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後日談
ミカ、東の島へ行く③
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他のアジア系って感じじゃない。
強い郷愁に襲われ、上手く息が出来ない。
「こんにちは。この店のオーナーのユイです。あの、失礼ですが、日本の方ですか?」
彼女が嬉しそうに話しかけてくれているのに、私は完全に固まっていた。
ユーグが見かねて助け舟を出す。
「そうです。彼女は、ミカ。多分、ユイさんと同じ世界から来たと思うんですけど……ミカ。ミカ!」
隣に座ったユーグに揺さぶられ、ようやく我に返った。
「ご、ごめんなさい。まさか、こんなにすぐに会えると思ってなくて……」
冷静に話そうと思ったのに、意に反して涙がポロポロと零れてくる。
ユーグはおろおろし始め、他のお客さんの興味本位な視線も集まってきた。
「なんで涙が……恥ずかしい。ちょっと待って下さいね、落ち着きます」
袖で頬を拭い、深呼吸を繰り返す。
「大丈夫。ゆっくりでいいんですよ」
ユイさんの穏やかな声にホッと心が緩む。
ようやく最初の衝撃をやり過ごせそうになった時、カラン、と店の扉が開いた。
宿の予約を済ませたラスがやってきたのだ。
彼は泣いている私に驚いたのか、急ぎ足で席まで歩いてくる。ユーグは自分じゃない、というように激しく首を振った。
ラスは私を両腕で囲うと、ぎゅ、と頭を引き寄せる。
「ごめんなさい。ちょっと驚かせてしまったみたいで」
ユイさんの申し訳なさそうな声が聞こえる。私はラスの腕を軽く叩き、離れるよう促した。
「私が勝手に動揺しただけだよ。もう、大丈夫だから」
「本当に?」
ラスが不安げな瞳で私を覗き込んでくる。
一年前まで、よくさせてしまった表情だ。私はふにゃりと笑みを浮かべ、心配ないと伝えた。
「良かったら、場所を変えて2人で話しませんか? もし、お連れ様に待ってて頂けるなら、ですけど」
ユイさんの提案にラスは渋い顔をしていたが、拝み倒して何とか許可を貰う。
「――分かった。じゃあ、ユーグとここで待ってる」
「うん、ありがとう。ユーグもごめんね」
「私のことは気にしなくていいよ。ゆっくり話しておいで」
二人にもう一度ありがとうを言って、席を立つ。
ユイさんは、銀色の髪の女の子を振り返った。
「サリー。私はしばらく二階にいるから、あの人が帰ってきたらそう伝えて」
「了解です、オーナー。……えっと、お連れ様のご注文をお伺いしても?」
銀色の髪の子はサリーという名前らしい。
早速仕事に戻った彼女に、ユーグとラスはそれぞれお茶を注文している。
私はユイさんに案内されて、普段は開放されていないように見える店の二階に上がった。
二階は、一階のカフェスペースに比べて随分ちんまりとしていた。
居心地のいいソファーとカフェテーブルが窓際に設えられていて、そこに座るよう勧められる。
よほどぼんやりしていたのか、いつの間にか温かい湯気を立てた茶器が目の前に置かれていた。
西の島のお茶は、ポラという植物の芽を摘み、乾燥させたものが主流だ。ちょっと渋いけど、後味がサッパリしていてお肉料理とよく合う。元の世界でいうなら、黒烏龍茶が一番近い。
東の島のお茶は初めてだ。
ユイさんの入れてくれたお茶は、綺麗な濃い赤茶色だった。
これは、なにかの花の匂い? 飲み口が爽やかで、心をスッと落ち着かせてくれる。
「はあ~。美味しい」
「ふふ、良かった! フレーバーティーっぽいでしょ? 最近、店で茶葉も売り始めたんだよ」
ユイさんは得意げに鼻をうごめかす。年のころは、20代半ばくらいだろうか。
こちらの世界にお化粧道具はないのだけれど、肌が綺麗で、何も塗っていないはずの唇はつやつやしていた。
「ミカさんは、いつこの世界に?」
「8年前です」
「ええっ!? じゃあ、すごく若くでこっちに呼ばれちゃったんだね!!」
…………。
私、一体いくつに見えてるんだろう。
確かに元の世界でも童顔な方だったような気もするけど、同じ日本人のユイさんにまで言われるってことは、ユーグの魔法のせいに違いない。
「いや、25歳でこっちに来て――」
「またまたあ!! 私が今、28歳なんですよ! そんな年じゃないでしょ」
信じて貰えそうにないので、諦めて話を進めることにした。
「私、西の島に落ちたんです。さっきのタリム人のラスっていう、あの子が私の夫です。東の島には他にもただびとがいると聞いたので、夫に頼んで連れてきて貰ったんですけど……まさかこんなに簡単に会えると思ってなくて」
ざっくり説明している間、ユイさんは何度も信じられないというように首を振った。
「私も日本人のただびとに会うのは、これが初めてだよ。西の島にもただびとが落ちるなんて、初めて聞いた! あの島には魔法がないから、翼もちじゃないと生きていけないって話は聞いたことあるけど……。飛べないミカさんは随分苦労したよね」
エドラザフを越えた時の話や日常生活についてなど、興奮気味のユイさんに問われるままに答えていく。
ユイさんからも沢山話を聞いた。
ただびとは、この港町だけでも5人いるそうだ。
ポーランド系の人もいれば、アジア人女性もいる。共通しているのは、若くて健康なこと。そして黒目黒髪という容姿。
「――だからね、この世界の神様は、私達の世界を作った神様と同じなんじゃないかなあって思うんだ。ただびとの中に他の世界の人はいないのが、その証拠。ねえ、ミカはどう思う?」
SF小説が好きだったという彼女にそう聞かれ、私は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、この先地球は滅んでしまうのかもしれないですね。元の船から新しい船への移民が、私達ただびと、というのはどうでしょう」
「わお、それもいいね。ロマンだね!」
本当はそんな話じゃない、と私達にも分かっている。
理屈で説明できない理不尽なことが起きるのが、現実だからだ。
神様の考えてることなんて、きっと理解することは一生できない。私は身をもってそれを知ったし、それはきっとユイさんも同じなんだろう。
「……ユイさんは、ただびとのかかる病のこと、知ってます?」
聞いてもいいか迷った挙句、思い切って尋ねてみる。
坂野さんの日記の記述が、頭から離れない。発病してしまった彼女の、乱れた弱い筆跡が。
ユイさんは真顔になり、重々しく頷いた。
「うん、知ってる。私はすごくラッキーだったの。……っていうのはね」
「ユイ! ただいま!!」
突然、階段を駆け昇ってくる騒々しい靴音が聞こえてきたと思ったら、若いサリム人男性が部屋に飛び込んできた。
私は視界に入っていないのか、まっすぐにユイさんのところへやってきて、きつく彼女を抱きしめている。
なんだろう、この既視感。
「こら、やめて、ジン! ただびとのお客様が来てるってサリーが伝えてないの?」
「ううん。聞いたよ。でも、会いたかったんだ、すごく!」
ジンと呼ばれたその青年は、座ったままのユイさんに覆いかぶさるように、ぐりぐりと頬を髪に擦り付けている。ユーグの気持ちが初めて分かった。今度から人前では気をつけよう、うん。
「今すぐ離れて。じゃないと……」
「分かった。分かったよ」
悲しそうに眉を下げ、一歩下がったユイさんの夫の顔を改めて見て、私は「ああ」と思わず溜息をついてしまった。
「ユイさん、SF好きってことは、あの映画も好きでした?」
それだけで、彼女には充分通じたらしい。
ユイさんの頬が薔薇色に染まる。
「うん、すごく。似てるでしょ、主演の俳優さんと彼。初めて見た時、本人かと思っちゃったもん」
「なるほど。それはラッキーでしたよねえ」
含みを込めて同意する。ユイさんは、もうっ、と恥ずかしそうに身を竦めた。
ユイさんとジンさんは、一目惚れのレアケースだったってわけだ。
ジンさんは訳が分からないと言った風に、首を傾げて私達2人を見比べる。
そのキョトンとした表情が、あまりにも例の映画のクールなイメージとかけ離れていた為、思わず噴き出してしまった。ユイさんもつられて笑い出す。
その時、ようやく私はもういいや、と思えた。
もう、いい。私は一人じゃなかった。
他のただびとに会いたい、という気持ちも同時に綺麗に消える。
今はただ、ラスを抱きしめたい。
抱きしめて「愛してる」と伝えたい。
あなたがいるこの世界が、私の世界だ。
一階のカフェスペースに降りると、ユーグの姿が見えなくなっていた。
長くて綺麗な指でトントンとテーブルを叩いているラスに、すぐ近くに座っているタリム人の女の子たちが熱い視線を送っている。
成人する前、夕飯が待ちきれない時によくやっていた仕草だな、と思い出した。
ラスが今、待ちきれないでいるのは――。
「ラス」
愛しさが溢れて、どうにかなってしまいそう。
私を見るが早いかパッと笑顔に変わって、彼は立ち上がった。見上げるほど大きくなった私の大事なラス。
「もう、いいの?」
「うん。すごくスッキリした。ユイさんと話して私が思ったこと、全部ラスに聞いて欲しい」
「俺も聞きたい」
傍にいくと、ぎゅっと肩に手を回され引き寄せられる。
残念そうなため息が、あちこちから聞こえる。ごめんね、この子は私の大切な人なんだ。
普段だったら照れて離れてしまう私がじっとしていたので、ラスに不思議そうに顔を覗きこまれた。
「どうしたの、ミカ」
「ううん、なにも。ただ、ラスが大好きだなって」
「……連れて来て良かったかも」
満更でもない表情で、現金なことを言い出したラスに、私は微笑を返した。
そのまま二人で宿に向かって、部屋に入る。
建物は古くて小さくみえたのに、中はすごく綺麗で広かった。外から見た印象と全然違うのは、おそらく魔法をかけているからだ。
「そういえば、ユーグは? 先にここに来てるの?」
「いや。それがさ――」
ラスが荷物をほどきながら話し始めた内容に、私はあっけに取られた。
強い郷愁に襲われ、上手く息が出来ない。
「こんにちは。この店のオーナーのユイです。あの、失礼ですが、日本の方ですか?」
彼女が嬉しそうに話しかけてくれているのに、私は完全に固まっていた。
ユーグが見かねて助け舟を出す。
「そうです。彼女は、ミカ。多分、ユイさんと同じ世界から来たと思うんですけど……ミカ。ミカ!」
隣に座ったユーグに揺さぶられ、ようやく我に返った。
「ご、ごめんなさい。まさか、こんなにすぐに会えると思ってなくて……」
冷静に話そうと思ったのに、意に反して涙がポロポロと零れてくる。
ユーグはおろおろし始め、他のお客さんの興味本位な視線も集まってきた。
「なんで涙が……恥ずかしい。ちょっと待って下さいね、落ち着きます」
袖で頬を拭い、深呼吸を繰り返す。
「大丈夫。ゆっくりでいいんですよ」
ユイさんの穏やかな声にホッと心が緩む。
ようやく最初の衝撃をやり過ごせそうになった時、カラン、と店の扉が開いた。
宿の予約を済ませたラスがやってきたのだ。
彼は泣いている私に驚いたのか、急ぎ足で席まで歩いてくる。ユーグは自分じゃない、というように激しく首を振った。
ラスは私を両腕で囲うと、ぎゅ、と頭を引き寄せる。
「ごめんなさい。ちょっと驚かせてしまったみたいで」
ユイさんの申し訳なさそうな声が聞こえる。私はラスの腕を軽く叩き、離れるよう促した。
「私が勝手に動揺しただけだよ。もう、大丈夫だから」
「本当に?」
ラスが不安げな瞳で私を覗き込んでくる。
一年前まで、よくさせてしまった表情だ。私はふにゃりと笑みを浮かべ、心配ないと伝えた。
「良かったら、場所を変えて2人で話しませんか? もし、お連れ様に待ってて頂けるなら、ですけど」
ユイさんの提案にラスは渋い顔をしていたが、拝み倒して何とか許可を貰う。
「――分かった。じゃあ、ユーグとここで待ってる」
「うん、ありがとう。ユーグもごめんね」
「私のことは気にしなくていいよ。ゆっくり話しておいで」
二人にもう一度ありがとうを言って、席を立つ。
ユイさんは、銀色の髪の女の子を振り返った。
「サリー。私はしばらく二階にいるから、あの人が帰ってきたらそう伝えて」
「了解です、オーナー。……えっと、お連れ様のご注文をお伺いしても?」
銀色の髪の子はサリーという名前らしい。
早速仕事に戻った彼女に、ユーグとラスはそれぞれお茶を注文している。
私はユイさんに案内されて、普段は開放されていないように見える店の二階に上がった。
二階は、一階のカフェスペースに比べて随分ちんまりとしていた。
居心地のいいソファーとカフェテーブルが窓際に設えられていて、そこに座るよう勧められる。
よほどぼんやりしていたのか、いつの間にか温かい湯気を立てた茶器が目の前に置かれていた。
西の島のお茶は、ポラという植物の芽を摘み、乾燥させたものが主流だ。ちょっと渋いけど、後味がサッパリしていてお肉料理とよく合う。元の世界でいうなら、黒烏龍茶が一番近い。
東の島のお茶は初めてだ。
ユイさんの入れてくれたお茶は、綺麗な濃い赤茶色だった。
これは、なにかの花の匂い? 飲み口が爽やかで、心をスッと落ち着かせてくれる。
「はあ~。美味しい」
「ふふ、良かった! フレーバーティーっぽいでしょ? 最近、店で茶葉も売り始めたんだよ」
ユイさんは得意げに鼻をうごめかす。年のころは、20代半ばくらいだろうか。
こちらの世界にお化粧道具はないのだけれど、肌が綺麗で、何も塗っていないはずの唇はつやつやしていた。
「ミカさんは、いつこの世界に?」
「8年前です」
「ええっ!? じゃあ、すごく若くでこっちに呼ばれちゃったんだね!!」
…………。
私、一体いくつに見えてるんだろう。
確かに元の世界でも童顔な方だったような気もするけど、同じ日本人のユイさんにまで言われるってことは、ユーグの魔法のせいに違いない。
「いや、25歳でこっちに来て――」
「またまたあ!! 私が今、28歳なんですよ! そんな年じゃないでしょ」
信じて貰えそうにないので、諦めて話を進めることにした。
「私、西の島に落ちたんです。さっきのタリム人のラスっていう、あの子が私の夫です。東の島には他にもただびとがいると聞いたので、夫に頼んで連れてきて貰ったんですけど……まさかこんなに簡単に会えると思ってなくて」
ざっくり説明している間、ユイさんは何度も信じられないというように首を振った。
「私も日本人のただびとに会うのは、これが初めてだよ。西の島にもただびとが落ちるなんて、初めて聞いた! あの島には魔法がないから、翼もちじゃないと生きていけないって話は聞いたことあるけど……。飛べないミカさんは随分苦労したよね」
エドラザフを越えた時の話や日常生活についてなど、興奮気味のユイさんに問われるままに答えていく。
ユイさんからも沢山話を聞いた。
ただびとは、この港町だけでも5人いるそうだ。
ポーランド系の人もいれば、アジア人女性もいる。共通しているのは、若くて健康なこと。そして黒目黒髪という容姿。
「――だからね、この世界の神様は、私達の世界を作った神様と同じなんじゃないかなあって思うんだ。ただびとの中に他の世界の人はいないのが、その証拠。ねえ、ミカはどう思う?」
SF小説が好きだったという彼女にそう聞かれ、私は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、この先地球は滅んでしまうのかもしれないですね。元の船から新しい船への移民が、私達ただびと、というのはどうでしょう」
「わお、それもいいね。ロマンだね!」
本当はそんな話じゃない、と私達にも分かっている。
理屈で説明できない理不尽なことが起きるのが、現実だからだ。
神様の考えてることなんて、きっと理解することは一生できない。私は身をもってそれを知ったし、それはきっとユイさんも同じなんだろう。
「……ユイさんは、ただびとのかかる病のこと、知ってます?」
聞いてもいいか迷った挙句、思い切って尋ねてみる。
坂野さんの日記の記述が、頭から離れない。発病してしまった彼女の、乱れた弱い筆跡が。
ユイさんは真顔になり、重々しく頷いた。
「うん、知ってる。私はすごくラッキーだったの。……っていうのはね」
「ユイ! ただいま!!」
突然、階段を駆け昇ってくる騒々しい靴音が聞こえてきたと思ったら、若いサリム人男性が部屋に飛び込んできた。
私は視界に入っていないのか、まっすぐにユイさんのところへやってきて、きつく彼女を抱きしめている。
なんだろう、この既視感。
「こら、やめて、ジン! ただびとのお客様が来てるってサリーが伝えてないの?」
「ううん。聞いたよ。でも、会いたかったんだ、すごく!」
ジンと呼ばれたその青年は、座ったままのユイさんに覆いかぶさるように、ぐりぐりと頬を髪に擦り付けている。ユーグの気持ちが初めて分かった。今度から人前では気をつけよう、うん。
「今すぐ離れて。じゃないと……」
「分かった。分かったよ」
悲しそうに眉を下げ、一歩下がったユイさんの夫の顔を改めて見て、私は「ああ」と思わず溜息をついてしまった。
「ユイさん、SF好きってことは、あの映画も好きでした?」
それだけで、彼女には充分通じたらしい。
ユイさんの頬が薔薇色に染まる。
「うん、すごく。似てるでしょ、主演の俳優さんと彼。初めて見た時、本人かと思っちゃったもん」
「なるほど。それはラッキーでしたよねえ」
含みを込めて同意する。ユイさんは、もうっ、と恥ずかしそうに身を竦めた。
ユイさんとジンさんは、一目惚れのレアケースだったってわけだ。
ジンさんは訳が分からないと言った風に、首を傾げて私達2人を見比べる。
そのキョトンとした表情が、あまりにも例の映画のクールなイメージとかけ離れていた為、思わず噴き出してしまった。ユイさんもつられて笑い出す。
その時、ようやく私はもういいや、と思えた。
もう、いい。私は一人じゃなかった。
他のただびとに会いたい、という気持ちも同時に綺麗に消える。
今はただ、ラスを抱きしめたい。
抱きしめて「愛してる」と伝えたい。
あなたがいるこの世界が、私の世界だ。
一階のカフェスペースに降りると、ユーグの姿が見えなくなっていた。
長くて綺麗な指でトントンとテーブルを叩いているラスに、すぐ近くに座っているタリム人の女の子たちが熱い視線を送っている。
成人する前、夕飯が待ちきれない時によくやっていた仕草だな、と思い出した。
ラスが今、待ちきれないでいるのは――。
「ラス」
愛しさが溢れて、どうにかなってしまいそう。
私を見るが早いかパッと笑顔に変わって、彼は立ち上がった。見上げるほど大きくなった私の大事なラス。
「もう、いいの?」
「うん。すごくスッキリした。ユイさんと話して私が思ったこと、全部ラスに聞いて欲しい」
「俺も聞きたい」
傍にいくと、ぎゅっと肩に手を回され引き寄せられる。
残念そうなため息が、あちこちから聞こえる。ごめんね、この子は私の大切な人なんだ。
普段だったら照れて離れてしまう私がじっとしていたので、ラスに不思議そうに顔を覗きこまれた。
「どうしたの、ミカ」
「ううん、なにも。ただ、ラスが大好きだなって」
「……連れて来て良かったかも」
満更でもない表情で、現金なことを言い出したラスに、私は微笑を返した。
そのまま二人で宿に向かって、部屋に入る。
建物は古くて小さくみえたのに、中はすごく綺麗で広かった。外から見た印象と全然違うのは、おそらく魔法をかけているからだ。
「そういえば、ユーグは? 先にここに来てるの?」
「いや。それがさ――」
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