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10.発動
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今日はカードゲームの日だ。
相変わらず、僕は最大の数字を取られ続けていた。
自分の魔力量への信頼性が揺らいだ今となっては、進歩が無い状態は苦しい。
おまけに、外は大雨で、さらに大風まで吹いていた。
まるで、僕の先行きが険しいことを暗示しているかのようだった。
パヒーネスはこのような天候になることが滅多にないことらしく、レムは目を丸くしていた。
そして、いつもと違うのは天気だけではなかった。
何故か、場の空気がいつもと違い、緊張感のようなものが漂っている。
違う点は他にもある。今日はセレがいなかった。
代わりに見知らぬ女性がいた。
「貴方がヒカリね?」
その女性が、僕に笑顔を向けながら言ってきた。
燃えるように赤い髪、ピンク色のドレス。150cmほどの身長である。
「えっと……貴方は?」
「私はファラ。今日はセレの代わりに、私が訓練に付き合うわ」
その女性は、挑むような口調で言ってきた。
身長は僕より低いのだが、威厳のようなものを感じる態度だった。
どうやら、この女性が皆の緊張感の原因らしい。
ついでに言えば、彼女は僕に好意的でなさそうだ。
レムの様子を窺うと、彼女は何となく不満げだった。
ファラがこの場に参加することは、彼女が望んだことではないらしい。
今まで、レムは僕のことを嫌っている人達を遠ざけてくれていた。
だから、僕は嫌味を言われたりすることもなかったのだ。
レムですら強く出られないらしい、ファラとは一体何者なのだろう?
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私は、貴方の様子を見てくるように言われただけだから」
「……えっと……誰に?」
「そんなことはどうでもいいでしょ? じゃあ、始めましょうか」
ファラは、勝手に話を打ち切ってしまった。
レムだけでなく、ミミもソトも、不満げな様子だが何も言わなかった。
ゲーム自体はいつもと同じように進んだ。
僕は、幸運に恵まれた時以外は負け続けた。
珍しいと感じたのは、レムが負ける度に不機嫌そうにしていたことだった。
何か、ファラには負けたくない理由があるらしい。
「弱いのね、貴方」
本日のゲームは終了、というタイミングでファラに言われた。
彼女は、常に自信に満ちた表情でゲームを進め、見事に一位の成績だった。
「うん、そうだね……」
「そんな状態で、恥ずかしくないの?」
ファラは呆れた様子だった。
僕の弱さが想像以上だったのだろう。
「ファラ、そんな言い方は失礼ですわ!」
レムが怒ったように言った。
「レム様、この異世界人を選んだのは貴方でしょう? 聞けば、この人の魔力量は大したことがないそうではありませんか。貴方のせいでローファが恥をかくかもしれないのです。もっと責任を感じていただかないと困ります」
「ヒカリ様は素晴らしい方ですわ。私の目に狂いはありません!」
「本当にそうでしょうかね……」
ファラは、僕のことを全く信用していないようだった。
それにしても、レムとこれほど仲が悪い人がいるとは思わなかった。
てっきり、彼女は誰にでも愛される存在なのかと思っていたのだ。
この城でのレムは、まるでお姫様のように扱われている。
ランゼローナ様だって、レムのことはそれなりに気に入っている様子だったのに……。
「今日のことは、とてもローファにそのまま伝えられないわね。あの子の具合がもっと悪くなったら困るもの」
「ローファ様には、何もかも順調だと伝えれば良いのです。必ず事実にしてみせますわ」
「期待していますよ」
明らかに本心ではない口調でファラが言った。
レムはとても不快そうな様子だった。
その時、部屋の中に、カードが床に落ちる音が響いた。
緊張で手が滑ったのか、ミミがカードを取り落としたのだ。
「す、すいません!」
ミミが慌ててカードを拾おうとする。
ソトもそれに手を貸そうとした。
僕もそれを手伝おうとした、その時だった。
カードが、一箇所に集まった。
手で整えた時のように、綺麗に積み上がった状態になる。
「えっ……?」
ミミが唖然とする。
全員が、一様に驚いていた。
「……どういうことなの? 物を動かす魔法は、発動までにもっと時間がかかるはずよ! 今のは……まさか……!」
ファラが、僕を凝視してから首を振った。
知りたくなかった事実を知ってしまった、といった様子だった。
「ヒカリ様!」
レムが、歓喜のあまり僕に抱きついてきた。
僕は固まってしまった。
彼女は、ミミ以外の人に対して、このような行為をしたことがなかったのだ。
ミミは、信じられないものを見るような目をしている。
ソトの反応も同じようなものだった。
「えっと……何が起こったのかな?」
状況が理解できず、僕は尋ねた。
「ヒカリ様は、物理的に効果のある魔法を、一瞬で使ってみせたのですわ! この世界の誰もが不可能だったことを、ヒカリ様は成功させたのです!」
「……それは凄いね」
褒められているみたいなのに、全然嬉しいと感じない。
さっきの魔法は、完全にまぐれだった。
とっさにカードを拾おうとしたら、偶然魔法が発動したのである。
「……ローファに、良い報告ができそうで嬉しいわ。これからも頑張ってね」
ファラは、非常に険しい顔をしたまま部屋を後にした。
先ほどまで散々馬鹿にしていた相手が、突然誰にも使えないような魔法を使ったことがショックだったのだろう。
「……ファラって、一体何者なの?」
「ファラはローファ様のお姉さんなのですわ。ローファ様のことを呼び捨てにする権利のある者は、この世界でもファラだけです」
そういえば、ファラはローファ様を「ローファ」と呼んでいた。
親族である可能性に、もっと早く気付くべきだった。
「ファラは、魔力の順位は七位なのですが、ローファ様の姉であるために、ローファ様に様々な助言ができるのですわ。異世界人をこの世界に招くことに、ファラは最後まで反対していました。自分の反対を押し切ってまで、ローファ様が頑なに自分の主張を通したのは、私とランゼローナ様がそそのかしたせいだと思い込んでいるのです。そのために、私やヒカリ様のことを嫌っているのですわ」
「……」
この世界にも、政治的な対立ってあるんだ……。
その中心になってしまったことが、何だか申し訳ない気分だった。
相変わらず、僕は最大の数字を取られ続けていた。
自分の魔力量への信頼性が揺らいだ今となっては、進歩が無い状態は苦しい。
おまけに、外は大雨で、さらに大風まで吹いていた。
まるで、僕の先行きが険しいことを暗示しているかのようだった。
パヒーネスはこのような天候になることが滅多にないことらしく、レムは目を丸くしていた。
そして、いつもと違うのは天気だけではなかった。
何故か、場の空気がいつもと違い、緊張感のようなものが漂っている。
違う点は他にもある。今日はセレがいなかった。
代わりに見知らぬ女性がいた。
「貴方がヒカリね?」
その女性が、僕に笑顔を向けながら言ってきた。
燃えるように赤い髪、ピンク色のドレス。150cmほどの身長である。
「えっと……貴方は?」
「私はファラ。今日はセレの代わりに、私が訓練に付き合うわ」
その女性は、挑むような口調で言ってきた。
身長は僕より低いのだが、威厳のようなものを感じる態度だった。
どうやら、この女性が皆の緊張感の原因らしい。
ついでに言えば、彼女は僕に好意的でなさそうだ。
レムの様子を窺うと、彼女は何となく不満げだった。
ファラがこの場に参加することは、彼女が望んだことではないらしい。
今まで、レムは僕のことを嫌っている人達を遠ざけてくれていた。
だから、僕は嫌味を言われたりすることもなかったのだ。
レムですら強く出られないらしい、ファラとは一体何者なのだろう?
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私は、貴方の様子を見てくるように言われただけだから」
「……えっと……誰に?」
「そんなことはどうでもいいでしょ? じゃあ、始めましょうか」
ファラは、勝手に話を打ち切ってしまった。
レムだけでなく、ミミもソトも、不満げな様子だが何も言わなかった。
ゲーム自体はいつもと同じように進んだ。
僕は、幸運に恵まれた時以外は負け続けた。
珍しいと感じたのは、レムが負ける度に不機嫌そうにしていたことだった。
何か、ファラには負けたくない理由があるらしい。
「弱いのね、貴方」
本日のゲームは終了、というタイミングでファラに言われた。
彼女は、常に自信に満ちた表情でゲームを進め、見事に一位の成績だった。
「うん、そうだね……」
「そんな状態で、恥ずかしくないの?」
ファラは呆れた様子だった。
僕の弱さが想像以上だったのだろう。
「ファラ、そんな言い方は失礼ですわ!」
レムが怒ったように言った。
「レム様、この異世界人を選んだのは貴方でしょう? 聞けば、この人の魔力量は大したことがないそうではありませんか。貴方のせいでローファが恥をかくかもしれないのです。もっと責任を感じていただかないと困ります」
「ヒカリ様は素晴らしい方ですわ。私の目に狂いはありません!」
「本当にそうでしょうかね……」
ファラは、僕のことを全く信用していないようだった。
それにしても、レムとこれほど仲が悪い人がいるとは思わなかった。
てっきり、彼女は誰にでも愛される存在なのかと思っていたのだ。
この城でのレムは、まるでお姫様のように扱われている。
ランゼローナ様だって、レムのことはそれなりに気に入っている様子だったのに……。
「今日のことは、とてもローファにそのまま伝えられないわね。あの子の具合がもっと悪くなったら困るもの」
「ローファ様には、何もかも順調だと伝えれば良いのです。必ず事実にしてみせますわ」
「期待していますよ」
明らかに本心ではない口調でファラが言った。
レムはとても不快そうな様子だった。
その時、部屋の中に、カードが床に落ちる音が響いた。
緊張で手が滑ったのか、ミミがカードを取り落としたのだ。
「す、すいません!」
ミミが慌ててカードを拾おうとする。
ソトもそれに手を貸そうとした。
僕もそれを手伝おうとした、その時だった。
カードが、一箇所に集まった。
手で整えた時のように、綺麗に積み上がった状態になる。
「えっ……?」
ミミが唖然とする。
全員が、一様に驚いていた。
「……どういうことなの? 物を動かす魔法は、発動までにもっと時間がかかるはずよ! 今のは……まさか……!」
ファラが、僕を凝視してから首を振った。
知りたくなかった事実を知ってしまった、といった様子だった。
「ヒカリ様!」
レムが、歓喜のあまり僕に抱きついてきた。
僕は固まってしまった。
彼女は、ミミ以外の人に対して、このような行為をしたことがなかったのだ。
ミミは、信じられないものを見るような目をしている。
ソトの反応も同じようなものだった。
「えっと……何が起こったのかな?」
状況が理解できず、僕は尋ねた。
「ヒカリ様は、物理的に効果のある魔法を、一瞬で使ってみせたのですわ! この世界の誰もが不可能だったことを、ヒカリ様は成功させたのです!」
「……それは凄いね」
褒められているみたいなのに、全然嬉しいと感じない。
さっきの魔法は、完全にまぐれだった。
とっさにカードを拾おうとしたら、偶然魔法が発動したのである。
「……ローファに、良い報告ができそうで嬉しいわ。これからも頑張ってね」
ファラは、非常に険しい顔をしたまま部屋を後にした。
先ほどまで散々馬鹿にしていた相手が、突然誰にも使えないような魔法を使ったことがショックだったのだろう。
「……ファラって、一体何者なの?」
「ファラはローファ様のお姉さんなのですわ。ローファ様のことを呼び捨てにする権利のある者は、この世界でもファラだけです」
そういえば、ファラはローファ様を「ローファ」と呼んでいた。
親族である可能性に、もっと早く気付くべきだった。
「ファラは、魔力の順位は七位なのですが、ローファ様の姉であるために、ローファ様に様々な助言ができるのですわ。異世界人をこの世界に招くことに、ファラは最後まで反対していました。自分の反対を押し切ってまで、ローファ様が頑なに自分の主張を通したのは、私とランゼローナ様がそそのかしたせいだと思い込んでいるのです。そのために、私やヒカリ様のことを嫌っているのですわ」
「……」
この世界にも、政治的な対立ってあるんだ……。
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