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第四話『傷痕』-2

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「…なあ。」


「あ?」


 鳥の囀り。

 遠くから聞こえる水音。

 妙に硬い音を立てて砕けるシナモンスコッチ。


 少し薄暗い店内で、俺は尋ねた。

「俺が最後に来た時は、ヒカリゴケが生え変わる前だったよな?」

「…ああ。」


「何人殺られたんだ?」


「おいおい何言って…。」

 唐突な問いにおっちゃんは明らかに慌てる。

 しかし俺は構わず続ける。


「近衛団長が亡くなったらしい。王子は行方不明。大ニュースだから空のパイプのなかにも届いたよ」


「…」

 おっちゃんは喋らない。

「初めはそいつを悼んでどこも店出してねえのかと思ったよ。だけど、おかしいだろ?」


「……」


「入り口を打ち付ける必要はねぇよな?」


「たまたまその店が特殊だったんだろ。近衛団長が死んだんだぞ?これ以上ない悲報だろ」

 おっちゃんは一段と声を低くして、喋るというよりは諭すように言った。

 だけど、俺は七番通りが……。

 頼む。


「何が起きたのか教えてくれないか?」

 シナモンスコッチはもうすっかり冷めきってしまっていたが、そんなことはどうでもいい。

 おっちゃんは何も言わない。眉根を寄せ、

 目には複雑な色が浮かんでいる。

 そして…


「20人だ」


「…冗談だろ?ぜ、全員七番通りか?」


 多すぎる。
 20人?集団でやられたのか?


「ああ。ここが一番多い。他はほとんど、2.3人程度だった。全員喉を一突きだ」


 つまりは、ここ、七番通りに殺人集団が現れたという事なのだ。

「『ヒル』のうちに?」


「…いや、『ヨル』のうちに」

 『ヒル』を作る立役者、

 ヒカリゴケという植物がハイネックの黒い空を明るく照らしているというのは、周知の事実である。

 張り巡らされたパイプの、豊潤な魔力を求めてヒカリゴケは胞子を飛ばす。

 ここで、ヒカリゴケが他の植物とは一線を画す理由となる特技が披露される。

 自家発電だ。ヒカリゴケは魔力を取り込むが、それを養分に還元出来ないので、自身で光魔法を放ち、光合成するのである。

 更に、取り込める魔力量には個体で大きく差がある為、強力な光魔法を使うコケ群はとても明るく輝く。

 ことに、七番通りのヒカリゴケは保有魔力量がずば抜けて高く、パイプの空を美しく彩る。

 七番通りが栄えた理由とも言える。

 …殺人鬼共が来るまでは。

 ヒカリゴケの魔力量が多いと世代交代も早い。他の通りが30日ほどかかるのに対しこちらは20日程だ。

その間に20人も殺されたということは。


「集団だよな?」



「ああ。その可能性が高い。1日1人、きっちり殺されてやがる。」


 殺人鬼集団がこの通りに現れるなんて、まるで悪夢だ。


「ギルドは何してるんだ?」

「いや、それが全く消息を掴めないのさ。連中、ヒカリゴケが活動を止めた『ヨル』に殺しをやるんだ」

「何だって…」


 ヨルと言うと、自分の手すらも見えないような真っ暗闇の時間のはずだ。

 時間はたった半日分しかない。そこに決まって…。


「まだ明るいからよ。出歩いても良いんだろうが…。通りの様子は、見てきたとおりさ」
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