お天気雨にはご注意を!

khu@bunny

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落ちたようです

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「う~~~ん、晴れてる~」

 9月になってやっと貰えた夏休み!無駄に過ごしてなるものかと、7:00にセットされていた目覚ましを、鳴る前に止めて、「どっこらしょ~」と布団から出た。
 この9月で、美樹はとうとう三十路を迎える。この年になり、肉体は、ギシギシと軋むように感じられた。
 
 まだまだ残暑が厳しい季節だが、掃除と洗濯にはもってこいの天気だ。

 そして、やることやったら、癒しの世界[猫カフェ]に行くのだ!

「午前中に、いろいろ済ませちゃいたいから…軽く食べて動きますか」

 今日は布団も干せちゃうな~。

 天使[猫ちゃん]に会いに行くのだから、アンクル丈のデニムパンツにTシャツでいぃか。
 猫ちゃんたちにとって、装飾品が無い服の方が、安全だしね~。

 美樹はさっと着替えて、緑茶と梅干しで朝のスイッチを入れると、ベランダに目を向けた。
 アパートの3階から見える景色は、まだまだ強い日差しと、近所の公園から聞こえる蝉の声もあり、夏休みを感じさせる。

 空気も、入れ替えなくちゃ。

 ベランダの窓を開けると、晴れているのに、雨が舞っているようだ。

「お天気雨かな~、まぁすぐ止むでしょ」

 ベランダに出ようと、サンダルを履くために下ろした足は、何にも触れることなく、美樹の身体は前のめりに倒れていった。

「ちょ!ちょーーーー!!!!」

 ここってば、アパートの3階!落ちたら大怪我とかで済むの?!いや、無理でしょーーーー!!!!

 思わず目を閉じて、美樹は衝撃に備えた。




 
 ーコウシン・シンコ王国ー

 どんよりとした曇り空、雨が降っては止み、時折雷も鳴り響いていた。
 天候が荒れるのは、この国の王の心が荒れるからである。
 ここ数ヶ月続く悪天候に、民は不安を抱き、王自身もまた、苛立ちを募らせていた。

 今日も変わらぬ天気に、王であるハクは、王宮にある自身の寝室から外を眺めていた。

「何も出来ぬとは、な…」

 窓からに目を背けたハクから、弱音が溢れる。


 ぽふんっ

 何も無い空間から、ハクの上に突然少女が落ちて来た。

 胸の上に感じる温かさと、心地よい香りに、ハクの心臓が、ドクリと音を立てる。

 窓からは、薄日が射し込みはじめていた。





 予想よりも柔らかな感触に、美樹は受け止められた。

 え、むっちゃふわふわに包まれたんですけど。

 そっと目を開けると、プラチナに輝く真白なふわふわの毛皮の上にいるようだ。思わず、その毛並みに顔を埋める。

 たまらん!けしからん!もっとくれ!

「…何時までそうして居る」

 埋まっていた毛皮が振動し、低く心地好い声が響いた。

 どうしよう…耳まで幸せ…

「おい、娘。聞いとるのか?」

 幸せに浸っていると、ドドドドドッと足音が迫ってきた。

『ハク様!!ハク様、太陽が!?!』
「問題ない、騒ぐな」

 バンッと、扉が開けられる音がした。

「な!!!人間か!?」
「なんと言う…!ハク様、何があったのですか!」
「構わぬ、静かにせぬか」

 急に騒がしくなった周りに、美樹はさすがに顔を上げ、辺りを見渡した。
 そこは、ホテルのスイートルームも真っ青な、豪華な部屋だった。
 足音なんてしないだろう絨毯には、見たことのない花々が描かれており、窓の装飾は、蔦が巻き付いているようなデザインで、神殿のような雰囲気もある。
 そんな部屋の中央には、たった一つ天蓋付きの大きなベッドがあるだけだ。大人が5人寝ても大丈夫な広さのベッドだが、今はプラチナで真白な大きなお狐様でいっぱいになっている。
 そんなお狐様の上に、美樹は乗っていたのだ。

「わぁお…」

 自分でも、女子として残念な第一声だとは思う。だが、しかし!目の前には、私の願望が具現化されているだ!
 まっ…白で美しい毛並みのプラチナに輝く大きなお狐様、超絶イケメンの風貌ですよ。黄金の瞳は優しそうで、抱きつきたくなる。
 そして、さっき部屋に入ってきた、たぶん騎士のような方達。一見人間かと思われるが、ふっさふさの尻尾に、麗しいケモミミ…。その毛並みは見慣れた狐のものだ。黄金色からだんだんと白い毛色になっている。

「えぇと、重いですよね。ごめんなさい。そして、此処は何処でしょうか?」
「少しも、重くはない。ここは白龍を祀る、コウシン・シンコ王国だ」

 麗しきお狐様、確かハク様と呼ばれていた彼が答えてくれた。その間、ふさふさの尻尾が美樹の腰の辺りに巻き付いていた。
 まったく聞いたことの無い国名って、まさか、流行りのトリップとか~?…なワケない!ないない~、夢か、夢だな。最近休めてなかったし、疲れが溜まってたんだなぁ~、もう年ってことか。
 
 それにしても、幸せ過ぎて、鼻血が出そう…。なんて素敵な夢を見ているのか。

「ハク様、その者は…」
「ごめ~ん、ハクの所に落としちゃったよ~」


 騎士たちの後ろから、菫色の長いローブを纏った神官の様な方が入って来た。
 毛色は、白に近いが金が混ざっているようだ。

「君たちは下がっていいよ~。ぼくが召喚よんだから~問題ないし~。ね」

 のんびりとそう言うと、あっちへ行けとばかりに、手を振っている。

『はっ、承知いたしました』

 声を合わせて言うと、入って来た騎士たちは部屋から出ていった。

「ヒスイか、いったい何をしたのだ」

 部屋に3人になった所で、ハクが問いかける。
 だが、ヒスイはそれを無視して、話を進めた。

「初めまして~お嬢さん♪ぼくは、ヒスイって言うの~、見て分かるかもだけど~、この国で1番偉~い神官様だよ~」
「お、お嬢さんと呼ばれる年齢ではないですが…はぁ、初めまして?私は、佐倉美樹と申します?」
「サァクラァミキ?変わった名前だね~」

 わぁお…、名前の発音できてないとか、なんてお約束なの。これ、やっぱり夢だよね。

「えぇと、発音が違うみたいなんで、ミキでいぃですよ。佐倉が苗字で美樹が名前なんで」
「そぅなの?じゃ~ミキって呼ぶね~。あ、隣で黙りの白いのは~」
「ハクだ、余もミキと呼ぼう」
「はぁ、ハクさんと、ヒスイさんで」

 麗しいお狐様とケモミミ様に挟まれるとか、両手に天国か!
 気を抜くと、ケモナードリームにトリップしてしまうため、美樹は頭を振った。

「そぅそぅ、ミキにお願いがあるんだ~」
「はぁ、私に出来ることならば?」

 大好きなケモミミ様からお願いとか、断る理由がみあたらんな。

「話がわかるね~。じゃ、ちょっとそこの白いのに、キスしちゃってみて~」

「おいっ!!!お前は、突然、何を言っているんだ!?」

 突然のキッスコールに、美樹が唖然としていると、ハクが慌てて起き上がった。その反動で、美樹がベッドから落ちそうになると、ハクはさっと尻尾で支えた。
 
 お狐様が紳士すぎてツライ…、もふもふ好きには堪らない…。

 またもや、意識が夢の世界に行ってしまったが、改めてヒスイさんと、ハクさんを交互に見つめた。

「えぇと、理由を聞いても?」
「だめ~、ちょっとさ、ちゅっとしてくれればいぃだけどから!ね?お口にちゅっとさ~」

 ケモミミ様がお願いしてくる。
 え?いぃの?誰得?オレ得だよ??

「な、な、何を言うて…」

 慌てるお狐様とか、か~わ~い~い~!
 キャラ崩壊とか、どんと来い!そして、行ってきます!

「ちゅっ」

 美樹は動揺していたハクの口に、ベッドの上に立って口付けた。
 ふわっと唇に感じたもふもふに、悶絶する。
 
 思わず手で顔を覆って、座り込むと、ハクが虹色の光に包まれた。
 突然の光に驚いて見ると、その光は柔らかくなり、次第に収まった。そこには、お狐様と同じ色の尻尾とケモミミ、そして腰まである長髪のイケメンがギリシャ神話に出てきそうな、布を纏っただけのような服装で、立っていた。
 身長は、2メートル近くあるようで、美樹は座り込んだまま、その青年を見上げてしまった。
 
「ほ~ら、やっぱりぼくって天才!」
「わぁお」

 綺麗というよりは、男らしさを感じる精悍な顔立ちと、しっかりとついた筋肉が、イケメン度を上げている。
 

「これは、一体、何が起こったのだ」

 ハクは、自身の手を見つめ、唖然と呟いた。
 それに対し、ヒスイはニヤリと笑っている。

「呪いの言葉を~思い出してごらんよ~」
「呪い??」

 不穏な言葉に、美樹は思わず言葉を挟んでしまった。

「ハクはね~、隣国の第三王女からのアピールを、ばっさりと断ったんだよ~。まぁ、年と顔を考えろって感じだったんだけどね。国力から見ても、政略結婚する価値もない所だったし~当たり前の結果なんだけどね!それなのにあの女、ハクに呪いかけやがったんだよね~」

 穏やかな表情で、所々に棘と黒さを交えながら、ヒスイは話し出した。

「で!その呪いなんだけどさ~。たった1人の番と出会い、その乙女から口付けを貰えないと、一生獣の姿のままっていう~悪質な呪いだったんだよ~」
「つがい…?」

「ヒスイ、余の番はこの世界には居らぬと、言うておったはずだが?」
「そぅだよ~。だから、ぼくってば天才なんじゃない~」
「そうであったか…、なるほど。突然抱き着かれても、一切の不快感もないばかりか、離したくないと思うのも、番なればこそ」

「え?え??」

「天気も回復~お天気雨だよ~!最高の天気!」

「あの、説明を!」
「ミキは、余のたった1人の番ということだな」

 ハクは、戸惑う美樹に、甘い視線を送ると、腰を抱き寄せた。

「はぁ~?!だって、これってば、夢じゃないの?!」

「あ~、そっか。そこの説明してなかった~。呪いがかけられてから、世界中探して~見つからないから、ちょっと他の神々の世界まで手を伸ばしちゃったんだよね~。それで、地球って国で見つけちゃったから~召喚しちゃった」

 ドヤ顔で言われたよ、まさかのリアルトリップだったの?!

「来れたんなら、また帰れるとか…」
「帰すことは、できぬ!ミキは余と番うのが嫌なのか?」
「嫌じゃないよ!!」

 は、とっさに欲望が先走ってしまった…。

 美樹は口を手で覆ったが、時既に遅く、ヒスイはニヤリと笑った。

「ごめんね~、呼べるけど、返せない~。一方通行なんだよね~。まぁ、不自由はさせないから、安心してハクに愛されてよね~」

「余が不自由などさせぬ、慣れるまでは大変であろうが、側にあってくれ」

 真摯に伝えてくるハクに、美樹は何も言えずに頬を染めた。
 
 私ってば、こんなに欲望に忠実で大丈夫なの?考えなくちゃいけないことが、沢山あるのに、ハクの近くは心地よすぎて、考えられない。

 美樹が黙ったまま、ハクと見つめ合っていると、思い出したように、ヒスイが言った。

「あ~!天気で察してるだろぅけど、皆んなにも伝えてくるね~」

 ヒスイは、そう言うなり、部屋からさっと出て行ってしまった。

 ハクは美樹の手を引き、ベッドに座らせると、その前に跪いた。
 
「ミキ、余だけの番。結婚してくれ」

「うぇえ~!速いよ!展開が速いよ~」
「愛は時空を超えるもの、時間など些細なもの」

 うっとりと見上げてくる瞳に、本気を感じとり、美樹は思わず立ち上がった。

「ちょ、ちょーー!!」

 こうして、お天気雨の中、美樹は嫁ぐことを求められた。
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