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不死の姫と魔女戦争
92 甘美な味
しおりを挟む「おう! 姫様!」
注目されながら歩いていると、元気が有り余ると言った大声で、とある露店の店主に呼び止められる。
「今回もどっかの国にお出かけかい?」
「えぇ、そんなところよ」
彼は多くの露店が立ち並ぶカフマンの中でも古株で、何度かこの町を訪れる中で知り合った。もはや立派な顔なじみである。リーザが側で姫様、姫様と呼ぶのでその呼び名が定着してしまった。
「そうかい、そうかい。疲れたろう? これ食っていきなよ!」
そう言って紙に包まれたパンを差し出される。その上には琥珀色のべったりとした液体がたっぷりと乗っていた。彼は商いへの飽くなき挑戦をしているのか、訪れる度に売り出す品が変わる。
品物は確かなので心配はしていないが、今回の物は見た目からは得たいが知れない。
「大丈夫! 絶対うめぇからよ! ほれ、リーザちゃんとそこの兄さんも」
小首を傾げ怪しんでいると、リーザとラルフに同じ物を差し出しながら店主がすすめてくる。私は恐る恐る口にしてみた。
すると口の中で甘い香りが爆発し、快感にも似た甘味に支配される。
「甘い、おいしい……」
心で感じた事がそのまま言葉となって漏れ出た。ベルクで砂糖は貴重で、おいそれとは口にできる代物ではないのだが、これはその砂糖を超える甘美なものだ。
「へへ、もっと北の方にしか生えない木の樹液なんだよ。うめえだろう?」
「ええ、とてもおいしいわ」
「じゃぁこれを一本やるよ!」
店主は琥珀色の液体が詰めされた小瓶を寄越した。
「そんな悪いわ。お代はいくらかしら?」
「いいって、いいって! 姫様のおかげで俺たちはこうやって平和に商売が出来てるんだからよ」
そして店主は顏を寄せ、小声でつぶやく。
「それに高価で得体も知れねーってんで売れ行きが悪くてな……宣伝もかねて食ってもらったんだ。それのお詫びってことで受け取ってくれ」
瓶を受け取りながら後ろを向くとすでに長蛇の列を成していた。私たちは店主に礼を言い、手を振って後にする。店主は並ぶ客を次々に捌きつつ、こちらに手を振り返す。
「姫様、良い頂きものしましたね」
「そうね、次に食べるのが楽しみだわ。リーザ、ラルフ見て! あれおいしそうよ!」
夜に立ち並ぶ露店に目移りしながらも今夜の宿を目指す。
今晩寝泊りするのは、カフマンを取り仕切る領主の屋敷である。他国への中継としてカフマンを利用する際にいつもお世話になっている。
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