君を本気で殴りたい

秋村篠弥

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 口内に鉄に似た香りが広がる。
「……っ!」
 僕が彼女に出会ったきっかけなんて、神様か誰かが用意したのだろう。その証拠に、彼女との出会いは奇妙だった。
「立てよ、ほら、早くしろ!」
 脇腹に蹴りが入る。急所を外すことの知らないソレは、一瞬、呼吸を乱した。
 僕は高校に入ったばかりなのに、イジメにあっていた。何がきっかけか……、そんな事、僕には分からない。
 当時、僕は毎日毎日心から祈った。イジメが無くなって、普通の学校生活が戻ってきます様に…と。
 だが、いくら祈っても無意味だった。僕の願いを全てのモノが否定する様に、イジメなんて無くならなかった。
 いっそ、僕が消えて居なくなってしまえば良い、とまで考えて諦めていた。そんな矢先だった。
ドアが勢いよく開かれたかと思うと、同時に甲高い声が雰囲気に割って入ってきた。
「何なのよ!アンタ達、弱い者イジメなんて、最低じゃない!」
 彼女は、とある日からいきなり僕の味方になってくれた。僕を庇った事から仲間と思われ、彼女にもイジメは行われた。だが、それも予定内だったのか、教師を使って僕へのイジメは嘘の様に無くなった。
 心から祈った…その願いを、彼女が聞き届けてくれた。彼女は僕にとって女神だった。
 そしてこの事がきっかけで、本格的に奇妙な関係は築かれていく事になる。
 何が奇妙かって?それは誰かに導かれる様に仲良くなり、会うべくして会ったと感じたところさ。
 まぁ、何はともあれ、彼女は僕が不可能だと実感した事柄さえ、関わってからはいとも簡単に可能にしてしまった。
 それが第1の彼女の能力だと思う。
 不可能を可能にする能力…そんな名前の勇気が、彼女と僕を引き合わせた。
 僕は、きっと憧れと同時に彼女が好きだったんだと思う。でなければ、最後の最後まで、守れなかった事を悔いたりしない。


「付き合って」
 ある日、僕の口から零れた言葉に、彼女は一瞬目を見開く。
 僕らは勉強会の為、六時近くまで少しザワザワしている教室で勉強をしていた。話題を出したのは、その帰りだ。
 校門を出て、いつも見ている景色が自然と目に入る。何の変哲もない景色。だが、今、それを見る目は彼女に出会う前のものより、一層生気を宿し、人生というものをしっかり歩んでいると思う。
 辺りは、橙に染められて、僕らもその一部だ。
「ど、どこに?」
 だが、その驚きを悟らせないように、彼女は誤魔化した。
 頬はほんのり赤みを帯びていたのだが、夕日のせいで気がつけなかった。
 だが、照れに似た表情に、僕は可愛らしいな、と感じた。
「僕と付き合って欲しい、僕は本気だから。話を煙に撒くのは無し」
  僕に横顔を見られて不快だったのか、彼女は口を尖らせ言った。
「べ、別に……私が、アンタのこと好きな訳じゃないけど。付き合いたいって言うなら、付き合っても……良いけど」
 最後の方はほぼ、照れてか聞こえなかった。
 そこから、僕らは付き合い始めた。
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