10 / 50
ラシードの事情
第1話
しおりを挟む
久しぶりに帰ってきた宮城を目にしても、不思議と感慨というものがわいてこなかった。最後に目にしたのは10年前。後見だった義母が他界し、その葬儀が終わった直後に実母と共に冤罪で捕われた時以来だろう。
巨大で厳めしい。それが自分の中に残る記憶だった。遠目では篝火に照らし出された宮城は幻想的で美しく見えたが、こうして城門の前に立って見るとなんだかくたびれきっているように見える。手入れも行き届いていないらしく、それが一層古ぼけた印象を与えていた。
「アブドゥル殿下、準備が整いました」
学び舎で学友として共に過ごした仲間の1人、バースィルが声をかけてくる。10年前のあの日、辺境へ護送される途中の宿で起こった火災で炎にまかれるところだったところを命がけで助けに来てくれた1人だ。
今では家柄だけで抜擢された近衛兵団長の代わりに近衛兵をまとめ上げる補佐官となっている。今回の作戦も彼が主導して立案されたものだ。
バースィル同様国の中枢へ入り込んでいる他の友人達の情報では、今現在、叔父を担ぎ上げて政を牛耳る連中に心底忠誠を誓っている者はほとんどいない状態だと聞いている。
これから宮城を制圧しに行くのだが、戦闘にもならないだろうと彼らは言っていた。叔父も彼を祭り上げたアルマース家の人間もこうして反乱が起こっていることをまだ知らない。しかもその反乱の中枢を担っているのが彼らを守るはずの近衛兵団だという事を予想すらしていないはずだ。
旧都に幽閉されている実母も既に解放し、味方である異母姉の元に預けてある。宮城の制圧はこの反乱の総仕上げといったところだ。
「では、行こうか」
成功は間違いないと確信している。それでも世の中に絶対というものは存在しない。一抹の不安と緊張をごまかす様に、まるでそこら辺を散歩するような気楽さで号令を発した。バースィルは頷くと城門の上で待機する兵士に合図を送る。すると程なくして重い鉄製の大扉が軋みを上げて開いた。
「お帰り、アブドゥル」
馬をゆるりと進めながら門をくぐったところでバースィルが小さく声をかけてくる。そこでようやく感慨がわいてきてしまい、不覚にも涙が溢れそうになる。
だが、本番はこれからだ。元々威厳なるものを持ち合わせていないにしても、総大将が泣いていては士気に関わる。手綱を握り直し、気持ちを引き締めた。
こうして私は10年ぶりに念願だった帰城を果たした。
巨大で厳めしい。それが自分の中に残る記憶だった。遠目では篝火に照らし出された宮城は幻想的で美しく見えたが、こうして城門の前に立って見るとなんだかくたびれきっているように見える。手入れも行き届いていないらしく、それが一層古ぼけた印象を与えていた。
「アブドゥル殿下、準備が整いました」
学び舎で学友として共に過ごした仲間の1人、バースィルが声をかけてくる。10年前のあの日、辺境へ護送される途中の宿で起こった火災で炎にまかれるところだったところを命がけで助けに来てくれた1人だ。
今では家柄だけで抜擢された近衛兵団長の代わりに近衛兵をまとめ上げる補佐官となっている。今回の作戦も彼が主導して立案されたものだ。
バースィル同様国の中枢へ入り込んでいる他の友人達の情報では、今現在、叔父を担ぎ上げて政を牛耳る連中に心底忠誠を誓っている者はほとんどいない状態だと聞いている。
これから宮城を制圧しに行くのだが、戦闘にもならないだろうと彼らは言っていた。叔父も彼を祭り上げたアルマース家の人間もこうして反乱が起こっていることをまだ知らない。しかもその反乱の中枢を担っているのが彼らを守るはずの近衛兵団だという事を予想すらしていないはずだ。
旧都に幽閉されている実母も既に解放し、味方である異母姉の元に預けてある。宮城の制圧はこの反乱の総仕上げといったところだ。
「では、行こうか」
成功は間違いないと確信している。それでも世の中に絶対というものは存在しない。一抹の不安と緊張をごまかす様に、まるでそこら辺を散歩するような気楽さで号令を発した。バースィルは頷くと城門の上で待機する兵士に合図を送る。すると程なくして重い鉄製の大扉が軋みを上げて開いた。
「お帰り、アブドゥル」
馬をゆるりと進めながら門をくぐったところでバースィルが小さく声をかけてくる。そこでようやく感慨がわいてきてしまい、不覚にも涙が溢れそうになる。
だが、本番はこれからだ。元々威厳なるものを持ち合わせていないにしても、総大将が泣いていては士気に関わる。手綱を握り直し、気持ちを引き締めた。
こうして私は10年ぶりに念願だった帰城を果たした。
0
あなたにおすすめの小説
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
真面目な王子様と私の話
谷絵 ちぐり
恋愛
婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。
小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。
真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。
※Rシーンはあっさりです。
※別サイトにも掲載しています。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる