限界社畜さんは怪異となかよし

あさの

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くもいの館 後編

8.

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「初めから彼女の側に近付くのが目的だったんですね」

「まぁ…すんなり帰すつもりなんてないんだろうなぁっていうのは流石に私もわかってましたんで。彼女の探し物の手掛かりを見付けるのはもうあとは本人に近付くしかなかったですし、呼び寄せられたのはむしろ都合が良かったんですよ」

「一か八かでしたでしょうに」

「結果的には見付けられたんですから全て良しですって」

「屋敷全体が闇に包まれていたのも、おそらくあの灯籠を隠すためだったんでしょう」

「家中を暗くして、それで手元にずっと持ち続けていたんですからよっぽど大事なものだったんでしょうねぇ。なら忘れんなって話なんですけど」

「…助けるつもりが逆に助けられてしまいましたね」

「お互い様ですよ」

会社への帰り道、ぽつぽつと話しながら歩く。

「×××さんは、わたしがなにものなのか知りたいですか?」

ひつじさんがそうぽつりと言ったのは、話が自然に途切れ、あー大変な目に遭った。やっと帰れるよー…。とか、私がつらつらそんな事を考えていたときだ。

ちらりとひつじさんを肩越しに一瞥して私は再び前を向いた。

「いや、いいです」

あんまり私があっさり言うものだからか、ひつじさんは「え」とか「へ」みたいな気の抜けた声をあげた。ぽかんとした様から、どうやら私の反応が予想していたものとは違ったらしいとわかる。なんだか今日はひつじさんの新たな一面ばかり見ているな。

立ち止まったひつじさんをもう一度振り返り、私はそのまま歩き出す。

「私にとっては、今目の前にいるひつじさんがひつじさんなので。何者とか過去とか、他は知らなくていいです」

言い切ってから、これだけ聞いたらすごいキザなセリフだと自覚してぶっきらぼうに付け足す。

「あと、なんか面倒事に巻き込まれそうなんで遠慮しときます」

立ち止まっていたひつじさんの足音が私の足音に被さったのは直ぐだった。

「×××さんのそういう所、好きですよ」

「あーはいはい」

それはどうも。棒読みで呟いて、私はまったく取り合わなかったが、何故かひつじさんはそれは嬉しそうに笑っていた。
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