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くもいの館 後編
10.
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ああ、月曜日がまた来たよ…。
朝日に消滅しそうになりながら、呼びつけられた社長室の扉を開ける。
途端に喜色に溢れた声がした。
「あらぁ!」
奥のソファに腰掛けていた人影が豊かな髪を揺らして振り返る。
「ごきげんよう!」
愛らしい顔を認めた瞬間、
「ギャアア!! でたー!!!」
眠気も吹き飛び叫び散らした。
「大丈夫ですか!」
扉の向こうからひつじさんがやって来た。このひとはまた朝っぱらから完璧な出で立ちだ。だが、見惚れる余裕もなく飛び付く。
「く、くもいさんが…! え、なんで…ここに!?」
混乱する私の後ろで、
「くもいってわたくしのこと? まぁ、とってもいいわ。気に入ったわ!」
と、はしゃいでいる。可愛らしいんだけど、今となっては怖いと思う方が強い。
「社長のお客様ですよ」
「来ていいと言った覚えはないがな」
ひつじさんに続いて、くもいさんの対面に座っている上司が不機嫌そうに言う。
「もう、意地悪言わないで。今日はね、改めて先日のお礼に来たの。わたくしの宝物を見付けてくれてありがとう。お家も明るくなったし、あなたにはとっても感謝しているわ。またご依頼させていただくわね」
「は、はひ…」
跳ねるようなご機嫌な足取りで私に近付き、両手をぎゅっと握られる。
タジタジになっている私ににこにこの眩しい笑顔でくもいさんが言う。
「わたくし、あなたのこと気に入ったわ。そうだわ! 今度わたくしのお家にいらっしゃいよ。此処は男ばかりで息が詰まるでしょう? ね、いいでしょう」
「失礼します」
す、と割り込んできたひつじさんが、私を背に隠す。
「近づきすぎです」
「いいじゃない。女同士よ」
「女…? あなたが?」
今世紀最大の謎を問い掛けられたかのように訝しげにひつじさんが呟く。まぁ、とくもいさんが頬を膨らませる。
「あなた本当に失礼できらい!」
「それはよかった。好かれていたらと思ったらゾッとしました」
やいやい言い合うふたりの向こうで、静かにカップを置いた上司が私を見て言った。
「リピーターが増えたようでよかったな」
「よかないですよ…」
私は痛み始めたこめかみを押さえるのだった。
【END】
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