終わりよければ総て良し

花影

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本編

おまけ

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ラシード5歳


「かあさま(生母の事)のヒラヒラ可愛い! 母上(正妃の事)のキラキラ綺麗!」

今宵、開かれる宴の為に盛装した2人の母の姿をみてアブドゥル皇子は感激していた。

「ねぇねぇ、僕も、僕もフリフリ、キラキラつけてみたい!」

皇子の無邪気なお願いに周囲は笑ってたしなめるが、普段は聞き分けのいい彼が頑として譲らない。

「仕方ないわねぇ」

正妃の一言ですぐさま子供用のドレスと装飾品が用意される。いずれも彼の姉達が身に付けていたものだ。着せてもらって皇子は大喜びしている。

「準備出来ているかの?」

そこへ皇帝が2人の奥方を迎えに来た。目ざとく父を見付けた皇子は、早速自分の艶姿を父親に見せる。

「ねぇ、ねぇ、父上、僕、綺麗?」
「ア、アブドゥル?」

リボンやフリルを多用した紅色のドレスを着てご満悦な皇子の姿を見て(しかも似合っている)いろんな意味で息子の将来を案じたファイサル3世だった。





ファラ5歳


「兄上ばかり狡いです! ファラも大きいお馬さんが欲しい!」
「ファラにはまだ早いわよ」

娘の我儘に母は優しく窘めるが、頑固な彼女は頷くことはなかった。こうなったら梃子でも動かなくなる。既に父親も兄達も説得を諦めていた。

「よし、よし、じいちゃんがいいお馬を選んであげよう」

結局、唯一の孫娘に甘い祖父が真っ先に折れた。ファラの粘り勝ちである。

「そうじゃのう、あのお馬はどうじゃ?」

放牧中の馬の群れの中から祖父が選んだのはジャルディードでは一般的な軍馬。それでも馬に携わる者が見れば一目で駿馬とわかる優秀な馬だった。

「あっちがいい」
「……」

ファラが指さした馬を見て長も他の家族達も絶句する。それは今現在ジャルディードで保有する馬の中で一番優秀な馬だった。

「……その隣におるのでも良いのじゃぞ?」
「あれがいい」

ファラはキッパリと言い切った。

「そ、そうか……ファラが言うのならそうしようかの……」

結局、孫娘に甘い祖父が折れることになる。それを聞き、ファラの父と兄は深いため息をついた。

「いいのか、親父? あれ、皇帝に献上する奴だろう?」
「構わん。価値が分かる人間に乗ってもらった方が馬も喜ぶ」
「献上品、どうするんだ?」
「あんな奴(ラシードの叔父の事)にはそこらへんので十分だ」
「まあ、いいけどさ……」

その年、皇帝へ献上された馬は最初に長がファラに勧めた馬となった。それでも馬の価値を知らない皇帝はジャルディードから贈られた馬を大層喜んだらしい……。





母の気遣い(第7話終了後のお話)


ジャルディードを出て最初の宿泊先でファラは母が用意してくれた荷物を開けていた。ジャルディードの馬具職人が作った頑丈な鞄には服や小物がびっしりと詰め込まれている。

「あった、明日はこれ着よう」

ファラは中に入っていた乗馬服一式を取り出して安堵する。一緒にいられるのは嬉しいけど、相乗りは注目を集めすぎて恥ずかしい。途中で着替えて自分の馬に乗りたかったのだが、ラシードがファラの足を心配してそれを許してくれなかったのだ。
明日は先に着替えて準備してしまえば大丈夫だろうと、荷物を部屋に運んでもらい、彼がいない間に用意していたのだ。

「あれ、なんだろう、これ」

荷物の中に綺麗な紙の包みがあった。手に取ってみると母の字で「ファラへ」と書かれている。思わぬ贈り物に喜んで開けてみるが、中に入っていたものを広げて思わず固まる。

「何、これ……」

それは今流行りの夜着。ボタンの類はなく胸元の赤いリボンで止めるだけで、丈もお尻がようやく隠れる長さ。ほとんど透けて見える生地に上品なレースがあしらわれていて、夜着と言うよりは煽情的な下着にも見える。
手に取ると添えてあった手紙がはらりと落ちた。

「これを着て見せたらラシード君、絶対喜ぶわよ……って、母様……。絶対無理!」
「何が無理なんだい?」

そこへ一番見られたくない相手がやってきた。慌てて隠すがもう手遅れで、母の贈り物はあっさりとラシードの手に渡った。

「いいねぇ。早速、今夜着てみて」

ファラは涙目で断ったが、極上の笑顔でおねだりされ、結局、その夜はそれに袖を通すことになる。
結果……ラシードが盛ってしまい、翌朝ファラは足腰が立たなくなっていた。結局乗馬服も着れず、彼の部下が手配した馬車で移動することになったのだった。

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