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第一章 紫電の射手
act.19 撃沈するモニカ
しおりを挟む「イグナール! 大丈夫?」
駆け寄ってきたモニカに心配され、緩慢な動きで起き上がるイグナール。モニカが手を差し伸べ、それにしっかりと捕まって立ち上がる。
「あぁ、俺は大丈夫だ。モニカは?」
「私も怪我はないよ。それにしてもうまくいって良かった……」
「危険なら空に放つ、モニカの作戦が良かったんだよ」
モニカのイグナールに相談したいことがあると言うのはこのことであった。制御がままならないイグニールの力を比較的安全かつ、周りに被害を出さないように使う彼女の作戦であった。
「しかし、まさかあんな魔物が黒幕だったなんてな。これだとあの依頼料じゃ割に合わねーよ」
「そこは問題ないと思うよ? 私たちが貰ったライセンスって、倒した魔物の魔力を吸い込むようになってるの。吸収するのは微々たる量だけど討伐の証としては十分よ」
懐からライセンスを取り出しまじまじと見つめるイグナール。
「へぇ、そうなのか」
「逆に何でそんなに何も知らないのよ……」
「うるせーな! 俺はいろい――」
「みつ、みつ、みつけた」
人に似て非なる声に2人は反応し、その方向に目線を向ける。そこには黒布で出来た丈の長いワンピース、その上には上品なフリルをあしらった白いエプロンを付けた給仕係……白のカチューシャが良く映える、黒髪のメイドが立っていた。
貴族出の2人には決して珍しいものではないにしろ、魔物が闊歩する森の中で出くわすには、十分に警戒値する存在だ。
「おいヒューマン・スライムに、つがいはいないって言わなかったか?」
「いないわよ。それに明らかに違うじゃない。まぁ怪しいのは変わりないけど。ただ……私達に敵意はなさそうに見えるわ」
次の瞬間、怪しいメイドは走り出す体勢に入ったと同時にイグニールの目の前まで肉薄した。
「は、はや――」
長い髪が空中にふわりと舞い踊る。メイドは両手でイグニールの頭をガッチリと挟みと自分の顔に寄せた。
「ンン‼」
そのまま唇と唇を重ね合わせる。
「へあ⁉」
あまりの衝撃に摩訶不思議な声を上げるモニカ。一方イグニールの方はメイドから逃れようと必死になるが両手で掴まれた顏はビクともしない。そんな彼にさらなる衝撃が重なる。
ナニかが彼の唇を割って入って来たのだ。湿り、ぬめるそれは勝手にイグニールの口内を物色し始める。
「んんんんん!」
これ以上の侵入を許すものかと歯を食いしばるイグナール。しかしそれは歯の表層を、そして唇の裏をじっくり探るようになぞる。彼はそれに抗うことが出来ずただ蹂躙される。最早唯一の助け舟であるモニカは、石のように固まり撃沈している。
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