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32話 魔導師リーザ
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僕達は、家の中に隠れていたドネットを拘束し、ガルシュやオクトと共に警備隊へ引き渡した。
レイリスは、オクトに殴られていたが、特に異常はないようだった。
しかし、念のために、警備隊の回復者の治療を受けた。
ラナは無傷だった。
しかし、精神的なダメージは凄まじかったらしく、しばらくは怒りで震えていた。
ラナがガルシュを刺した直後、トドメを刺そうとするラナを必死に宥めて、何とかやめさせた。
「……こいつ、このまま死なないかしら?」
直接の被害を受けたラナだけでなく、リーザも完全に据わった目でガルシュを見下ろしていた。
確かに、ガルシュがこのまま死んでくれた方が、世の中のためだろう。
しかし、故意にこの男を死なせるわけにはいかない。
そう熱心に主張したのは、意外にもソフィアさんだった。
それ自体は正論なのだが、僕達はそれを複雑な気分で聞いていた。
警備隊の事情聴取や、レイリスの治療などが終わって、僕達はセリューの街の宿に帰った。
盗賊団の残党の捜索は、警備隊に任せた。
セリューからの逃走経路は既に塞いでいるし、主なメンバーは既に捕らえたのだから、残りの者達もすぐに捕まるだろう。
その夜、僕達は祝勝会を開いた。やはり、一番積極的だったのはラナだった。
ひょっとしたら、嫌な気分を忘れたかったのかもしれない。
「リーザは、普通に攻撃魔法を使ってたね。驚いたよ」
僕が話を振ると、リーザは困った様子だった。
「……自分でも驚いたわよ。以前は、撃っても拡散して、ほとんど前に飛ばなかったんだから」
彼女は、不思議そうに首をひねっていた。
「リーザは、本当は魔導師を専門に出来るのだと思います。まともに攻撃魔法を使えなかったのは、心理的な要因によるものでしょう」
ソフィアさんの言葉は、意外なものだった。
「心理的な要因……ですか?」
「リーザは、ヨネスティアラ様に憧れて冒険者になったのでしょう? おそらく、あの方の回復者として活躍している印象が、攻撃魔法を忌避する心理に繋がってしまったのでしょう。だから、私がヨネスティアラ様のイメージを崩す話をしたら、今まで抑制されていた力が発揮された、というわけです」
「……」
リーザは、思い当たる節がある様子だった。
「これからは、攻撃魔法を使う訓練をすればいいと思います。そうすれば、パーティーになくてはならない存在になれるでしょう」
「……ソフィアさん、ありがとうございます」
「私は大したことをしていません。リーザには、元々才能があった。それだけのことですよ」
リーザが魔導師として力を発揮できれば、このパーティーにとっては大きな戦力だ。
そして、リーザが冒険者を辞める動機がなくなったことも大きい。
きっと、このパーティーは飛躍的に強くなる。
そんな気がした。
しかし、喜んでばかりはいられなかった。
どうしても、確認しておかなければならないことがあるのだ。
「ソフィアさん……貴方は、人を撃つ時だけは、絶対に狙いを外さないんですね」
僕が恐る恐る尋ねると、ソフィアさんは困った様子で言った。
「やはり変だと思いますか? 動物を撃つのは嫌なのに、人を撃つのは平気だなんて」
「……普通の人は、逆だと思いますよ」
そう言うと、ソフィアさんは悲しそうな顔をした。
「ルークさんも、シルヴィアと同じことを仰るのですね」
「シルヴィア?」
「ヨネスティアラ様のパーティーの魔導師です。ルークさんも、会ったことがあるのではないですか?」
「ああ……」
あの、黒髪の女性のことだろう。
「このことを知られると、皆さんとても不思議そうにするので、あまり他人には知られないようにしています」
「まあ、冒険者は『人を撃つのは嫌だ』なんて言ってられないよな! あたしだって……ガルシュみたいな奴が相手だったら、蜂の巣にしてやりたいし……」
ラナは、左胸に手を当てながら言った。
確かに、今までにソフィアさんが撃った相手は悪人だけだ。
人を撃つことを楽しんでいる様子はない。
言動に問題はあるものの、悪い人ではない、と思うのだが……。
その夜、僕の部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、そこには意外な人物がいた。
「レイリス?」
こんな時間に、一体何をしに来たのだろう?
こちらを見上げるレイリスからは、何かを思い詰めているような印象を受けた。
僕は、レイリスを部屋に招き入れる。
それからしばらく、彼女は口を開かなかった。
「僕に、何か用?」
尋ねて促すと、彼女はようやく口を開いた。
「……助けてくれて、ありがとう。それと……」
それだけ言って、レイリスは再び言い淀んだ。
「……それと?」
「……貴方を殺そうとしたこと、まだ謝ってなかったから。ごめんなさい」
「ああ、うん……」
そういえば、あの一件は今までうやむやになっていた。
「あと……」
「まだ何かあるの?」
「……やっぱりいい。おやすみなさい」
それだけ言うと、レイリスはわざわざ精霊を呼び出し、魔法で姿を消してから部屋を出て行った。
……感謝、されてるんだよな?
僕をパーティーに加えることに、レイリスは賛成してくれた。
そのおかげで、僕は今このパーティーにいる。
そういう意味では、僕もレイリスに感謝していた。
しかし、今でも彼女はソフィアさんにべったりと張り付いている。
僕も含めて、他のメンバーとはあまり話さない。
一体、レイリスは僕のことをどう思っているのだろう?
いまだに、それがよく分らなかった。
レイリスは、オクトに殴られていたが、特に異常はないようだった。
しかし、念のために、警備隊の回復者の治療を受けた。
ラナは無傷だった。
しかし、精神的なダメージは凄まじかったらしく、しばらくは怒りで震えていた。
ラナがガルシュを刺した直後、トドメを刺そうとするラナを必死に宥めて、何とかやめさせた。
「……こいつ、このまま死なないかしら?」
直接の被害を受けたラナだけでなく、リーザも完全に据わった目でガルシュを見下ろしていた。
確かに、ガルシュがこのまま死んでくれた方が、世の中のためだろう。
しかし、故意にこの男を死なせるわけにはいかない。
そう熱心に主張したのは、意外にもソフィアさんだった。
それ自体は正論なのだが、僕達はそれを複雑な気分で聞いていた。
警備隊の事情聴取や、レイリスの治療などが終わって、僕達はセリューの街の宿に帰った。
盗賊団の残党の捜索は、警備隊に任せた。
セリューからの逃走経路は既に塞いでいるし、主なメンバーは既に捕らえたのだから、残りの者達もすぐに捕まるだろう。
その夜、僕達は祝勝会を開いた。やはり、一番積極的だったのはラナだった。
ひょっとしたら、嫌な気分を忘れたかったのかもしれない。
「リーザは、普通に攻撃魔法を使ってたね。驚いたよ」
僕が話を振ると、リーザは困った様子だった。
「……自分でも驚いたわよ。以前は、撃っても拡散して、ほとんど前に飛ばなかったんだから」
彼女は、不思議そうに首をひねっていた。
「リーザは、本当は魔導師を専門に出来るのだと思います。まともに攻撃魔法を使えなかったのは、心理的な要因によるものでしょう」
ソフィアさんの言葉は、意外なものだった。
「心理的な要因……ですか?」
「リーザは、ヨネスティアラ様に憧れて冒険者になったのでしょう? おそらく、あの方の回復者として活躍している印象が、攻撃魔法を忌避する心理に繋がってしまったのでしょう。だから、私がヨネスティアラ様のイメージを崩す話をしたら、今まで抑制されていた力が発揮された、というわけです」
「……」
リーザは、思い当たる節がある様子だった。
「これからは、攻撃魔法を使う訓練をすればいいと思います。そうすれば、パーティーになくてはならない存在になれるでしょう」
「……ソフィアさん、ありがとうございます」
「私は大したことをしていません。リーザには、元々才能があった。それだけのことですよ」
リーザが魔導師として力を発揮できれば、このパーティーにとっては大きな戦力だ。
そして、リーザが冒険者を辞める動機がなくなったことも大きい。
きっと、このパーティーは飛躍的に強くなる。
そんな気がした。
しかし、喜んでばかりはいられなかった。
どうしても、確認しておかなければならないことがあるのだ。
「ソフィアさん……貴方は、人を撃つ時だけは、絶対に狙いを外さないんですね」
僕が恐る恐る尋ねると、ソフィアさんは困った様子で言った。
「やはり変だと思いますか? 動物を撃つのは嫌なのに、人を撃つのは平気だなんて」
「……普通の人は、逆だと思いますよ」
そう言うと、ソフィアさんは悲しそうな顔をした。
「ルークさんも、シルヴィアと同じことを仰るのですね」
「シルヴィア?」
「ヨネスティアラ様のパーティーの魔導師です。ルークさんも、会ったことがあるのではないですか?」
「ああ……」
あの、黒髪の女性のことだろう。
「このことを知られると、皆さんとても不思議そうにするので、あまり他人には知られないようにしています」
「まあ、冒険者は『人を撃つのは嫌だ』なんて言ってられないよな! あたしだって……ガルシュみたいな奴が相手だったら、蜂の巣にしてやりたいし……」
ラナは、左胸に手を当てながら言った。
確かに、今までにソフィアさんが撃った相手は悪人だけだ。
人を撃つことを楽しんでいる様子はない。
言動に問題はあるものの、悪い人ではない、と思うのだが……。
その夜、僕の部屋の扉がノックされた。
扉を開けると、そこには意外な人物がいた。
「レイリス?」
こんな時間に、一体何をしに来たのだろう?
こちらを見上げるレイリスからは、何かを思い詰めているような印象を受けた。
僕は、レイリスを部屋に招き入れる。
それからしばらく、彼女は口を開かなかった。
「僕に、何か用?」
尋ねて促すと、彼女はようやく口を開いた。
「……助けてくれて、ありがとう。それと……」
それだけ言って、レイリスは再び言い淀んだ。
「……それと?」
「……貴方を殺そうとしたこと、まだ謝ってなかったから。ごめんなさい」
「ああ、うん……」
そういえば、あの一件は今までうやむやになっていた。
「あと……」
「まだ何かあるの?」
「……やっぱりいい。おやすみなさい」
それだけ言うと、レイリスはわざわざ精霊を呼び出し、魔法で姿を消してから部屋を出て行った。
……感謝、されてるんだよな?
僕をパーティーに加えることに、レイリスは賛成してくれた。
そのおかげで、僕は今このパーティーにいる。
そういう意味では、僕もレイリスに感謝していた。
しかし、今でも彼女はソフィアさんにべったりと張り付いている。
僕も含めて、他のメンバーとはあまり話さない。
一体、レイリスは僕のことをどう思っているのだろう?
いまだに、それがよく分らなかった。
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