限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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落とし物

3.

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「小さな女の子が折り紙ねぇ…」呟き、狐に聞く。

「あのさ…それっていつの話?」

「最近だぞ。確か昨日かそこらだ」

「もっと具体的に」

そうだなあ…と、狐がやたら人間臭く首を捻り、あっと声をあげて、短い脚を空に向けて伸ばした。

「あのでっかい塔が建つ前かなァ…」

振り向いてそれを確認し、やおら私は座り込んでいた地面から立ち上がった。

「帰るわ」

「えぇっ」

狐が跳びあがって驚いているが、構ってはいられない。
狐が指すタワー(なんか蜃気楼みたいに揺らいでるけど)は誰もが知っている町のシンボルマークだ。設立されたのが昨日やそこら辺なんてありえない。
あの和菓子屋のひとで、すみれの花が好きという情報だけならば、思い当たる人物はいた。和菓子屋の女性が、自身の母親がすみれの花が好きだったと言っていた。もし、そのひとが狐の言っている女の子ならば…。
でもそこで思い至る可能性に、私は狐の頼みを安請け合い出来なかった。
狐にとっちゃ最近に思えるだろうが、実際は相当昔なのだ。
残念ながら、人間はそんなに長い間、ひとところに留まれる生き物ではないのだ。…色んな意味で。

「だめだ! て、手伝ってくれないと…」

スタタ、と走ってきた狐が私の脚にすがり付いてくる。かなり必死なようで振り払えない。

「手伝わないと?」

「か、還さないからな!」

「よーし、尻尾の毛で筆何本出来るかなあ…」

「あー! あー! 動物虐待!」

「とにかく、もう私は帰るから!」

私の脚にしがみついた狐をそのままにしてずんずん突き進む。

「ふええ…」

やがて小さな子どものような泣き声が足元であがり始めた。
知らない。知らないぞ。私は還るんだから、と強い意志を持って歩みをやめない。

「本当はわかってるんだ…、だって匂いがしなくなったもん。あの子はもう…」

狐はついにはきゅうきゅう鼻を鳴らし始めてしまった。
私は足を止め、天を仰いだ。

「あー、もう!」

しゃがみこんで、狐の小さな頭を撫でた。

「泣くなって…。元気出しなよ。ね」

尻尾に突き刺さっていたすみれの花を抜き取る。
拙い折り方だ。舗の花も全て拙いものだった。
でも、何度も何度も折り直したのだろうとわかる折り目がいくつもあった。

ふう、と息をつき、折られた折り紙を広げて地面に置く。私は「ほら」と狐に向かって手を出した。きょとんとする狐に向けて言う。

「自分で折るの。私も手伝うからさ」

「う、うん…」

恐る恐る差し出された脚を持ち、一緒に折り紙を折っていく。むくむくの毛に覆われた脚では、人間のように細かい所を折ることは難しいだろうが、爪をうまく使えば綺麗に端を折ることが出来た。

みるみる内に仕上がっていく折り紙に、狐が歓声をあげる。

「す、すごい! すごい!」

「ボランティアやってたこともあるから」

「ぼらん…?」

「しまった横文字はわかんないか」

独りごち、ほら、と差し出したものは、立派なすみれの花だった。
受け取った狐は、わああ、と再び歓声をあげ、尻尾をぶんぶん振り回した。

「ありがとう!」
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