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1年生編:夏休み編
第26話 青い夏のはじまり
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夏休み初日の朝、駅前のロータリーには、朝とは思えないほど強い日差しが降り注いでいた。
アスファルトはすでに熱を帯び、空気がゆらゆらと揺れている。
照り返しの眩しさに、通り過ぎる人々もどこかうんざりした表情を浮かべていた。
「今日は朝から暑すぎないか.....」
晴は額に手をかざし、思わず空を見上げる。
雲ひとつない青空がどこまでも広がっていて、太陽は容赦なく照りつけていた。
時間はまだ午前9時。
これから一日が始まるというだけで、すでに体力を削られている気分になる。
「文句言わないの。みんなで海に行こうって決めたの、晴でしょ?」
「そうだけど…… 今日、ここまで暑くなるとは思ってなかったんだよ.....」
「はいはい」
美羽は呆れたように笑うが、その表情はどこか楽しそうだ。
美羽は白いワンピースを涼しげに着こなし、肩から小さなバッグを下げて立っている。陽射しを受けて、布地がやわらかく揺れるのがとても印象的だった。
よく見ると、いつもより少しだけ髪が整えられている。
毛先を軽く巻いているあたり、今日を楽しみにしていたのが伝わってきた。
そこに、紗耶が少し遅れてやってきた。
「おはよ!二人とも」
キャップを深めに被り、サングラスまでかけているにもかかわらず、金髪のボブは隠しきれず、自然と周囲の視線を集めている。
「おはよう、紗耶ちゃん」
「おはよ~」
美羽と晴が明るく手を振ると、紗耶は一瞬だけ戸惑ったようにしてから、少し照れた笑みを浮かべた。
「今日、三人で遊びに行くのが楽しみだったんだ。昨日の夜、準備とかしてたら寝るのが遅くなって……今日、ちょっと寝坊しちゃった(笑)」
「え、そうなの?」
晴が思わず聞き返す。
「うん。夏休みって、だいたい仕事の予定だから.....」
さらっと言われたその一言に、晴は言葉を失った。
夏休みといえば、部活や遊び、だらだら過ごす時間。
それが当たり前だと思っていた自分たちとは、紗耶の立場はまるで違う。
(そっか……)
こうして三人で集まっていること自体が、紗耶にとっては特別なのだと、そこで初めて実感した。
「じゃあ今日は、思いっきり楽しもうぜ!!」
少し照れ隠しのように晴がそう言うと、紗耶は目を丸くしてから、ふっと柔らかく微笑った。
「うん、楽しもう!」
三人は電車に乗り、海沿いの町へ向かう。車内はすでに夏の空気に満ちていて、水着姿の若者や、浮き輪を抱えた家族連れで賑わっていた。
次第に、窓の外を流れる景色は、次第に街並みから開けた風景へと変わっていく。
「うわ、きれいな海が見えるよ!」
美羽が窓に顔を近づけ、嬉しそうに声を上げる。
「ほんとだ……夏って感じだな」
晴がそう呟くと、紗耶も少し身を乗り出し、同じ景色を見つめた。
遠くに広がる青い海が、太陽の光を受けてきらきらと輝いている。
「ほんと、きれい」
その声は小さく、けれど飾り気のない紗耶の本音だった。
電車が終点に到着し、駅から十分ほど歩いて、海に着いた。
潮の香りがはっきりと感じられるようになり、視界が開けた瞬間、白い砂浜とどこまでも続く青い海が目の前に広がった。
「着いたー!」
美羽が真っ先に砂浜へ駆け出す。
「ちょ、待てって!」
晴は慌てて追いかけながら、後ろを振り返る。
「黒瀬、行くぞー」
「うん、今行く!」
紗耶も笑いながら小走りになる。その表情は、ステージの上で見せる完璧な笑顔とは違い、年相応の高校生そのものだった。
荷物を置き、簡単に準備を済ませると、三人はそのまま海へ向かう。
「冷たっ!」
「当たり前でしょ!」
「でも気持ちいい……!」
波が足元を洗うたびに、声が弾む。晴が水をすくってかければ、美羽がすぐに仕返しをし、紗耶がその間に挟まれて慌てる。
「ちょ、二人とも待って!」
「ごめんごめん!(笑)」
「絶対わざとだろ!(笑)」
そんな他愛ないやり取りすら、今日はすべてが楽しかった。
しばらく遊んだあと、少し疲れて砂浜へ戻り、三人で並んで腰を下ろす。
濡れた肌に潮風が触れ、じんわりと心地よさが広がっていく。
「……こういうの、なんかいいね」
紗耶がぽつりと呟いた。
「こういうの?」
美羽が不思議そうに聞き返す。
「うん。何も考えずに、ただ遊ぶだけの時間」
美羽は一瞬だけ驚いたように紗耶を見てから、ゆっくりと微笑んだ。
「そっか……。じゃあ、今日は思いっきり楽しもうね!まだ時間はあるから!!」
「うん!今日は思いっきり楽しむ!」
紗耶はそう答えて、晴と美羽を交互に見る。
二人の間に流れる、自然で温かな空気。それを感じながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを覚えた。
胸の奥に広がるその温もりは、強い日差しのせいだけではない気がした。潮風に混じって聞こえる波の音も、遠くではしゃぐ人たちの声も、すべてが不思議と心地いい。
特別なことをしているわけじゃない。ただ三人で集まって、同じ場所で、同じ時間を過ごしているだけ。それなのに、紗耶にとってはそのすべてが新鮮で、かけがえのないものに思えた。
(……こんな夏休み、初めてだな)
今日は仕事や予定に追われることもなく、時計を気にする必要もない。
今はただ、目の前の景色と、この空気を楽しめばいい。そんな当たり前のことが、胸にすっと染み込んでくる。
晴と美羽が何気ない会話を交わす声を聞きながら、紗耶はもう一度、海の方へ視線を向けた。太陽の光を受けてきらめく水面が、まるでこの時間そのものを映しているみたいだった。
(……この夏、楽しくなりそう)
その感情が、これから先どんな気持ちへ変わっていくのか。
紗耶自身、まだ知る由もない。
けれど少なくとも――
この夏休みが、特別な思い出になることだけは、なんとなく分かる気がしていた。
三人の夏休みは、まだ始まったばかりだった。
アスファルトはすでに熱を帯び、空気がゆらゆらと揺れている。
照り返しの眩しさに、通り過ぎる人々もどこかうんざりした表情を浮かべていた。
「今日は朝から暑すぎないか.....」
晴は額に手をかざし、思わず空を見上げる。
雲ひとつない青空がどこまでも広がっていて、太陽は容赦なく照りつけていた。
時間はまだ午前9時。
これから一日が始まるというだけで、すでに体力を削られている気分になる。
「文句言わないの。みんなで海に行こうって決めたの、晴でしょ?」
「そうだけど…… 今日、ここまで暑くなるとは思ってなかったんだよ.....」
「はいはい」
美羽は呆れたように笑うが、その表情はどこか楽しそうだ。
美羽は白いワンピースを涼しげに着こなし、肩から小さなバッグを下げて立っている。陽射しを受けて、布地がやわらかく揺れるのがとても印象的だった。
よく見ると、いつもより少しだけ髪が整えられている。
毛先を軽く巻いているあたり、今日を楽しみにしていたのが伝わってきた。
そこに、紗耶が少し遅れてやってきた。
「おはよ!二人とも」
キャップを深めに被り、サングラスまでかけているにもかかわらず、金髪のボブは隠しきれず、自然と周囲の視線を集めている。
「おはよう、紗耶ちゃん」
「おはよ~」
美羽と晴が明るく手を振ると、紗耶は一瞬だけ戸惑ったようにしてから、少し照れた笑みを浮かべた。
「今日、三人で遊びに行くのが楽しみだったんだ。昨日の夜、準備とかしてたら寝るのが遅くなって……今日、ちょっと寝坊しちゃった(笑)」
「え、そうなの?」
晴が思わず聞き返す。
「うん。夏休みって、だいたい仕事の予定だから.....」
さらっと言われたその一言に、晴は言葉を失った。
夏休みといえば、部活や遊び、だらだら過ごす時間。
それが当たり前だと思っていた自分たちとは、紗耶の立場はまるで違う。
(そっか……)
こうして三人で集まっていること自体が、紗耶にとっては特別なのだと、そこで初めて実感した。
「じゃあ今日は、思いっきり楽しもうぜ!!」
少し照れ隠しのように晴がそう言うと、紗耶は目を丸くしてから、ふっと柔らかく微笑った。
「うん、楽しもう!」
三人は電車に乗り、海沿いの町へ向かう。車内はすでに夏の空気に満ちていて、水着姿の若者や、浮き輪を抱えた家族連れで賑わっていた。
次第に、窓の外を流れる景色は、次第に街並みから開けた風景へと変わっていく。
「うわ、きれいな海が見えるよ!」
美羽が窓に顔を近づけ、嬉しそうに声を上げる。
「ほんとだ……夏って感じだな」
晴がそう呟くと、紗耶も少し身を乗り出し、同じ景色を見つめた。
遠くに広がる青い海が、太陽の光を受けてきらきらと輝いている。
「ほんと、きれい」
その声は小さく、けれど飾り気のない紗耶の本音だった。
電車が終点に到着し、駅から十分ほど歩いて、海に着いた。
潮の香りがはっきりと感じられるようになり、視界が開けた瞬間、白い砂浜とどこまでも続く青い海が目の前に広がった。
「着いたー!」
美羽が真っ先に砂浜へ駆け出す。
「ちょ、待てって!」
晴は慌てて追いかけながら、後ろを振り返る。
「黒瀬、行くぞー」
「うん、今行く!」
紗耶も笑いながら小走りになる。その表情は、ステージの上で見せる完璧な笑顔とは違い、年相応の高校生そのものだった。
荷物を置き、簡単に準備を済ませると、三人はそのまま海へ向かう。
「冷たっ!」
「当たり前でしょ!」
「でも気持ちいい……!」
波が足元を洗うたびに、声が弾む。晴が水をすくってかければ、美羽がすぐに仕返しをし、紗耶がその間に挟まれて慌てる。
「ちょ、二人とも待って!」
「ごめんごめん!(笑)」
「絶対わざとだろ!(笑)」
そんな他愛ないやり取りすら、今日はすべてが楽しかった。
しばらく遊んだあと、少し疲れて砂浜へ戻り、三人で並んで腰を下ろす。
濡れた肌に潮風が触れ、じんわりと心地よさが広がっていく。
「……こういうの、なんかいいね」
紗耶がぽつりと呟いた。
「こういうの?」
美羽が不思議そうに聞き返す。
「うん。何も考えずに、ただ遊ぶだけの時間」
美羽は一瞬だけ驚いたように紗耶を見てから、ゆっくりと微笑んだ。
「そっか……。じゃあ、今日は思いっきり楽しもうね!まだ時間はあるから!!」
「うん!今日は思いっきり楽しむ!」
紗耶はそう答えて、晴と美羽を交互に見る。
二人の間に流れる、自然で温かな空気。それを感じながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを覚えた。
胸の奥に広がるその温もりは、強い日差しのせいだけではない気がした。潮風に混じって聞こえる波の音も、遠くではしゃぐ人たちの声も、すべてが不思議と心地いい。
特別なことをしているわけじゃない。ただ三人で集まって、同じ場所で、同じ時間を過ごしているだけ。それなのに、紗耶にとってはそのすべてが新鮮で、かけがえのないものに思えた。
(……こんな夏休み、初めてだな)
今日は仕事や予定に追われることもなく、時計を気にする必要もない。
今はただ、目の前の景色と、この空気を楽しめばいい。そんな当たり前のことが、胸にすっと染み込んでくる。
晴と美羽が何気ない会話を交わす声を聞きながら、紗耶はもう一度、海の方へ視線を向けた。太陽の光を受けてきらめく水面が、まるでこの時間そのものを映しているみたいだった。
(……この夏、楽しくなりそう)
その感情が、これから先どんな気持ちへ変わっていくのか。
紗耶自身、まだ知る由もない。
けれど少なくとも――
この夏休みが、特別な思い出になることだけは、なんとなく分かる気がしていた。
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