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56話 精霊デルトロフィア
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ソフィアさんが新たに呼び出した精霊は、AAランクであるファレプシラよりも大きかった。
「……AAAランクの……精霊!?」
僕は愕然とする。
まさか、ファレプシラよりも大きな精霊を隠し持っていたなんて……。
この人は、まだ本気を出していなかったのか!
「さあ、どうなさいますか? 逃がすつもりはありませんし、正面から戦えば貴方に勝ち目はありませんよ?」
そう言って、ソフィアさんは笑った。
もし、ソフィアさんが相手を攻撃できたなら、勝負は簡単につくだろう。
ソフィアさんが3体の精霊を同時に呼び出したということは、その3体の力を同時に使える、ということを意味している。
その魔力を単純に合算すれば、ソリアーチェすら上回るはずだ。
戦うための役割を全て兼務し、大精霊よりも強力な精霊を操るなんて……この人は、本当に人間なのだろうか?
以前、ソフィアさんがソリアーチェに抱き付いたことがある。
その時、ソフィアさんが無事だったのは、ソリアーチェに攻撃する意思がなかったからだと思っていた。
しかし、違った。
精霊は、自分を扱えるだけの能力がある人間が好意を込めて触れた場合には、攻撃を加えないことが知られている。
ソリアーチェは、自分を扱えるほどの能力があるソフィアさんに対して、攻撃することが出来なかったのだ。
「ソフィアさんに敵意が無いなら、我々は争うべきではありません」
聖女様は、そう言って仲間を止めた。
あれは、かつて仲間だった者と戦うべきではない、という意味だと思っていた。
しかし、ひょっとしたらあれは、勝算の低い相手とむやみに戦うべきではない、という意味だったのかもしれない。
シルヴィアさん達が強いことは知っているが、彼女達ですら、ソフィアさんと比べれば見劣りするだろう。
「ソフィアさんは強い。私が知っている、誰よりも」
レイリスは僕に対してそう言った。
あれは、誇張でも思い込みでもなかったのだ。
これほどの精霊は、「大精霊の保有者よりも強い」とまで言われた、首領ですら扱えないだろう。
しかし、僕はふと気付く。
ソフィアさんには、あの3体の精霊の魔力を使って、長時間戦うことは不可能だ。
健康な僕でも、ソリアーチェの力を何度も使えば、これだけ消耗するのである。
ましてや、病気を抱えているソフィアさんが、ソリアーチェよりも強力な精霊を操るなんて自殺行為だ。
僕よりもソフィアさんの方が魔力の扱いに長けており、効率良く使えるはずだが、複数の精霊を同時に使うことは、それ自体が負担の大きい行為だ。
戦いが長引けば、無事では済まないだろう。
そのことを自覚しているから、彼女は「命をかける」と言ったのだ。
もう一度立ち上がろうとする。
しかし、やはり足に力が入らなかった。
急がなければ……時間がない!
ドラゴンベアは、どうするのか決めかねている様子だった。
しかし、ついに意を決したのか……自分の目の前に障壁を何枚も展開し、逃げ出した。
ソフィアさんは追撃をかける。
破壊者の魔法が使えるソフィアさんであれば、あの障壁を全て貫くことは難しくないはずだ。
しかし、ドラゴンベアは突然反転し、ソフィアさん目がけて突進した。
誘い出された……!
ソフィアさんは急停止した。
慌てた様子はない。
ドラゴンベアの作戦は読めていたようだ。
相手がこちらを攻撃しようとすれば、障壁を解除するしかない。
それをせずに膠着状態に戻るならば、実は相手を攻撃できないソフィアさんにとって、好都合な展開だろう。
ところが、ドラゴンベアは障壁を解除しなかった。
かなりの勢いを保ったまま、ソフィアさんに対して腕を振り下ろす。
破壊者の魔法で、自分の障壁ごとソフィアさんを叩き潰すつもりか……!
だが、甘い。
彼女は、かつてガルシュが障壁を破る瞬間を狙い、攻撃魔法を放ったことがあるのだ。
ソフィアさんは、完璧なタイミングで踏み込んだ。
ドラゴンベアが最後の障壁を破った瞬間に、相手の腕をかいくぐり突き飛ばす。
確実にソフィアさんの数倍は重さのある巨体が、遥か後方へと吹き飛ばされた。
ドラゴンベアは、その巨体を丸めるようにして転がる。
そして、ソフィアさんが展開した障壁にぶつかって止まった。
ドラゴンベアは、ほとんどダメージを受けていない様子で立ち上がった。
派手に吹き飛んだように見えるが、やはり押しただけだ。
攻撃する意思のない、ただの時間稼ぎである。
起き上がったドラゴンベアは、しばらくソフィアさんの様子を窺った。
もっと強い打撃も可能だったはずなのに、それをしなかった意図が分からないのだろう。
「そろそろ動けますか?」
ソフィアさんが僕に尋ねた。
「……トドメの一撃だけなら、何とかいけそうですが」
ようやく、僕は立ち上がることができた。
まだ全身の疲労感が残っているが、そんなことを気にしている場合ではない。
「充分です」
ソフィアさんは、余裕ありげに言った。
ドラゴンベアが吠えてソフィアさんに襲いかかる。
今度は、ソフィアさんが自分の前に障壁を展開した。
その壁に向かって、ドラゴンベアは一切減速せずに突っ込んだ。
障壁を破る際に発生する隙を、全く作らないようにするためだろう。
しかし、ソフィアさんにはそれも通用しなかった。
またしても完璧なタイミングで、まるで抱き付くようにして相手に飛び付く。
そのまま、ソフィアさんはドラゴンベアを押し倒すようにして、重なり合ったまま倒れ込んだ。
そして、僕はドラゴンベアの頭に跳び付いた。
接触した状態ならば、相手に障壁を展開される心配はない。
「楽しい時間をありがとうございました」
そう言って、ソフィアさんは笑った。
僕は、出力を絞った広範囲攻撃魔法を放つ。
両手から放たれた光が、ドラゴンベアの、岩のような大きさのある頭を飲み込んだ。
光が消えると、ドラゴンベアの頭は完全に消し飛んでいた。
接触状態で攻撃魔法を放ったことなどなかったが、こちらの手は無事なようだ。
最悪の場合、僕の両腕が消し飛ぶことも覚悟していたが、そうならなかったことに安堵する。
「ソフィアさん、僕達の勝ちです!」
僕は呼びかけた。
しかし、反応がない。
「……ソフィアさん!?」
僕は慌てて、ドラコンベアの胴体の上でぐったりしているソフィアさんを抱き起した。
ソフィアさんの息は乱れており、顔面は蒼白で、意識が混濁している様子だった……。
「……AAAランクの……精霊!?」
僕は愕然とする。
まさか、ファレプシラよりも大きな精霊を隠し持っていたなんて……。
この人は、まだ本気を出していなかったのか!
「さあ、どうなさいますか? 逃がすつもりはありませんし、正面から戦えば貴方に勝ち目はありませんよ?」
そう言って、ソフィアさんは笑った。
もし、ソフィアさんが相手を攻撃できたなら、勝負は簡単につくだろう。
ソフィアさんが3体の精霊を同時に呼び出したということは、その3体の力を同時に使える、ということを意味している。
その魔力を単純に合算すれば、ソリアーチェすら上回るはずだ。
戦うための役割を全て兼務し、大精霊よりも強力な精霊を操るなんて……この人は、本当に人間なのだろうか?
以前、ソフィアさんがソリアーチェに抱き付いたことがある。
その時、ソフィアさんが無事だったのは、ソリアーチェに攻撃する意思がなかったからだと思っていた。
しかし、違った。
精霊は、自分を扱えるだけの能力がある人間が好意を込めて触れた場合には、攻撃を加えないことが知られている。
ソリアーチェは、自分を扱えるほどの能力があるソフィアさんに対して、攻撃することが出来なかったのだ。
「ソフィアさんに敵意が無いなら、我々は争うべきではありません」
聖女様は、そう言って仲間を止めた。
あれは、かつて仲間だった者と戦うべきではない、という意味だと思っていた。
しかし、ひょっとしたらあれは、勝算の低い相手とむやみに戦うべきではない、という意味だったのかもしれない。
シルヴィアさん達が強いことは知っているが、彼女達ですら、ソフィアさんと比べれば見劣りするだろう。
「ソフィアさんは強い。私が知っている、誰よりも」
レイリスは僕に対してそう言った。
あれは、誇張でも思い込みでもなかったのだ。
これほどの精霊は、「大精霊の保有者よりも強い」とまで言われた、首領ですら扱えないだろう。
しかし、僕はふと気付く。
ソフィアさんには、あの3体の精霊の魔力を使って、長時間戦うことは不可能だ。
健康な僕でも、ソリアーチェの力を何度も使えば、これだけ消耗するのである。
ましてや、病気を抱えているソフィアさんが、ソリアーチェよりも強力な精霊を操るなんて自殺行為だ。
僕よりもソフィアさんの方が魔力の扱いに長けており、効率良く使えるはずだが、複数の精霊を同時に使うことは、それ自体が負担の大きい行為だ。
戦いが長引けば、無事では済まないだろう。
そのことを自覚しているから、彼女は「命をかける」と言ったのだ。
もう一度立ち上がろうとする。
しかし、やはり足に力が入らなかった。
急がなければ……時間がない!
ドラゴンベアは、どうするのか決めかねている様子だった。
しかし、ついに意を決したのか……自分の目の前に障壁を何枚も展開し、逃げ出した。
ソフィアさんは追撃をかける。
破壊者の魔法が使えるソフィアさんであれば、あの障壁を全て貫くことは難しくないはずだ。
しかし、ドラゴンベアは突然反転し、ソフィアさん目がけて突進した。
誘い出された……!
ソフィアさんは急停止した。
慌てた様子はない。
ドラゴンベアの作戦は読めていたようだ。
相手がこちらを攻撃しようとすれば、障壁を解除するしかない。
それをせずに膠着状態に戻るならば、実は相手を攻撃できないソフィアさんにとって、好都合な展開だろう。
ところが、ドラゴンベアは障壁を解除しなかった。
かなりの勢いを保ったまま、ソフィアさんに対して腕を振り下ろす。
破壊者の魔法で、自分の障壁ごとソフィアさんを叩き潰すつもりか……!
だが、甘い。
彼女は、かつてガルシュが障壁を破る瞬間を狙い、攻撃魔法を放ったことがあるのだ。
ソフィアさんは、完璧なタイミングで踏み込んだ。
ドラゴンベアが最後の障壁を破った瞬間に、相手の腕をかいくぐり突き飛ばす。
確実にソフィアさんの数倍は重さのある巨体が、遥か後方へと吹き飛ばされた。
ドラゴンベアは、その巨体を丸めるようにして転がる。
そして、ソフィアさんが展開した障壁にぶつかって止まった。
ドラゴンベアは、ほとんどダメージを受けていない様子で立ち上がった。
派手に吹き飛んだように見えるが、やはり押しただけだ。
攻撃する意思のない、ただの時間稼ぎである。
起き上がったドラゴンベアは、しばらくソフィアさんの様子を窺った。
もっと強い打撃も可能だったはずなのに、それをしなかった意図が分からないのだろう。
「そろそろ動けますか?」
ソフィアさんが僕に尋ねた。
「……トドメの一撃だけなら、何とかいけそうですが」
ようやく、僕は立ち上がることができた。
まだ全身の疲労感が残っているが、そんなことを気にしている場合ではない。
「充分です」
ソフィアさんは、余裕ありげに言った。
ドラゴンベアが吠えてソフィアさんに襲いかかる。
今度は、ソフィアさんが自分の前に障壁を展開した。
その壁に向かって、ドラゴンベアは一切減速せずに突っ込んだ。
障壁を破る際に発生する隙を、全く作らないようにするためだろう。
しかし、ソフィアさんにはそれも通用しなかった。
またしても完璧なタイミングで、まるで抱き付くようにして相手に飛び付く。
そのまま、ソフィアさんはドラゴンベアを押し倒すようにして、重なり合ったまま倒れ込んだ。
そして、僕はドラゴンベアの頭に跳び付いた。
接触した状態ならば、相手に障壁を展開される心配はない。
「楽しい時間をありがとうございました」
そう言って、ソフィアさんは笑った。
僕は、出力を絞った広範囲攻撃魔法を放つ。
両手から放たれた光が、ドラゴンベアの、岩のような大きさのある頭を飲み込んだ。
光が消えると、ドラゴンベアの頭は完全に消し飛んでいた。
接触状態で攻撃魔法を放ったことなどなかったが、こちらの手は無事なようだ。
最悪の場合、僕の両腕が消し飛ぶことも覚悟していたが、そうならなかったことに安堵する。
「ソフィアさん、僕達の勝ちです!」
僕は呼びかけた。
しかし、反応がない。
「……ソフィアさん!?」
僕は慌てて、ドラコンベアの胴体の上でぐったりしているソフィアさんを抱き起した。
ソフィアさんの息は乱れており、顔面は蒼白で、意識が混濁している様子だった……。
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