4 / 5
第四話『傷痕』-2
しおりを挟む「…なあ。」
「あ?」
鳥の囀り。
遠くから聞こえる水音。
妙に硬い音を立てて砕けるシナモンスコッチ。
少し薄暗い店内で、俺は尋ねた。
「俺が最後に来た時は、ヒカリゴケが生え変わる前だったよな?」
「…ああ。」
「何人殺られたんだ?」
「おいおい何言って…。」
唐突な問いにおっちゃんは明らかに慌てる。
しかし俺は構わず続ける。
「近衛団長が亡くなったらしい。王子は行方不明。大ニュースだから空のパイプのなかにも届いたよ」
「…」
おっちゃんは喋らない。
「初めはそいつを悼んでどこも店出してねえのかと思ったよ。だけど、おかしいだろ?」
「……」
「入り口を打ち付ける必要はねぇよな?」
「たまたまその店が特殊だったんだろ。近衛団長が死んだんだぞ?これ以上ない悲報だろ」
おっちゃんは一段と声を低くして、喋るというよりは諭すように言った。
だけど、俺は七番通りが……。
頼む。
「何が起きたのか教えてくれないか?」
シナモンスコッチはもうすっかり冷めきってしまっていたが、そんなことはどうでもいい。
おっちゃんは何も言わない。眉根を寄せ、
目には複雑な色が浮かんでいる。
そして…
「20人だ」
「…冗談だろ?ぜ、全員七番通りか?」
多すぎる。
20人?集団でやられたのか?
「ああ。ここが一番多い。他はほとんど、2.3人程度だった。全員喉を一突きだ」
つまりは、ここ、七番通りに殺人集団が現れたという事なのだ。
「『ヒル』のうちに?」
「…いや、『ヨル』のうちに」
『ヒル』を作る立役者、
ヒカリゴケという植物がハイネックの黒い空を明るく照らしているというのは、周知の事実である。
張り巡らされたパイプの、豊潤な魔力を求めてヒカリゴケは胞子を飛ばす。
ここで、ヒカリゴケが他の植物とは一線を画す理由となる特技が披露される。
自家発電だ。ヒカリゴケは魔力を取り込むが、それを養分に還元出来ないので、自身で光魔法を放ち、光合成するのである。
更に、取り込める魔力量には個体で大きく差がある為、強力な光魔法を使うコケ群はとても明るく輝く。
ことに、七番通りのヒカリゴケは保有魔力量がずば抜けて高く、パイプの空を美しく彩る。
七番通りが栄えた理由とも言える。
…殺人鬼共が来るまでは。
ヒカリゴケの魔力量が多いと世代交代も早い。他の通りが30日ほどかかるのに対しこちらは20日程だ。
その間に20人も殺されたということは。
「集団だよな?」
「ああ。その可能性が高い。1日1人、きっちり殺されてやがる。」
殺人鬼集団がこの通りに現れるなんて、まるで悪夢だ。
「ギルドは何してるんだ?」
「いや、それが全く消息を掴めないのさ。連中、ヒカリゴケが活動を止めた『ヨル』に殺しをやるんだ」
「何だって…」
ヨルと言うと、自分の手すらも見えないような真っ暗闇の時間のはずだ。
時間はたった半日分しかない。そこに決まって…。
「まだ明るいからよ。出歩いても良いんだろうが…。通りの様子は、見てきたとおりさ」
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
〈本編完結〉わたくしは悪役令嬢になれなかった
塚本 結理
ファンタジー
「返しなさい! その体はわたくしのものよ!」
ある日ルミエラが目覚めると、転生者だという女に体を奪われていた。ルミエラは憤慨し、ありとあらゆる手を尽くして己の体を取り戻そうとする。
これは転生者に人生を奪われたひとりの少女のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる