア嬢を心配して気になるんだ」
「…?それ以外に何かありますか?」
私の答えにルー様はふふ、と笑う。
「そうだね。
私は彼女の心配ではなく、君の心配をしているよ。
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そう言うルー様に抱き込まれた私は、その時ルー様が鋭く瞳を細めていたことを知るよしもなかった。
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