君の笑顔を愛したい

秋村篠弥

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桜が舞い降りる

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==感情の無い少年


「櫻木桃子です、私は人間ではありません。ロボットです」
 彼女の凛々しい声が教室に響き、クラスメイトひとりひとりの耳に残る。
 ロボットです……ロボットです……人間ではありません、
 僕は面白い、と思った。彼女の発言に、ではない。彼女の存在にワクワクしたのだ。
 クラス内で疑う者は居ないだろう、ただ信じられない者は居る。僕もそうだ。
 茶髪を肩より少し伸ばした、童顔でありながらも、ハッキリとした顔の作りをした彼女の隣に立つ人は、博士というに相応しい人だった。白衣はまとっていないものの、彼女の責任者であり、所持者であるらしい。
「私の娘は、人並みのことは全て出来るし、言われなければ、ロボットだと分からないであろう」
 そう満足そうに言うと、頭を下げた。
「どうか、彼女を立派な人に出来るよう接してあげて欲しい。また、危害を加えた場合は直ちに破壊してもらって構わない。なるべく、君達のクラスメイトだと思って仲良くして欲しい、以上だ」
 そう言うと、彼は教室を後にした。
 この日から、クラスに櫻木桃子というロボットが仲間入りした。彼女は世界初のロボットの生徒らしい。
 休み時間は好奇心からか、ほとんどの者が彼女に疑問をぶつけていた。
「ロボットって、何なの?人の世界を乗っ取る為に偵察しに来たの?」
「あ、あの。ロボットに欲は有りません人を乗っ取るのは宇宙人などでは?」
 彼女が、困った様にそう返した。ぎこちなく話す仕草も、人間の様だった。
「欲、無いの?食べたり寝たりしないの?」
「食べられるもののみ、口に出来ます。睡眠は充電をする機会なのでもちろんします」
「へぇ、一人で起きれなくない?」
「一様充電中でも起きる事は可能ですし、充電が無くなるのには3日掛かります。余程のことがなければ、誰かに迷惑をかける事は有りません」
 彼女がそう嬉しそうに語る。その笑みは生きていた。
 ふと、隣にいた少女が言った。
「あのさ、敬語やめよ。みんな平等だし、何より同い年だし」
 その言葉に、彼女は恥ずかしそうに顔を俯けた。
「あの、私のデータにタメ口が入っていないのです。博士は焦っていた様で」
 そう言われた少女は、優しく微笑んだ。
「じゃあさ、覚えたら良いじゃん。教えてあげるから」
 きっと彼女が一番得意としているのは、記憶だろう。何せ学校に学びにくるのだから。
「あ、ありがとうございます!ありがたく教わらせて頂きます!」
 元気良く言った、彼女。その表情は人間の物で、本当に美しかった。


 僕が彼女と初めて話したのは、この日からしばらくして、誰もいない図書室だった。
 だが、話しかけたのは僕からじゃない。彼女から、声を掛けてくれた。
 あの日、僕は好きな作家の新作を読んでいた。だから、隣からの視線に中々気が付かなかった。
「あのー、」
「うわっ!」
 いきなり人型が居た事に驚いたが、何よりも櫻木桃子だった事に倍驚いた。彼女は、僕より人気があり、人間らしい。だから、僕は彼女を観察していることがとても楽しかった。
 人間らしいロボットと、人間らしさがない、僕。
「何でここにいるんだ?」
 僕の問いに、彼女は答えを選んでいるのか、考える仕草をした。
「この学校の生徒だから、だよ」
 いつの間にか教えこまれたタメ口も、今では違和感の無いものになっていた。
「………。」
 僕の視線に、彼女は焦って謝った。
「ご、ごめんなさい!初めてお話しする方にタメ口は、さすがに調子に乗り過ぎました!大変申し訳ありません!」
 勢い良く下げられた頭に、僕は急いで抗議した。
「あ、いやっ、僕は君の存在に驚いただけだよ。馴れ馴れしいとか思ってないし。タメ口の方が堅くなくて良いよ」
 そう言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を上げ視線を逸らした。
「ありがとう」
「君は、本を借りに来たの?」
「ああっ、そう言う意味で聞いてたの?いや、私は貴方に聞きたい事があって、貴方を探していたの………」
 僕に聞きたい事?何だろう。
「あの、貴方は何故、」
 いきなり本題に入られ、緊張し生唾を呑んだ。
「何故、私を見ているの?」
「えっ?」
「実は、私にはカメラがいくつも備え付けられてて、私が危害を加えられた時用にあって。そのカメラが貴方の視線を記録してたから」
「あ、ご、ごめん。見惚れてたんだ」
「こ、ここに来てナンパですかっ?」
 驚いた彼女は、敬語が飛び出てしまう。
その敬語も、プログラムされたものなのだろうか?
人はテンパるとチグハグになる、というプログラム。
「違うよ、君が羨ましいんだ。人間らしい温かみがあって、表情が豊かで」
「羨ましい、ですか。私だって、貴方が羨ましいです」
 彼女は、俯いた。そんな悲しそうな表情、僕はしない。
僕の方が、君の事が羨ましい。
スタートは全然違うのに、僕は何年もかけて生きているのに、チートじゃないか。そんな完璧な“人間”を持っているなんて。
「貴方は人間です、私は………ロボットなんですよ。いつ捨てられるか分からない、存在さえ主張出来ない、歩けても、博士の手の中で生かされているだけ……。悲しい事です」
 ロボットでも、そんな事考えるんだな。
 僕は正直驚いていた。でも、掛ける励ましの言葉が思い当たらなかったから、
「敬語」
 と、静かに指摘した。すると、彼女はまた恥ずかしそうに俯いたが、微笑んでいた。
 こんな時には、昔から人と接していたら、と考えてしまう。もっとマシな励ましは出来た。絶対に。
「私の、温かみは、全て見繕い。残念だけど、貴方が自分の心で温かみを感じているだけ…本当に温かいのは、貴方の心よ」
「僕の、心?」
 そんな事考えてもみなかったし、言っている事が理解出来ない。
「人の心が物事に寒暖を付けるの。私は何を言っても、分からない、本当に合ってるのか分からない」
 僕は、自信なさげに声が小さくなる彼女に、言った。
「合ってるとか、合ってないとか、そもそもそんな問題こそ無いんだよ」
 彼女は、間抜けな顔をして僕を見た。
「どういう意味?ロボットは、人間らしくなきゃいけないって、決まってる。人間は、自由に生きれるって決まってる。だから、貴方は自由でも、私は人間らしく振る舞わなければ、ロボットじゃなくなるんだよ?」
「そんな事、無いよ。僕は人間っていう定理に縛られてる」
「そうなの?」
 その言葉に、僕は頷いた。
「私は…人間らしく、振る舞えてるかな?」
「君がそう、振る舞いたいなら、きっと振る舞えてるよ」
「そっか、そう貴方に言ってもらえたら、十分ね」
 そう言って笑った彼女に、僕は感動した。
 何故、その様なヒマワリが咲いた様な、表情をするのだろう?これも、プログラムなのか?
 彼女の表情には、躊躇が無い。作り物では無い気がして、いちいち感動を覚える。
「僕は、君が好きだ。人間らしく、美しいところが」
 この時、何でそんな事を言ったのか分からない、だが彼女は驚いて、ついでに涙ぐんで呟いた。
「ありがとぅ」
 そう言うと、踵を返し図書室を飛び出した。
「ま、待って!」
 僕が叫ぶと、彼女は目元を拭いながら背を向け言う。
「また、明日」
 そして、走り去って行った。
 僕は口から出てしまった言葉で、彼女を泣かせてしまった事に複雑な気持ちを抱いた。でも、ありがとうと言っていたから不快には受け取っていないはずだ。
 そもそも、ロボットである彼女に不快感があるかは不明だが。




==誰かの手上のモノ


 どう受け止めたら良いのか、検索しても該当するモノがなかった。“好き”というのは、好意を示す言葉。それをありがとうで返すのは可笑しいのだろうか?同情した方が良かったのかな?
 でも、好意を向けられたら、むず痒く、恥ずかしいモノだってされてる。
 もし、心臓ってモノがあったらもっと感情を身近に感じられたかもしれない。私には、心臓みたいなモノがあるけれど、走ったりしないとバクバクしない。
 やはり、私は不細工だ。
 そんな私を心から、受け入れてくれた彼は……私がロボットだと本当に分かっているのだろうか?
 いや、分かってないはずは無い。ロボットだから、私に興味を持ってくれたんだ。
 また明日…会話出来たら、色々な事が学べるだろうか?例え学べなくても、何故だか、とても楽しみだ。
「そう言えば、名前、聞いてない…。」
もちろん、聞かなくても知ってるのだけれど。
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