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第三章 私の外れスキルは『せんい』 ~アリエス共和国のヘレの場合

第05話 消えた悪役令嬢

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~ボイオティア家の屋敷 当主アタマス視点side

「ヘレはまだ見つかってないのか?」

「はい、まだプリクソス殿からは連絡がございません」

 部下の一人がそう答えた。ヘレが居なくなった事に気づいてから一週間ほど経った。儂は分家の者にはその話はしていないが次の日朝から分家の子せがれのプリクソスが屋敷に来てヘレの話をしてきた。どうやら街の門番に知り合いがいたらしく、朝出て行ったヘレが街に戻って来たのを確認できてないようで屋敷を追い出されたか、出て行ったのでは? と勘ぐっていたようだ。

 儂は分家の者に貸しを作りたくはなかったがどうしてもというので捜索を許可した。まあ、儂の役に立ちそうなヘレの結婚相手にも目星が付いたし例の生地・・・・の事もあるので連れ戻そうと思っていたので丁度良かったが。

「そうか、後はバラニーが着ていた服と、ぬいぐるみの方はどうだった?」

「そちらの方は、やはりこの国に居る裁縫士ではヘレお嬢様と同じものを作れる者はおりませんでした」

「むう、そうか……となると裁縫士の能力では無くやはりスキルか」

 数日前に屋敷に来たひいきにしている『鑑定スキル』持ちの商人がたまたま廊下でバラニーとすれ違った際に、抱いて居たぬいぐるみが気になったらしく鑑定を許可したところ、水属性が付加された生地で作られていたことが判明、その後バラニーの着ていた服も気になり鑑定したところ聖属性が付加された生地で作られていたことが分かった。そしてバラニーの部屋にはまだ他の属性のぬいぐるみや服があり、ぬいぐるみに関しては魔力を注ぐと手足が動くと言う不思議なものだった。

 その商人に値打ちを聞いたところオークションに出せばぬいぐるみは銀貨五枚、服に関しては子供用なので小金貨二枚ぐらいとの事だった。

 ただそれよりはぬいぐるみや子供用の服を一度ほどき、大人用の服に作り直しゴーレム兵を操る貴族達に着させて魔法抵抗力を上げた方が国の為になると儂は睨んだのだ。なので魔法付与されている服を一度ばらした場合どうなるのか付与魔法士の所に話を聞きに行かせた。

「付与魔法士の方はどうだった?」

「そちらなのですが、通常魔法付与した装備品を分解した場合は魔法付与の効果も消えるようですが、それよりも上級職の『付与魔導士』でも装備品に魔法属性を付与した場合長くても二週間くらいしか効果が続かないのと、普通の服やぬいぐるみには通常魔法属性を付与する事は不可能との事でしたので、付与魔法でない可能性があり実際に試してみないと分からないと返答がありました」

 バラニーの話によれば服やぬいぐるみを貰ったのはもう一ヶ月以上前だと言う。

「そうか、それでばらして上手く大人用の服を作ることは出来たのか?」

「それで試してみた結果ですが……普通のハサミでは切ることが出来ず白銀を使って特注のハサミを作らせて切ったのですが――」

「――どうなったのだ?」

「はい、切った部分の糸が消滅しました。そしてそこからほつれた糸を引っ張り出すとその部分も消滅していきました」

「消滅!? 糸自体が普通の物ではないと言う事か?」

「その通りでございます、服を作った後に魔法属性を付与したのではなく、糸その物に魔法属性が付与されていて……いえ、糸その物が魔力で出来ているとその付与魔法士や裁縫士は言っておりました」

「なんと……あやつの、ヘレのスキルはたしか『繊維』だと言っていたが繊維に魔法属性を付与できるスキルだったとはな……見誤ったか、しかしまずいな、他の貴族達には既に自慢してしまった、さてどうするか」

「アタマス様、お言葉ですがヘレ様は『繊維』ではなく『せんい・・・』だと何度かおっしゃっていましたがもしかして字で書くと繊維と書かないのでは?」

「ん? 確かにそんなやり取りをした記憶があるな……どちらにしろヘレには使い道が出来た、何としても連れ戻さねば」

「では私の部下も捜索に出しましょうか?」

「むう、そうだな、分家の子せがれだけじゃ厳しいな、ちなみにあやつは何処へ捜索に向かったのだ? 当てがあると言っていたが」

「プリクソス殿は獣人国に向かうと言っておりました」

「獣人国だと? 確かに今は停戦中だがあんな国、コネもない人間族など入国できんだろ?」

「しかしプリクソス殿はヘレお嬢様は獣人族を好きだと噂で聞いた事が有ると言っており、獣人国に向かったと何やら確信しておられる様子で」

「何!? ヘレが? 今やこの国は完全な人間族至高主義になったから学院はおろか街の中にさえ亜人共は居ないはずだが……」

「確かに獣人族に知り合いなど居ないはずなのでコネなど無いと思いますが」

「そう言えばヘレの奴、専属メイドが居なくなったとか言っておったな? 何処出身の者か聞いておるか?」

「いえ、申し訳ございません」

「まあよい、ではお主は酒臭いドワーフの国とアホな多種族共存国家に部下を向かわせろ、上手く忍びこむか中にいる間者と連絡を取ってヘレの情報を集めろ、特に無いようだったらその後は分家の子せがれと合流して情報を貰え」

「かしこまりました、では」

 そう言い儂の優秀な部下は姿を消した。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

~獣人国レオへと続く道 プリクソス視点side

 僕は家で護衛として雇っている三人の部下と馬に乗って獣人国レオへと向かっている。あの女は絶対に獣人国レオに向かっているはずだ、獣人族か好きだと言う噂だけではなく、なぜだか分からないけど僕の感がそう言っている。

「門番からあの女は徒歩で出て行ったと聞いている、とっくに追いついていなければおかしい、もしかして追い越したか? それとも途中の村で馬でも盗んだか?」

「それは我々がゴーレムを連れて移動しているから遅いのでは?」

 今回の部下達のリーダー格である土魔術の男が僕のゴーレムを横目で見ながら、生意気な口を聞いて来た。

「何! 僕の作ったゴーレムがあの女より歩くのが遅いとでも言うのか?」

「い、いえ、そう言う訳ではなく……そのぉゴーレムを連れてくる必要性が……ではなく、ヘレ様は本当に獣人国に向かったのかなと、今までの町や村ではそれっぽい目撃情報も御座いませんですし」

「おい! あんな女に、様付けなど不要だ! いくら本家だと言っても外れスキルが恥ずかしくなり逃げ出した女だ」

「も、申し訳ございません、あと数刻、馬を走らせればアリエス共和国の最北端のシュラタン村が見えてくるはずです、それを過ぎて半日ほど馬を走らせれば後は獣人国の領土になってしまいます、ですがコネのない我々は入国できないかと」

「コネが無いのはあの女も一緒のはず、だが何となくあの女なら獣人国に入国しそうな気がする。だから僕達も追わなければいけない」

「し、しかしその場合どうやって獣人国の街へ入るおつもりで? それに噂では現在獣人国内で色々問題が発生しているとかでコネがあっても入れるかどうか」

「はっ? 優秀な僕が一年かけて一人でコツコツ作ったこの次世代型ゴーレム『プリクソスⅠ号(雷の杖装備Ver)』にかかれば獣人族の門兵など一捻りだろ」

「え? まさか無理やり――」

「――お前達も僕より弱いけど一応『上級土魔術士』、『上級魔法剣士』、『中級炎魔術士』だろ、魔法に弱い獣人族など楽勝だろ」

「ですが、さすがにこの人数では……」

「だから上級土魔術士のお前を連れてきたんだ、土壁を作って戦う相手が少人数になるように上手くやれ」

「そ、そんなぁ」
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