群青の空の下で(修正版)

花影

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第3章 ダナシアの祝福

6 もたらされた恩恵2

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「ああ、着いたようだな」
 飛竜を通じて何かに気付いたらしい殿下が呟いた。何だろうかと思っていると、村で息子の手助けをしている若者がおずおずとした様子で呼びに来た。
「すみませんが来て頂けませんか?」
 息子が腰を上げると、「では、我々も行こうか」と言って客も皆立ち上がる。老人達も促されて外に出てみると、家の前には10頭の綿羊がいて少し怯えたように鳴いていた。いずれもまだ子供で、質のいい毛並みをしている。
「こ、これは……」
「この村では以前、綿羊を育て、その刈った毛で収入を得ていたと聞いた。親族共が不正の目くらましにここの放牧地を取り上げ、綿羊も手放さざるを得なかったとも……」
 ここで一度言葉を切ると、殿下は妻子の肩を抱く。
「この村の方々……特にあなたが決死の思いで作ってくれた手形のおかげで私は妻子と再会できた。これは私個人からのお礼です。どうかお役立てください」
「で、ですが、既に放牧地を頂いております」
 僅かばかりではあるが、召し上げられた時に金を受け取っている。それが今回は無償で土地を返してもらったのだ。
「ラグラスやヘデラ達によって牛耳られ、不正が随所で行われてきた。放牧地の返還はその補てんとして行われたものだ。いわば政策の一環としてのものだ。対してこの綿羊は私個人からのお礼だ。どうか受け取ってもらえないだろうか?」
「どうか、お受け取りください。必要な物を揃えていただいたおかげで私達は楽に旅を続けることが出来ました。この子も無事に生まれ、こうして再会できたのも全て皆様のおかげです」
 殿下や女大公に頭を下げられ、結局、綿羊を受け取ることになった。今、放牧地でのんびり草を食んでいるのはその時譲られた綿羊達だった。
 あの後、放牧地に綿羊達を放すのを見届けると、恐れ多いお客達は二手に分かれて帰って行った。先ずは女大公の養父母が、娘と別れを惜しむ様に抱擁してから一団を率いて南に向かった。それを最敬礼で見送ったタランテラの一行は、再度老人達に頭を下げると北に向かって飛び立っていった。

 あの、空を覆い尽くす程飛竜が舞う光景は1年以上たった今でも村人達の語り草となっている。



「ここでしたか、父さん」
 声をかけられて振り向くと、息子が立っていた。
「なんだ、ここへ来て良いのか?」
「居ても邪魔だからと母さんに追い出された」
 息子は1年前に以前から懇意にしていた幼馴染と結婚した。仲睦まじい彼等の間にはすぐに子供ができ、そしてそのお嫁さんが今朝産気づいたのだ。お産が長引き、気が気ではないのだが、オロオロするばかりで邪魔だからと母親に家を追い出されてしまったらしい。
「そうか……」
 老人はそう答えると視線をまた綿羊達に向けた。息子も今は何も手につかないらしく、隣に座り込むと同じように綿羊を眺める。
「村長! 生まれましたよ!」
 しばらくして村の子供が息子を呼びにやってきた。
「本当か?」
 息子は立ち上がると、すぐに村へと駆け戻って行く。あまりに急ぎ過ぎ、途中で蹴躓《けつまず》いて盛大に転んで泥まみれとなっていた。
「やれやれ……」
 あのままではすぐに子供を抱かしてはもらえまい。息子の慌てぶりに苦笑しながら老人は立ち上がった。
「本当に、平和じゃのう……」
 老人の言葉に賛同するかのように、側に居た綿羊が一声鳴いた。もう一度のどかな風景を見て満足すると、老人は孫を抱くべく村に向かって歩き出した。


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おまけ

なろう版でやってみた企画 その1
作者の野望
自前のキャラで人気投票をやってみるのがずっと憧れで、本編終了を記念して踏み切った企画。
登場人物がかなり多いので、カップル限定で決行。

★其の1
 やはり王道。エドワルド&フレア ヒーロー&ヒロインカップル。

★其の2
 お互い一目ぼれ。ルーク&オリガ 純情カップル。

★其の3
 見てよし、触ってよし、鍛えてよし! リーガス&ジーン 筋肉大好きカップル。

★其の4
 口論がコミュニケーション。アスター&マリーリア 意地っ張りカップル。

★其の5
 恋愛沙汰は10年後。ティム&コリンシア お子様カップル。


結果はルークとオリガがダントツで1位でした。
今、煮詰めている段階ですが、ルークをメインにした続編を予定しております。
気長にお待ちいただけたら幸いです。


12時に次話を更新します

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