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凱旋 ~故郷への帰還~

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 懐かしい。

 何も変わっていない。
 良い意味でも、悪い意味でも。
 何もない故郷の光景。

 「あんだ?この村の連中は正気なのか?勇者で聖女のあんたを出迎えなしって何様のつもりなんだよ」
 テオドロスの歯に衣着せない性格を良く知る事になった私は苦笑を浮かべた。
 「あぁ、いいのよ。テオドロス。この村は時代錯誤なの。聖女に選ばれた時に両親と絶縁したのだけど。何をどう勘違いしたのか、私の一存で絶縁した、私が親不孝者という扱いになってるのよ」
 ・・・どうしてついて来たのかしら?
 彼は剣聖で、だからこそ各地から魔物討伐の依頼が殺到していたのに。賢者が面白がって依頼書を利用すれば一儲け出来そうだと揶揄っていたわね。
 「そういう馬鹿な真似すっから益々田舎だって馬鹿にされるんだぜ?まっ、この場合は完全に自業自得だな。こんな事どっかの国に一言漏らせば面白い事になりそうだ」
 テオドロス・・・
 剣聖なのにどうしてそう黒い笑みを浮かべているの?いえ、否定はしないけれど。
 「おやまぁ!剣聖様!何とまぁ、おいでになると知っておれば村を挙げてお出迎えしましたものを!」
 村長・・・そうだったわ、この人その場の空気が読めない人だったわね。
 「あ?何だ。オレだけ歓迎すんのか?いらねぇよ。胸糞悪ぃ。ざけんなや」
 「は?剣聖様を歓迎するのは当然の事でしょう?何かおかしな事でも?」
 テオドロス。
 気持ちは分かるからそのキツネみたいな奇妙な表情はやめて。
 ワラワラとやって来た村人たちの目的は勿論、テオドロス。
 「あれが剣聖」
 「おぉ、話に聞く通り見事な黄褐色の髪と紫水晶の瞳じゃ!」
 「亡国とは言え、王子だぞ」
 「精悍な顔立ちだねぇ」
 ・・・流石、田舎者。
 口を慎む当然の礼儀すらなってない。
 あら、年頃の娘達が何を勘違いしたのか、精一杯めかしこんでるわね。
 ただあんなみっともない姿を見てる位なら、孔雀の羽でも愛でていた方がはるかに有意義な鑑賞になるでしょうけれど。
 「アメリアローズ」
 名を呼ばれて目を向ければ、テオドロスの顔はもはや渋面になっていた。
 「ここに帰って来た目的が特にねぇなら、早々に立ち去ったほうがいい」
 確かに、そうね
 「両親の墓参りだけ済ませたら立ちましょう。用はそれだけなの」
 「了解」
 スッ、と素早く剣に手を掛けたテオドロスは押し寄せる村人達に向き直った。
 「どけ。我が勇者の行く手を阻むのなら容赦しねぇぞ」
 「は?わ、我々は善良な民ですぞ?!ご乱心めされたのか?そこな者の言葉になど惑わされてはなりません!あれは親を捨てた人でなしなのですぞ!」
 「うるせぇ!!口を閉じやがれ!」
 聖力を使って叱りつけるなんて、こんな時代錯誤な凝り固まった価値観しかもたない愚者達にはもったいないのに。
 改心なんてしないわよ。
 だって彼らはすでに聖女を拒んだ愚か者の烙印を押され、どこの国からの援助も受けられない状態なのでしょうし。
 「いいか、聖女は肉親と離別して聖職につかなければならないのだ!この世界を救済するため、人としてでなく神に近い存在になるためだ!それとも何か?誰かがやらなければならないのなら、貴様らの誰か行く事が出来たのか?あ?!」
 まぁ、空気が震えているわ。
 聖力にこんな反応をするなら、両親の遺骨はどこか他の地に埋葬し直した方かいいわ。どこかいい土地、なかったかしらね?


 
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