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第五話『傷痕』-5
しおりを挟む「ギルドは何してるんだ?」
「いや、それが全く消息を掴めないのさ。連中、ヒカリゴケが活動を止めた『ヨル』に殺しをやるんだ」
「何だって…」
ヨルと言うと、自分の手すらも見えないような真っ暗闇の時間のはずだ。
時間はたった半日分しかない。そこに決まって…。
「まだ明るいからよ。出歩いても良いんだろうが…。通りの様子は、見てきたとおりさ」
閉まっている店。
しんと静まり返った通り。
無人の路地。
やっと合点がいった。ヨルも眠らないくらいに賑やかなこの通りに、静寂がやってくるなど人死に以外あり得ないと思っていたが、ここまでとは。
俺は尋ねる。
「おっちゃんは店、閉めねえの?」
「馬鹿言っちゃいけねえ。テマエ。通りの【顔】が休んでどうするかい」
「心配するぜ。あんたの力、モノづくりに全振りしてるってのに」
呆れたように俺が言うと、おっちゃんは豪快に笑った。
「テマエこそ、大丈夫かい?魔力なんてこれっぽっちも無いくせに」
「コイツはコイツで良いんだよ。魔力がない分、『魔力感知』に全く引っかからないからな」
「ああ。魔力で物を感知するっていう魔法みてーな力か。んなもん、大魔道士とかじゃないと持ってないよ」
確かにそうだ。魔力感知は意識してやるものだから、無意識に行う『視覚』に取り入れるには途方もない鍛錬と魔法の才が必要だ。
「だけどよ。こっちだって黙って見てるワケじゃねーんだよ!! テマエ!!」
顔をグッと近づけておっちゃんは言う。
俺はその勢いに思わずのけぞった。
「お、おう…どうした、なんか策でもーー」
「ーーあったりめぇよ!! 通りの屈強な奴等で何十人単位で自警団をいくつもつくって見廻ることにしたのさ。ギルドも当てになんねぇしよ」
「そ、そいつはよかったな。」
少し引きながら言う。
すると、おっちゃんは我に帰ったように咳払いすると、
「ーーあー。もう明るくなって長いから、テマエ、もう帰った方が良くないか?」
「ーーっと、もうそんな時間か」
俺は席をたつと、出口へ向かった。
そしてカラリカラリと音を立てながらドアを開けた。
「あ、あと」
俺が振り返らずに言う。
「シナモンスコッチ、ごちそうさま」
「ーーああ。バタースコッチのつもりで作ったんだけどなアレ。よかったら余り物があるんだけど持ってくか?」
「あれ?そうだったのか?…気持ちだけ貰っとくよ」
「いや、貰っときな。お前へのプレゼントだ」
「…貰い物じゃなかったっけ?……まあ、そこまで言うなら有り難く…」
俺は、思ったより食い気味でシナモンスコッチ?を勧めるおっちゃんに折れて、葉で包まれた包みを受け取った。
「オバラの葉で包んであるから、意外と持つぜ。…じゃ、元気でな。アイドルさんよ。」
「ーーー元気でな。ワサツミ」
扉をくぐり抜ける最後に俺はおっちゃんの本名を呼んだ。
その時、おっちゃんがはにかむような顔をしているのが、振り返らずとも、何故か分かった。
同時に、二度とそれは見られないだろうという事が、何故か、分かった。
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