この声が届く限り

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病院

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次の日、頭の中はずっとモヤモヤしていた。

「歌音何かあった?」

机を覆い被さりながら溜息をついている私に、杏は話しかけてくれる。

「もうCDショップに行けないかも」

と嘆きながら杏に説明する。
なるほどねと頷き、

「なんか訳アリな感じだね、でもこのままだと絶対後悔するよ」

それに対して疑問に思っていると、杏はお見通しな顔をしていた。

「奏斗のこと好きなんでしょ」

机から飛び上がり動揺を隠せない私の慌て方に杏はお腹を抱えて笑っている。

「歌音の行動見てれば分かるよ、でもその様子だと自分で気付いたのは最近みたいだね」

杏には敵わない。
確かに私自身、気持ちに気付いたのは昨日のことだから。

「行ってきなよ」

杏の一言に押され、会いに行くことに決心がついた。



チャリンチャリン

「いらっしゃいませ」

その声がいつものあの声じゃないことにすぐ気付く。

「すみません、奏斗さんはいますか?」

別の店員さんに話しかけた。

「坂口さんなら、今日は病院で休みだよ」

病院という言葉に頭の中が「?」でいっぱいになる。

「どこか悪いんですか?」

「詳しいことは店長が分かると思うけど今日は不在でね」

そうなんですかと顔を下げる。

「でも確かここからそう遠くない病院だったよ、駅の近くの」

それを聞いて心当たりはあった、駅の近くというと羽深中央病院という大きな病院しかない。
ありがとうございました、と深々頭を下げて店を出る。
整理がつかないまま無我夢中で走った。



いつ見てもここの病院は大きい。
最近開拓して前よりさらに大きさは増していた。
だが、評判がいいと有名な病院だ。
中に入ると広い待合広場があり、沢山の人が座っていた。
とりあえず受付の所まで行きフロントの人に話しかける。

「すみません、奏斗と言う患者さん来ていませんか」

「ご苗字を伺ってもよろしいですか?」

少し戸惑ったがさっきのCDショップの店員さんが言っていたことを思い出す。

「坂口です」

かしこまりました少しお掛けになってお待ち下さい、と言われ近くの椅子に座る。
ゆっくり自分の気持ちを落ち着かせながら考えた。
実際ここまで来て私は何がしたいのだろうか、奏斗からしたらいい迷惑ではないか。
昔から何も考えずに突っ走ってしまう性格な為、今この状況に不安で仕方なかった。

「あの、坂口くんのお知り合いですか?」

看護婦さんが話しかけてきた。
はい、と口にすると、

「坂口くん丁度さっき診察終わって帰って行ったところなんです、でも丁度良かった」

看護婦さんは書類の入った封筒を私に渡してきた。

「これ坂口くんに渡してもらえますか?本人に渡そうと思ったんだけどもういなくて、きっと本人も辛いと思うから支えになってあげて下さい」

お願いします、と言って仕事へ戻っていった。
私が奏斗の彼女と思われてしまったようだが、支えてあげてってそんなに深刻な病気なのか。
封筒を眺めながらしばらく動けなかった。


さっきまで全速力で走っていた道をとぼとぼ歩く。
また封筒に目をやり、この中身を見たら奏斗がどうして病院に通っているのかが分かる、でもそんなこと出来るはずもない。
奏斗の口から聞く前に全てを知ってしまうことが怖かったから。
どっち道この封筒を本人に渡さなければならない、一か八かでそのままCDショップに足を向ける。

「歌音」

遠くの方からこちらを見て私の名前を呼ぶ人がいた。
その人はこちらに歩み寄ってくる。

「さっき店に寄ったら俺のこと訪ねてきた人がいたって聞いて、まさかと思ってたんだけど」

その人は奏斗だった。
やはり病院のあと店に寄っていたらしい、そして彼は私の持っていた封筒に目をやる。

「それ」

何も言わずに手渡そうとした。

「何か聞いた?」

彼は今にも感情に押し潰されそうな顔をしている。
知られたくないのだろう。

「何も聞いてないよ」

奏斗は黙っている。

「もし、何か悩みがあるなら私に相談してくれたら」

この時、私はただ奏斗に手を差し伸べたかった。
1人で抱え込まないでって、伝えたかった。

なのに


「それで俺の助けになるとでも思ってるの?」

奏斗の目が鋭く冷たく冷めきっていた。

「歌音に俺の気持ちなんてわからないよ」

その彼の言葉にショックどころか頭が真っ白になる。

無意識に言葉を放っていた。

「そうやって相手と向き合おうとしない人の気持ちなんて、分かりたくもないよ」

もうその場から離れたくて無理やり封筒を押し付け、走って行こうとした。その時、封筒が落ちて何枚かはみ出して
しまい3文字の言葉が目に入った。

「喉頭癌」という文字が。

だが、そのまま走り去っていた。


私は知らなかったが、この時奏斗は下を向きながら泣いていた。

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