隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

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1年生:2学期編

第37話 林間学校の班決め

午後のHRは、昼休みの名残をそのまま引きずったような、少し気の抜けた空気で始まった。
昼食を終えた直後特有の、身体の奥に残る重だるさと、夏の熱気が混ざり合い、教室全体がぼんやりとした膜に包まれている。エアコンはついているものの、完全には効ききっておらず、肌の表面にうっすらと汗がにじんでいた。

窓から差し込む強い日差しが、机の上を白く照らしている。ノートの端が反射して、目を細めなければならないほどだ。開け放たれた窓際では、外から吹き込む風に揺られてカーテンがゆっくりと波打ち、そのたびに光と影が床を行き来していた。その規則性のない動きが、時間の流れを余計に曖昧にしている気がした。

誰かの笑い声。椅子を引く音。
昼休みに食べた弁当の話の続きをする、まとまりのない会話。

完全には切り替わらないままの空気の中で、

「はい、静かに!」

担任の少し低い声が、教室の奥まで通る。
その一言で、ざわついていた空気は、まるで波が引くように少しずつ落ち着いていった。話し声が途切れ、視線が前に集まり、教室の輪郭がはっきりしていく。

黒板の前に立った担任は、手に持っていたプリントを一枚、ひらりと掲げた。
その紙がわずかに風を切る音がして、美羽は無意識に背筋を伸ばす。

「今日のHRは二学期最初の行事、林間学校について説明します」

その言葉が出た瞬間、教室の空気がはっきりと変わった。
眠たそうに机に突っ伏していた生徒が顔を上げ、後ろの席では小さな声がいくつも重なる。期待を隠しきれないように、前のめりになる生徒の姿もあった。

行事、という言葉には、いつも少しだけ特別な力がある。
退屈な日常に区切りを入れて、何かが起こるかもしれない、という予感を連れてくる。

「日程は一泊二日。初日はハイキングとキャンプファイヤー、二日目は農業体験と牧場体験を予定しています」

“キャンプファイヤー”という言葉が出た途端、数人が楽しそうに笑った。
どこからか「いいじゃん」という小さな声も聞こえてきて、その一言が、教室の空気を少しだけ明るくした。

美羽も思わず、顔を上げる。

(一泊二日……)

たった二日。
旅行と呼ぶには短く、日常から完全に切り離されるほどでもない。
けれど、クラスメイトと同じ場所で寝て、同じ時間を過ごし、夜まで一緒にいるということは、想像以上に距離を縮めてしまう。

良くも、悪くも。

その言葉が、胸の奥で何度も反響する。
仲が深まることもある。
逆に、今まで見えなかった部分が、はっきり見えてしまうこともある。

担任はそんな生徒たちの反応には構わず、淡々と説明を続ける。

「班は三人一組です。これから決めます」

その瞬間、教室が一斉にざわめいた。
まるで合図が出たかのように、「誰と組む?」「もう決めてる?」という声が四方から飛び交う。椅子が床を擦る音が重なり、教室が一気に動き出す。

美羽は、ほとんど反射的に晴の方を見る。
すると、同じタイミングでこちらを見ていた晴と目が合った。

ほんの一瞬だけ、間があって。
二人で、小さく笑い合う。

それだけのことなのに、胸の奥がすっと軽くなる。
言葉にしなくても、ここに戻れる場所がある。そんな錯覚を覚えてしまうほどだった。

「じゃあ、今からみんなで決めてくれ。」

担任が指示すると同時に、教室のあちこちで椅子が動く音が響いた。
立ち上がる生徒、友達の名前を呼ぶ声、楽しそうな笑い声。
それぞれが、それぞれの“安心できる場所”を求めて、自然と集まっていく。

その流れの中で――
少しだけ遅れて、紗耶がこちらへ歩いてくるのが見えた。

「ねえ、美羽ちゃん、晴くん」

呼びかける声は落ち着いている。けれど、その奥に、わずかな緊張が混じっているのを、美羽は感じ取ってしまった。そのせいで、心臓が小さく跳ねる。

「よかったら……一緒の班、どう?」

その一言で、周囲の音がすっと遠のいたような気がした。
教室のざわめきが背景に押しやられ、この三人だけが切り取られたような感覚。

美羽はすぐに言葉が出てこず、隣の晴を見る。
晴は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたあと、少し考えるような間を挟んでから、柔らかく頷いた。

「いいよ」

迷いのない、即答だった。

その言葉を聞いた瞬間、美羽の胸が小さく揺れる。
理由はわからない。
ただ、何かがそっと触れて、静かな波紋だけを残していったような感覚だった。

けれど、断る理由なんてどこにもない。
クラスメイトとして、友達として、自然な流れ。
そう自分に言い聞かせるように、

「……うん、いいよ」

と答える。

紗耶は目に見えてほっとしたように、肩の力を抜き、柔らかく微笑んだ。

「ありがとう!」

その笑顔を見て、美羽は少しだけ目を伏せる。
この選択が、何かを変えてしまうかもしれない、という考えを、心の奥に押し込めながら。

三人で担任のところへ行き、班を報告する。
黒板にチョークが走る乾いた音がして、名前が一つずつ書き加えられていく。

晴・美羽・紗耶

並んだ三つの名前を見た瞬間、美羽の胸に、言葉にできない感情が静かに広がった。

(同じ班……か)

きっと、楽しい。
問題なんて、何も起きないはずだ。

それでも――
一泊二日という時間。
山の中で過ごす夜。
闇の中で揺れる、キャンプファイヤーの炎。

想像すればするほど、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。

晴は特に気にした様子もなく、黒板を見ながら
「楽しそうだな」と小さく呟いた。

その横で、紗耶は晴の横顔を一瞬、じっと見つめる。
何かを確かめるように、けれどすぐに視線を逸らした。

美羽は、その二人の間に流れる短い沈黙を、すぐ隣で感じていた。

同じ班になっただけ。
ただ、それだけのこと。

――それなのに。

この三人で過ごす林間学校が、
これからの関係を大きく揺らすことになる。

そんな予感だけが、はっきりとした形を持たないまま、
静かに、そして確かに、美羽の胸に残っていた。
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