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邂逅 ~この剣を献げる~

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 美しい女は数多に、星の数ほどにいる。

 だが、目の前にいるこの女が、ただの女と同列に語る事も比較する事も出来ない存在である事を理屈抜きで悟った。
 
 この身を、この命を献げるに相応しい神の加護を受けたこの世でただ一人の女。
 前代未聞な事に勇者と聖女を掛け持つ異色の存在。
 そんな女に必要とされる、望外の喜び。

 「この剣を勇者のために献げる。この一振りを聖女のために献げる。我が剣は我らの行く手を遮る悪を薙ぎはらい、必ずや宿願を果たさん」

 格式ばった儀式は苦手だが剣聖に選ばれた時にこの儀式形式を叩き込まれた。
 曰く、剣聖は勇者の剣であり、聖女の盾である。のだとか。

 「まっ、早い話があんたを守ればいいって事だろ?」
 矛先を向けた女は、ゆっくりとこちらに目を向けた。何という強い眼差しなのか。
 宝玉よりも尚美しい、黒曜石の瞳。濡れたような光沢を持つ黒髪。
 この世で勇者のみが纏う色彩。
 白い顔は笑顔一つで容易に国を滅ぼすだろう容貌。微かに赤い唇は笑み一つなくてもその魅力を損なわせない。
 「まず己を守りなさい。私は己の身を守る位なら造作もない」
 己が弱者である事を許されない存在、それが勇者だもんなぁ。
 たがよぉ、オレも剣聖に選ばれた以上、やる事はやらなきゃなんねぇ訳でな。
 「まぁまぁ、そう肩に力入れすぎず気負わずにやろうぜ?魔王討伐なんて簡単に済む訳ねぇし、長い道のりになるんだからよ。互いに助け合うためじゃなきゃ、神だってオレらを選ばれた訳がねぇ」
 「剣聖。そうですね。貴方の言う通りです。幾ら神の加護を得たにしても所詮私も人間。完全無欠とは行きません。助け合うために貴方が、そして賢者が選ばれるのでしょう。真理を悟っているのね」
 おい、今明らかに見直しやがったな?
 んで、何か?名前すら呼ぶ気ねぇのか?
 「テオドロスだ、そう呼んでくれ」
 「テオドロスですか。古代の識者の名前ですね。流石に滅んだとは言え、一国の王子。素晴らしい名前です。私はアメリア、聖女になった時にアメリアローズと洗礼名を授かりました」
 あぁ、確か聖女の本質を魔王の魔の手から守護するためだったっけ?
 ホントに意味あんのかね?
 まぁ・・・名付けた連中の正直な感想が滲んだ名前だよな。
 確か象徴物が夏椿、沙羅の花だっけ?
 あぁ、なるほど。
 清楚な神の花のあの姿こそ、この聖女の本質そのものなのかも知れない。
 だがそういやぁ。勇者は選出される際に生まれ持った色彩から黒色へと変貌し、生涯二度と戻らないと聞くが。
 果たして我が聖女様は一体どの色をもって生まれたのやら。

 実に興味深いじゃねぇか。




 コメント

 剣聖はお笑い、ツッコミ担当です。(笑)
 いや、ただ単に根が単純で素直なだけなんですが。凡そ王族らしくありませんが、彼は出生時、いずれ栄光を掴む光の化身と予言されている、傑出した王子なのです。

 ※大変残念な事に、「本来は」という但し書きがつくところが何とも。





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