君を本気で殴りたい

秋村篠弥

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終わり始まる

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 最後に人を本気で殴ったのは、いつだろう?
 鈍い音がして、手の甲に痺れる様な痛みが広がる。さすっても退く気配はない。
 あぁ、きっと僕は人を思いっきり殴ったことなんて無かったんだ。
 後悔が、こんなちっぽけな事なんて…。もっと人を殴れば良かった?そうすれば、こんな後味の悪い気分にはならなかった?慣れが、僕の罪悪感を隠してくれたんじゃないか?
 しかし、僕が人を殴れる訳がない。何故なら、そんなキャラクターではないから。自己主張が弱く、自分を守る事さえ出来ない。
 彼女は、あんなに…派手に轢かれたのに、身体をあんなにされたのに、痛かったはずなのに、微笑んでいた。そして何かを言った。僕にはそれが、ありがとうの口の動きにしか思えなかった。
 誰に?僕に?
 悩みのため息と共に、謎の問いかけは空気中に分解される。
 今の僕は、あの日の彼女とは真逆の心境だ。僕は決して笑えない。意味もなく、ありがとうなんて言えない。
 僕は何層にもなった、雲の隙間から漏れる光を見て、過去にタイムスリップ出来そうな心境になった。まるで不可能を全て可能にしてしまいそうな、美しい光景が遥か遠くで広がっている。
 不可能を可能にすると言えば、彼女の性格のようだ。
 僕は彼女を回想しながら、拳を逆の手で包んだ。それでも、痛みは変わらなかった。
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