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第二章 紫電の剣
act.34 狡猾なる守護者
しおりを挟む扉から押し寄せる敵。施設内の異物を排除するために駆けてきた守護者(ガーディアン)共。
その姿は銀色の狼を思わせた。しかし、生き物の鼓動を全く感じない。マキナ同様、人の手によって造られた物であるのだろう。見た目の違いでここまで受ける印象が違うものなのかと思うイグナール。
マキナが事前に言った通り、8頭の銀狼が扉を背に並び立つ。本物の狼のように姿勢を低くした威嚇姿勢。唸り声を上げて今に飛び掛からんとする様子を醸し出す。
これは奴らの最終警告なのだろう。
先頭の1匹が更に身を屈め、吠えると共に地を蹴った。狙いは一番近くにいるマキナだ。他の銀狼達は動かない。先行する1匹で様子を見る算段なのだろう。
「アクアボール!」
イグナールのとなりに控えていたモニカが叫ぶ。彼女を包むように漂う水弾の1つが空中の銀狼へ吸い込まれるように飛翔する。金属を鈍器で殴りつけたような音が広い実験室の中に木霊し、水弾のしぶきがばら撒かれ消えた。先陣を切った1体は大きく後方へ吹き飛ばされる。
「やったか⁉」
観察していただけのイグナールだが、会心と言える打撃音に確かな手ごたえを感じていた。しかし、扉近くまで飛ばされた切込み隊の銀狼は地面に打ち付けられるが、すぐさま立ち上がってみせる。
銀色に輝く体には傷らしい傷は見当たらない。あの水弾は手加減なしの一撃だったはずだ。
イグナールはその水弾を見舞ったモニカの表情をうかがう。敵である銀狼を険しく睨み付ける彼女の表情に動揺は見られない。しかし、瞳の奥の光が少し揺らいでいるように見えた。
銀狼達が前に歩み出て隊列を整える。前衛に3体、後衛に4体。最初に飛び出した銀狼は後ろに控えて動く様子はない。
そして、誰が合図を送るわけでもなく、一斉に駆けだした。その動きが全く生き物であることを感じさせない。一糸乱れぬ統率された完璧な初動。武器となるのは牙と爪に見立てた鋭利な刃。そしてモニカの水弾を受けても損傷しない丈夫な体。まさに全身凶器と言えるだろう。
駆けだした先頭の3体が途中小さく分かれる。イグナール、モニカ、マキナそれぞれに方向を変えたのだ。後衛の4匹はゆっくりと歩きながら近づいてくる。
奴らは探っているのだ。どれが一番狩りやすい獲物かどうかを……
誰か一人でも最初の1体で隙を見せれば後の4体が襲い掛かる。確実に数を減らす方法を銀狼は知っている。
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