群青の空の下で(修正版)

花影

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第1章 群青の騎士団と謎の佳人

51 慌ただしい帰還2

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 ルークは3頭の飛竜達を特別に用意されている厩舎に連れて行き、ティムと共にそれぞれの装具を外してやっていた。昇進したと言っても下端であることにかわりはないし、何よりも実感がない。こうした雑務をするのは当たり前だと思っている。長旅をした3頭をそれぞれ労い、ブラシで全身をこすりながら体の状態を確かめる。そして細かい傷があったエアリアルとファルクレインに軟膏を塗りこんでおいた。
「ルーク卿、飛竜達のお食事はこれでいいですか?」
 飛竜の食事の調達を頼んだティムに代わり、オリガが瓜で山盛りとなった桶を抱えて持ってきた。見るからに重そうで、あわてて彼は代わりに持つ。
「ああ、ありがとう。代わるよ」
 飛竜は雑食なので基本的に何でも食べるが、瓜は好物の一つだった。これからの暑い時期には水分も同時に補給できるので好むらしい。ルークはオリガにも手伝ってもらい、3頭の飛竜に瓜を公平に配る。飛竜達に食事をさせながらルークは聞かれるままに皇都での夏至祭の様子や、飛竜レースの事を話して聞かせる。
「お守りありがとう、本当に励みになったよ」
「お役に立てて嬉しいです」
 オリガは頬を染めて応える。余計な事だったかと思いながらも、恩人であるルークに何かしたくてあのお守りを渡したのだ。
 桶は既に空になっており、満足した飛竜達は寝藁で丸くなっている。昨夜からの強行軍はさすがの彼らも疲れたのだろう。ルークは飛竜達が眠ったのを確認すると、竜舎の風通しのいい場所にオリガを誘う。
「本当におめでとうございます。身近におられる方が一番手だと聞くと、なんだか嬉しいですね」
「ありがとう。たくさんお祝いを言ってもらったけど、その……君に言われるのが、一番嬉しい」
 オリガの祝いの言葉に、ルークは顔を赤らめながら答える。このまま告白してしまおうと決意しているのだが、緊張が高まってくる。
「ルーク卿?」
 オリガは微妙な空気の変化を感じ取ったのか、不思議そうにルークを見返す。
「あの、お、俺は竜騎士だし、どうしても一番はエアリアルになってしまうと思う。そ、それでもその、良かったら、その、好きだから、付き合ってくれないか?」
 言う事を考えていたはずなのに、思うように言葉が出ない。ルークは懐から皇都で買ったお土産を差し出して精一杯の告白をする。
「……」
 オリガの返事がなく、やっぱりダメかなとルークは心の中であきらめた。だが、ルークの手にオリガの手がそっと添えられる。
「…嬉しい」
「…オリガ?」
 恐る恐る顔を上げてオリガの顔を見ると、彼女は感極まっているようで涙を浮かべている。
「ずっと、好きだったんです……」
 オリガの告白にルークは頭の中が真っ白になる。
「オリガ……」
「最初に助けてもらった時からずっと憧れて……」
「本当に?」
「はい」
 オリガは小さく頷き、差し出された包みを受け取る。薄い綺麗な紙で包んでくれていたのだが、少しだけ皺が出来てしまっている。促されて包みを開けると、使われているレースの繊細な美しさに彼女は見とれる。
「あの、いいの?」
「うん、使って」
 初々しい2人はしばらくそのまま固まってしまったかのように見つめあっていた。ルークはこの流れに乗ってキスしてしまおうかと悩み、思い切ろうとしたところで母屋の方からオリガを呼ぶ声が聞こえた。
「あ…行かないと……。お土産、ありがとうございます」
 オリガはルークに頭を下げると、あわてて厩舎を後にする。彼は少し残念な気持ちを抱えながら、のぼせた頭を汲んだ井戸水を被って冷ました。ふと視線に気づいて乾いた布で頭を拭きながら振り返ると、厩舎の入口に何故か笑いを堪えたアスターが立っている。
「副団長?」
 不審に思ってルークが声をかけると、彼は堪えきれずに笑い出す。
「お前なぁ、嘘はつけないからって、告白するのに一番は飛竜だと断りを入れる奴があるか」
「え?……見ておられたのですか?」
 ルークは真っ赤になって慌てる。
「直接見ていないが、ファルクレインが見ているから全て筒抜けだ」
 ルークははっとして厩舎を覗くと、寝ているとばかり思っていた飛竜達が起きている。素知らぬ顔をするファルクレインの隣にはグランシアードもしっかりと起きてこちらを見ていた。
「まさか……団長にも……」
「今頃、大笑いしておいでだ」
「……」
 後悔しても、もう遅い。ルークはその場で打ちひしがれる。
「その殿下から伝言だ。コリンシア様がお戻りになったら、夏至祭の報告を兼ねたお茶会となる。そして夜は君の飛竜レース一位帰着とリーガスの武術試合準優勝、ジーンとの結婚祝いを兼ねた祝いの席を設けてくださるそうだ。お茶会は正装までしなくていいが、晩餐は正式なものになる。着替えを用意しておけ」
 それだけ伝えると、アスターはファルクレインに装具を整えて連れ出していく。一度、ロベリアに戻るのだろう。
 ルークはしばらくショックから立ち直る事が出来なかった。
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