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くもいの館 中編
4.
しおりを挟む「…………」
----蜘蛛がいた。
人間、驚きすぎると反応が出来ない。
そりゃあ普通サイズならここまで驚かない。私の目の前にいたのは、全長一メートルはあろうかというほどの巨大な蜘蛛だった。それが、八本の脚をわさわさと動かしている光景を目の当たりにしたのだから、驚いて固まってしまうというものだ。
「おん?」
私が石像になっている間に気配に気付いたらしい蜘蛛が大きな身体を揺らして振り向いた。
動かれると無意識に「ひぇ」と悲鳴が飛び出る。
おい勝手に動かないでくれ。今さらこの世ならざるものに阿鼻叫喚することはないが、それとはまた別の意味でこの大きさはビビる。頼むからいきなり飛び掛からないでくれよ。
「なんだあ、嬢ちゃん。迷子かい?」
「お…?」
しかしなんとこの蜘蛛、人間の言葉が通じる系だった。一体何処から声が出ているんだ…。
石像から脱すると同時に、人間の私こそ、原始人のごとく喃語しか発していないことに気付く。
「嬢ちゃん、今日来たお客人だろ? なんだ、お館様とはぐれちまったか?」
厨房の調理台の間を狭そうにしながら巨体を揺らしてこちらへやって来る。いやまじデカイな… ! 近付いて来たんだけど逃げて良い!? と、思わず後退りしそうになる正直な脚を必死に宥める。
お館様とはおそらくくもいさんのことだと気付き、話を合わせることにした。
「そ、そうなんです…」
「そりゃあ大変だ。今頃お館様も探していらっしゃるだろうよ」
ぜひ探さないでほしい。…いや待て待て話を合わせるんだ。
「私も早く見付けて貰おうとしてるんですけど、どこも真っ暗でろくに動けなくて…、まずは灯りになりそうなものを探しているんです」
「ああ、なるほどねぇ」
納得した様子の蜘蛛が大きな腹をこちらに向けて、厨房の奥へ取って返していく。
どうやら第一関門は突破したらしい。話のわかる粋なおっちゃん(たぶん)で良かった。
「なんでこんなに真っ暗なんでしょう?」
「この屋敷はいつもそうさ」
「え、いつも…?」
「そうとも。ずーっとこの屋敷は暗いんだ。…つっても、昔はそうでもなかったみたいだがな」
確かここら辺に、と呟きながら、節張った脚をわさわさと動かしている。
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