限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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私の職場は地図に載ってない

4.

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「ねえねえ、おねえさん」

引かれる袖に、いきなり間近から幼げな声がかかってそりゃあ仰天する。

「は!?」

「ねえ、何してるの?」

「バっ…、あぶ、はな…!」

ばか、危ない、離れろ、が見事に頭だけの発声となり意味不明なことを叫ぶ私を不思議そうに見ているのは小さな子どもだった。

まずい、まずいぞ。私だけだったら何とかなる(たぶん)と思うけど、二人連れとなるとまずいかもしれない。かと言ってこんな小さい子置いていけないし、抱えて走るしかないか!?

「あれ…?」

そこで私は掴まれていた手首が解放されていることに気付いた。見ればさっきの女のひとの姿は忽然といなくなっていた。女の人が異様に行きたがっていた鳥居がぽつんと佇んでいるのみだ。

「え…うそ、まじか」

幻? と思うも、手首にはしっかり掴まれた指の跡が残っていて遅ればせながらぞっとする。これは痣になる。そんでもってしばらく消えないだろうな。

「ねえーおねえさんったら」

子どもが私の服の裾をくいと引くので、さっきまで女のひとが立っていた場所をいつまでも呆然と見ていられなくなる。

「あーはいはい、ごめんね」

まあ何はともあれ危機が去ってよかったよかった。

催促されるがまま、振り返って子どもの目線に合わせてしゃがみこむ。そこで初めて子どもが物凄い可愛らしい容姿をしていることに気付いた。え、まじでめっちゃ可愛いな。天使かな? このくらいの年頃だと女の子か男の子かわからないのだが、この子に関してはまじでどっちかわからない。辛うじて、着ているもこもこの服が男の子のものだと判断させてくれた。

「おねえさんは巫女様?」

「いや、巫女さんではないんだけど…まあ神社のアルバイトでね。今は休憩中なんだ」

なんでいきなり巫女? と思ったが、すぐ納得する。今はどでかいジャージを着込んでいるから作業着の作務衣が見えないのだ。加えて、こんな人気のない神社の裏手でたそがれているのなんぞ、とても参拝客には見えなかったろう。だから、神社の人間すなわち巫女かと思われたのか。なるほど。…とんだ草臥れた巫女だな。

確かに巫女さんのアルバイトはある。が、花形中の花形だから、倍率が高くて即日完売ものなのだ。社会人になるための競争に絶賛参戦中の私が他の競争に参加するはずもない。私はしがないただの裏方だ。

男の子は私の返答で満足したらしい。天使もかくやのごとき笑顔を浮かべて頷いた。

「そっかあ、頑張ってね!」

「ああ、うん。ありがと」

あまりの神々しさに目が潰れそうになりながら首肯すると、途端に男の子が白い眉間をきゅっと寄せて一丁前に難しい表情をしてみせた。

「でも気を付けてね? 日が落ちたら夜の神社でもあぶないんだから」

こんな小さな子が見ず知らずの女を心配してくれているらしい。
私は小さく笑みを溢しながら、男の子の頭をぽんぽんと軽く叩いて撫でた。

「ありがとう。…ほら、鼻が真っ赤だよ。これからもっと寒くなるんだから君も気を付けて早く帰んなね」

あ、やべ、今の事案になるかな。
私が内心ひやひやしていると、

「…うん」

やや顔を俯かせて男の子がこくりと頷いた。

「お父さんやお母さんはどこ? そこまで一緒に行こうか?」

私の問いには答えず、男の子がふるふると首を横に振る。

「探し物をしていたの」

「え、探し物? こんな夜中に? なんか落としたの?」

「ううん、もう見付かったから」

僕、帰るね。と言い残し、男の子がくるりと背中を向ける。直ぐに「あっ、そうだ」と振り返った男の子が私の後ろを指差す。私を見てにっこりと笑った。

「そっちに行っちゃだめだよ」



たたた、と軽い足音を立てて走っていった小さな背中を見送り、私は半ば呆然と呟いた。

「めちゃくちゃ可愛い子だったな…」

いや、ほんとに。
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