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からすが鳴いたらかえりましょう
3.
しおりを挟むいつも参拝客がたくさんいる境内だが、やはり平日の中日ともなるとひとの数は疎らだ。
大学生らしき二人組や、散歩中らしいおばあちゃんたちを横目に、外拝殿の横を通って、奥にある社務所を目指す。パンプスのヒールが玉砂利に食い込むのなどもはや慣れたものだ。こちとらこの脚で鋪装されていない林道を歩いているのだから。
「こんにちはー」
社務所の裏口から声を掛けると、立て掛けられた几帳の影から見知った顔がひょっこり覗いた。
「おお、巫女ちゃん。ご苦労様」
だから巫女じゃねぇって。
と、内心でツッコミつつ、あがってあがってとの声に従う。
いや確かに前にこの神社で短期バイトをしたことはあるけど。花形の巫女はやってないんだよなあ。まあ長くここでお勤めしているひとたちにしてみれば些細な違いなのかもしれないが。
「やあ、巫女さん」
白い袴姿の男性が社務所の奥から姿を見せた。私を見て親しげに目許を和らげる。
「これ、上司から渡すようにと」
「ああ、話は聞いているよ。わざわざありがとう」
手に持っていた包みを渡せば上司からの指令は完了だ。それを知ってか、簡易テーブルでのんびり茶をしばいていたらしいおっちゃんが声を掛けてくる。
「何か飲んでくか? なあ、あの貰い物のやつ、まだあったよな」
あったよー、と奥から間延びした答えが返ってくるのに、よしよしと、おっちゃんが腰をあげる。
「いやっ悪いですから」
止めるも、いいからいいから、とひらりと手を振って奥へ行ってしまう。毎度のことながら止められたためしはない。
勝手知ったる様子だけど、あのおっちゃん神職のひとじゃなくて、社務所の隣の売店の店主なんだけどなぁー、と見送るしかない無力な私の隣で、苦笑する気配がする。
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